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トイアンナさん「ハピネスエンディング株式会社」インタビュー 毒親、宗教2世…連鎖断ち切る「模擬葬儀」|好書好日
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トイアンナさん「ハピネスエンディング株式会社かぶしきがいしゃ」インタビュー どくおや宗教しゅうきょう2せい連鎖れんさる「模擬もぎ葬儀そうぎ

トイアンナさん=家老がろう芳美よしみ撮影さつえい

共感きょうかんしゃいないとおもっていた」

 慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく卒業そつぎょうし、外資がいしけい企業きぎょうはたらき、恋愛れんあいアドバイスをおこない――といった経歴けいれきくと、とてもはなやかにおもえるかもしれない。そのあゆみをもとに、おおくのひとさるメッセージを発信はっしんつづけているのだが、“どくおや”といわれるおやのもとでそだったという経歴けいれきもまた事実じじつである。

 「2014ねんごろからいていたブログで、『おや料理りょうり下手へたで、メシマズ』みたいに、よくむとこれは虐待ぎゃくたいづくひとがいるかもしれないけど、ネタてきくことで、あまり深刻しんこくえないようにして、たまに発信はっしんしていました。おやはいわゆるスピリチュアルけいで、わたし宗教しゅうきょうせいでもありました。でも、当時とうじどくおや宗教しゅうきょうせいなんて言葉ことばはなく、そんなことを発信はっしんしても、共感きょうかんしゃがいないとおもっていました」

 そんなトイアンナさんが、どくおや宗教しゅうきょうせいについていてもいいかも、とおもうにいたるには、いくつかのきっかけがあった。そのひとつが、新興しんこう宗教しゅうきょう幸福こうふく科学かがく」の大川おおかわたかしほう総裁そうさい長男ちょうなん大川おおかわひろしひろしさんとったことだった。宗教しゅうきょうせい同士どうしおや特徴とくちょうてき言動げんどうなど、“あるあるネタ”でおおいにがったという。

 「大川おおかわひろしひろしさんが経営けいえいするバーにって、いままでひとにはわかってもらえないとおもっていたことを共感きょうかんしあえたことで、ニッチな分野ぶんやかもしれないけど、いてもいいかもとおもえたんです」

距離きょりたもつためのフィクション

 ただ、トイアンナさんは、物書ものかきとしていちどくおやについて執筆しっぴつすると、その発信はっしんしつづけなくてはらないのではないかというおそれがあったという。

 「どくおやってものすごくおおきなテーマなので、わたしがどうなおったかをくと、『わたしくるしんでいました』という反響はんきょうて、それにこたえるべくまたいて……というかえしになりそうながしたんです。おやのことを延々えんえんきたくなかったですし、どくおやまった関係かんけいない人生じんせいあゆむことこそ、どくおやえることだとおもうので」

 そんななか、トイアンナさんは、フィクションであれば、おななやみをかかえる読者どくしゃがわも、一種いっしゅのコンテンツとして一定いってい距離きょりたもちながら共感きょうかんしてもらえるのではないかとかんがえるようになった。

 『ハピネスエンディング株式会社かぶしきがいしゃ』の主人公しゅじんこうである大学だいがく年生ねんせい智也ともやは、どくおやとは無縁むえん家庭かていそだった、どこにでもいる青年せいねんだ。かれはある学内がくない掲示けいじ求人きゅうじん情報じょうほうで、「エンディング業界ぎょうかいのベンチャー」の長期ちょうきインターン募集ぼしゅうつける。この会社かいしゃ業務ぎょうむとしてっているのが、「模擬もぎ葬儀そうぎ」というものだった。

 これは、きているうちにやる葬儀そうぎのリハーサルのことなのだが、立派りっぱ葬儀そうぎとどこおりなくげるための予行よこう演習えんしゅうではなく、おやから虐待ぎゃくたいされてきたどもが、疑似ぎじでもいいからおやころし、葬儀そうぎをして因縁いんねん決別けつべつすることを目的もくてきとしたものだ。智也ともやはその業務ぎょうむ内容ないよう戸惑とまどいつつも、インターンとしてはたらはじめることになる。

