家族が支え合い、立ち向かう物語
――出入国管理法(入管法)や入管について、これまでに見聞きしたり、意識したりしたことはありましたか?
それまでニュースで聞いたことはありましたけれど、初歩的なことも全く知らなくて。私もミユキさんと同じく、あまり知識がない状態でいろいろ知っていった感じです。
――原作を読んで、ミユキさんのどんなところに惹かれましたか?
ミユキさんは、相手が外国人だからといって構えることなく、誰に対してもまっすぐな人だなと思って。他人に頼らずに生きてきたシングルマザーですが、そんな中で悩んだりする部分を見ていると、とても応援したくなる人。本当に温かくて、クマさんだけでなく自分の母親や娘のマヤちゃんなど、お互いを思いやる家族の姿が心に響いて。家族がお互いを支えながら、どうやって立ち向かっていくのか、その部分にすごく心を惹かれましたね。
私自身、子供を産んでから自分の中で仕事と子育てのバランスを探っていて、長時間の仕事は難しいなと感じていたのですが、スリランカの方との家族の物語は、自分にとってもすごい挑戦だと感じて。中島京子さんの原作が素晴らしいのはもちろんですが、チャレンジする意味でも、ミユキさんを演じたいと思いました。
――本は、どんな時に読みますか?
子供を産む前は、移動中や寝る前、あとは1人でカフェにいる時などに本を読むことが多かったのですが、最近は子どもが小さいこともあり、なかなか時間が取れなくて。何年か前に読んで今も記憶に残っているのは、西加奈子さんの『サラバ!』と、ブレイディみかこさんの作品です。『やさしい猫』はステキな家族の物語だったから、もう集中して一気に読みました。
オミラさんの演技に心が揺り動かされた
――クマさん役のオミラ・シャクティさんは演技経験ゼロで、普段は事務の仕事をしていると聞きました。オミラさんは優香さんの目には、どう映りましたか?
クマさんの役とオミラさんが一緒になっているというか、実際のオミラさんも、クマさんみたいな感じだったんです。とても謙虚で礼儀正しくて、私の気持ちをいつも分かってくれるところがあって。役と本人に境目がないというか、オミラさんが話しているとクマさんと話しているような、不思議な感覚を味わえました。だから私もずっと新鮮な気持ちでいられて、お芝居をしているんですけどそうじゃないというか。彼の目を見ていると、奥底にある思いが湧き出ている感じがするので、私もそれをきちんと受けとめなきゃって、心が自然に揺り動かされました。
――演技が初めてというオミラさんとの、思い出深いシーンを教えて下さい。
たくさんあります! 全5話なのですが、第1話は楽しいエピソードが多いのに、第2話からどんどん重い話になっていきます。クマさんが入管施設に収容された時もそうですし、その影響で娘のマヤとも気持ちがすれ違ってしまうのが辛くて。それまで、ケンカらしいケンカをしない親子だったのに、自分の方を見てくれない母親にマヤが気持ちをぶつけるシーンは、私にとってとても辛いものでした。
ミユキさんもどんどん一人ぼっちになってしまって、クマさんと待ち合わせた場所の前で、彼がいないことを悲しんだりして。だから私は、プロポーズされるハッピーなシーンが一番好きです。オミラさんも、プロポーズするというので手に汗を握って緊張していて。彼を見ていると、お芝居を忘れるような感覚になることがありましたね。
優しい気持ちになれる物語
――現在、入管に家族の誰かが収容されていたり、マヤの友人のクルド人少年・ハヤトのように仮放免状態で滞在していたりする人は、日本のあちこちにいます。そんな人たちにとって、緻密な取材を重ねた『やさしい猫』はとても大切な小説で、ドラマのオンエアを心待ちにしている人も多いのではないかと思います。
このドラマで入管について知る方もたくさんいらっしゃると思うし、原作のファンだからドラマを見てくださる方もいると思いますが、この作品を通していろんな事情を抱えてる人たちがいるんだっていうことを知ってもらえたら、と思っています。
ハッピーなことばかりではないお話ですが、まさに優しい気持ちになれる物語ですので、そんな部分をぜひ一緒に、感じながら見ていただけたらと思っています。