 「模擬もぎ葬儀そうぎ」をおもいついたのは、2020ねんに、おなじくどくおやちの友人ゆうじんんでいたときのことだった。どくおやからながらく虐待ぎゃくたいされたひとなかには、自分じぶんもどすために精神療法せいしんりょうほうけるひともあり、トイアンナさんもその一人ひとりだった。しかし、精神療法せいしんりょうほう保険ほけん適用てきようされないため、多額たがく費用ひようがかかる。

 「おかね時間じかんもかかるので、もっと手軽てがるどくおやちのどもがむくわれる手段しゅだんはないかとはなしをしていました。自分じぶん気持きもちにケリをつける手段しゅだんとして、その友人ゆうじん模擬もぎ葬儀そうぎ会社かいしゃ起業きぎょうしたいというのですが、その試算しさんして絶対ぜったい採算さいさんれないだろう、という結論けつろんたっしました。でもフィクションのなかならできるんじゃないかとおもったんです」

 恋愛れんあい就職しゅうしょくかんするノウハウほんおお執筆しっぴつしていたトイアンナさんだが、小説しょうせついたことはなかった。しかし、すごい偶然ぐうぜんから編集へんしゅうしゃとつながることになる。

 「ほんいてみようとおもった直前ちょくぜんに、わたしがある事件じけんまれて包丁ほうちょうされたことがあったんです。当時とうじかよっていたバーで、『マスターいてよ! わたしされたんだけど、マジありえなくない?』といかりのシャンパンをれて、となりせきひとにもったら、そのひと小学しょうがくかん編集へんしゅうしゃだったんです(笑)」

半分はんぶんノンフィクション」

 ほんさくには、さまざまなどくおや登場とうじょうする。いい学校がっこうはいるために勉強べんきょう強要きょうようし、できなければ体罰たいばつなどをあたえる教育きょういく虐待ぎゃくたい薬物やくぶつ依存いぞん母親ははおやによる性的せいてき虐待ぎゃくたいなど、主人公しゅじんこう智也ともやおな目線めせんで、想像そうぞうをはるかにえたどくおや事例じれい言葉ことばうしなうことになる。

 「どくおやってもらうには、サンプルをせるしかないとおもったので、いろんな当事とうじしゃはなしいて依頼いらいしゃのストーリーをつくっていきました。なので、半分はんぶんノンフィクションのようなものです。また、どくおやちのひとがこのほんんだときに、『もしかしてわたしおやはこれだったのかも』と、ちかしい事例じれいつけてもらいたいという気持きもちもあり、どくおやのバリエーションをやしました」

 模擬もぎ葬儀そうぎ希望きぼうする依頼人いらいにんは、幼少ようしょうからおや肉体にくたいてき精神せいしんてき虐待ぎゃくたいけてきた。なんとか大人おとなになれたものの、おや呪縛じゅばくからはそう簡単かんたんのがれられず、因縁いんねんられずにいる。なかには、交際こうさい相手あいて暴力ぼうりょくるうなど、おやにされたこととおなじことをするひともいる。

 「被害ひがいしゃがまた被害ひがいしゃ事例じれいすくなくありません。たとえば、おやからなぐられつつもなんとか東大とうだい合格ごうかくしていい就職しゅうしょくができると、おな教育きょういく方法ほうほうどもにけることがあるんです。以前いぜんは、虐待ぎゃくたいは7わりくらい連鎖れんさするとわれていましたが、最新さいしん調査ちょうさでは3わりくらいという結果けっかもあります。なので、どくおやのもとでまれそだったひとは、『たった3わりか』と安心あんしんしてほしい。ただし、連鎖れんさしないためには、なんらかの方法ほうほうで1かいうらみをらす必要ひつようがあります」

 小学生しょうがくせいころから自殺じさつ未遂みすいかえしていたトイアンナさんが、おや呪縛じゅばくることができたのは、20だい前半ぜんはんけた精神療法せいしんりょうほうだった。1ねんかけて積年せきねんうらみを専門せんもんかたり、すこしずつ解消かいしょうしていくことができたという。ほかにも、おやより成功せいこうして社会しゃかいてき発散はっさんする、体験たいけんつづって自分じぶん過去かこ客観きゃっかんてきえていく、といった方法ほうほうもあるとトイアンナさんはう。

 「精神療法せいしんりょうほうは、過去かこ記憶きおくあらいざらいはなすので、小説しょうせつえがいた模擬もぎ葬儀そうぎているところがあります。はなしたうえで、だれかに共感きょうかんてきめてもらえる体験たいけんかえしたことで、自分じぶんはもうどくおやにとらわれなくてもいい、とおもえるようになりました。もし身近みぢかひとどくおやちでくるしんでいたら、そのおもすぎるはなしめることはできないにしても、『どうしてそうなったの?』などと余計よけいなことはかず、ただ『そうなんだ』とだけって共感きょうかんしてあげてほしい。そのうえで、『どうせっしたらいいかわからないけど、なにをつけてほしいことはある?』といてみてください。それだけでも、当事とうじしゃしんかるくなるとおもいます」

絶縁ぜつえんしない解決かいけつさくもある」

 この小説しょうせつ執筆しっぴつちゅう結婚けっこん妊娠にんしんし、出産しゅっさん1カ月かげつほんさく出版しゅっぱんされた。かつては、「自分じぶん結婚けっこんしてどもを資格しかくはない」とおもんでいた時期じきがあったという。自分じぶんおやからあたえられた以外いがい子育こそだ方法ほうほうらず、おなじことをやってしまいそうだという危機ききかんがあったからだ。

 「ははいぬはじめて、そのいぬ無理むりやりげいをさせようとしていたのですが、いぬおもどおりにうごかなかったので、あたまさえつけていたんです。それをて、『わたしはこんなことをやる人間にんげんには絶対ぜったいならない!』とおもえました。もしかしたらわたしにも子育こそだてできるかもとおもえたのはこのときですね」

 現在げんざい生後せいご3カ月かげつどもをそだてているトイアンナさんだが、実際じっさいそだててみて、おやどもをあいするものだとおもっていたのだが、どものほうおやあいしてくれていることにづいたことが、最大さいだいおどろきだったという。

 「どもはこんなにおやあいそうとしてくれているのだから、わたしどもにしていることは、たんどもにそのおかえしをしているだけ。自分じぶんしたってくれるどもに虐待ぎゃくたいできるおやはなかなかすごいな、とおもいました。どくおやって、ちゃんとしなくてはいけない、いいおやでいたいとかんがえる真面目まじめひとおおいんです。わたし真面目まじめなので、きちんとできないことがたくさんあるし、きっといいおやじゃない。それでも、どもがすこやかにそだってしあわせになってくれればそれでいい」

 ほんさく登場とうじょうするどくおやちの依頼人いらいにんすべてが、かならずしもおや呪縛じゅばくからのがれられるわけではない。それでも、なにかひとつ行動こうどううつすことができたという事実じじつが、そのさき人生じんせいいちせきとうじることになるはず。トイアンナさんは、そんなメッセージを物語ものがたりんでいる。

 「虐待ぎゃくたいけたひとが、おやにくみ、にくしみを発散はっさんできるところにいたるまで、かなりの時間じかんようします。どくおや関連かんれんほんむと、『絶縁ぜつえんしておやからげろ』というアドバイスがおおいのですが、絶縁ぜつえんしない解決かいけつさくもあるとおもうんです。絶縁ぜつえんすると、遺産いさんなどもらえるものももらえなくなりますし(笑)、あえて最低さいていなことをうと、おやようられなくなる。デヴィ夫人ふじんがトークイベントで、『ころされるかとおもったり、地獄じごくのような日々ひびもありましたが、100さいまで元気げんききようとおもいます。わたしてきすべぬまで』とっていました。

が、100さいまで元気げんききようとおもいます。わたしてきすべぬまで』という一文いちぶんがありました。自分じぶん人生じんせい最初さいしょに、おやというにくひとができてしまったという不幸ふこうを、こういうかんがかたけるのもありだとおもうんです」

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