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獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント|好書好日
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しし医師いし仕事しごとむねあつく 藤岡ふじおか陽子ようこさんがかた執筆しっぴつ舞台裏ぶたいうら 「リラのはなくけものみち」刊行かんこう記念きねんトークイベント

藤岡ふじおか陽子ようこさん=松嶋まつしまあい撮影さつえい

獣医じゅういさんになりたい」とつづけたむすめ

――獣医じゅういがくをテーマに設定せっていされた理由りゆうおしえてください。

藤岡ふじおか じつわたしむすめ北海道ほっかいどうにある酪農学園大学らくのうがくえんだいがくしし医学部いがくぶ所属しょぞくしていまして、大学だいがく4年生ねんせいなんですね。むすめ保育園ほいくえんはいまえぐらいからずっと動物どうぶつ大好だいすきで、保育園ほいくえんそつえん文集ぶんしゅうにも「将来しょうらいゆめ獣医じゅういさんになりたい」といていましたし、小学校しょうがっこう中学校ちゅうがっこう高校こうこうとまったくブレることなく、「獣医じゅういさんになりたい」とつづけて。勉強べんきょう正直しょうじきあんまりしなかったんですけれども、それでも高校こうこう3年生ねんせいのときは志望校しぼうこうしし医学部いがくぶはいるために、いままでで一番いちばん勉強べんきょうをして、しし医学部いがくぶはいったんです。

 彼女かのじょはなしいていると、大学だいがく動物どうぶつ実験じっけんでは動物どうぶつ犠牲ぎせいにすることもあるんですよ。んでいるいぬ解剖かいぼうがあったり、きてるネズミにメスをれなくてはいけなかったりと、すごく過酷かこくでしんどい勉強べんきょうがたくさんある。動物どうぶつ大好だいすきでしし医学部いがくぶはいったが、そういう動物どうぶつ犠牲ぎせいにするようなしんどい実習じっしゅうをする。むすめはどうやってえていくのかなとおもったときに、獣医じゅういがくをテーマにした物語ものがたりいてみたいなとおもいました。

――主人公しゅじんこう岸本きしもとさとしさとかさなる部分ぶぶんかんじられました。藤岡ふじおかさんとしても動物どうぶつ身近みぢか存在そんざいだったのですか。

藤岡ふじおか そうですね。あねかわひろってきたり、おとうと友達ともだちからもらってきたりして、実家じっかではずっといぬっていました。でもどもたちは、かわいがるときだけかわいがるかんじで、いぬ世話せわをするのは、全部ぜんぶははだったんです。

 わたし両親りょうしんは、わたし成人せいじんしてから離婚りこんしたのですが、 離婚りこんするぐらいなので、ずっとなかわるかったんですね。あんまりいい雰囲気ふんいきではない家庭かていで、ども時代じだいおくっていた。でもそこにワンちゃんがいたことで、自分じぶん自身じしんいやされていたなとおもうし、なにより一番いちばんいぬ一緒いっしょにいたはは一番いちばんいぬいやされていたのではないかなと、自分じぶん大人おとなになっておもうんです。

 だから、いまになってってきた歴代れきだいいぬにすごく感謝かんしゃをしているんですね。ありがとうといたいなという気持きもちもあって、『リラのはなくけものみち』というほんなかでは、いぬたいする愛情あいじょうふか主人公しゅじんこうつくりあげていきました。

動物どうぶつ本心ほんしんしかない

――主人公しゅじんこうさとしさといぬすくわれてしし医師いしこころざすわけですが、藤岡ふじおかさんのお母様かあさま気持きもちがもしかしたら投影とうえいされているのかもしれませんね。

藤岡ふじおか そうですね。ほんなかにもいたんですけど、動物どうぶつって本心ほんしんしかないじゃないですか。うそをついたり、「このひとにいいようにしたら、見返みかえりがあるんじゃないかな」などとややこしいことをかんがえたりしなくて、本心ほんしん自分じぶんせっしてくれる。

 だから、すごく安心あんしんできる存在そんざいだとおもうんですね。くるしい環境かんきょうにいる主人公しゅじんこうにとって、そういう存在そんざいが1つあったということが大事だいじだったのではないでしょうか。

――『リラのはなくけものみち』をかれるにあたり、むすめさんにおはなしいたり、どこかに見学けんがくったりしたのですか?

藤岡ふじおか はい。じつわたし平成へいせい17(2005)ねんから看護かんごとしてはたらいているのですが、獣医じゅういがくのことはまったく知識ちしきがなくて。むすめしし医学部いがくぶはいったときに、獣医じゅういがくとはどんなものだろうとおもって、むすめ勉強べんきょうをのぞいてみたんです。すると、うまうしとりいぬねこ……いろんな動物どうぶつ解剖かいぼう生理せいりおぼえなくてはいけないので、看護かんご勉強べんきょうよりはるかにむずかしいなとおもいましたね。

 人間にんげんなら大人おとなどもか、女性じょせい男性だんせいかぐらいの区別くべつしかありませんが、動物どうぶつ本当ほんとうにたくさんの種類しゅるいがあって、その全部ぜんぶ骨格こっかく生理せいりおぼえなくてはいけませんし、いぬしゅによって使つかえるくすりちがったりするので、すごくむずかしい。

 だから獣医じゅういがくをテーマにした小説しょうせつくには、獣医じゅうい学生がくせいしし医師いし方々かたがた取材しゅざいしないといけないとおもって。当時とうじむすめ大学だいがく1年生ねんせいでしたが、大学だいがく1年生ねんせいかる獣医じゅういがくのことなんてれているので、6年生ねんせい獣医じゅうい学生がくせいかたたちを紹介しょうかいしてもらい、直接ちょくせつ取材しゅざいしました。

 大学だいがく6年生ねんせいならば獣医じゅういがく勉強べんきょういちとおえているので、 1年生ねんせいのときはなにをやったか、2年生ねんせいのときはなにをやったか、いままでで一番いちばんおものこ勉強べんきょうはなにか……。いろいろこまかいはなしきながら、獣医じゅうい学生がくせいはどういうものなのか、自分じぶんなか知識ちしきにつけていきました。

 うしうまといったおおきな家畜かちくで、食肉しょくにくとしてられていくだい動物どうぶつせんもんしし医師いしがいるのですが、そのだい動物どうぶつしし医師いしさんの取材しゅざいをさせてほしいと酪農学園大学らくのうがくえんだいがくさんにたのんだこともあります。すると、なつあいだおこなわれる「NOSAI臨床りんしょう実習じっしゅう」でだい動物どうぶつ実習じっしゅうができるので、 そちらでたのんでみてくださいとわれ、農業のうぎょう共済きょうさい組合くみあい連絡れんらくをして交渉こうしょうをしました。

 コロナだったので、なかなか取材しゅざいはいることがむずかしかったのですが、むすめ同行どうこうなら許可きょかしますというお返事へんじをいただけたんですね。むすめ参加さんかしてくれるというので、鹿児島かごしまけんにある農場のうじょうに5はく6にち臨床りんしょう実習じっしゅうって、あさ8から夕方ゆうがた5まで、しし医師いしさんののちについて農場のうじょうまわって、取材しゅざいをして……その結果けっか文章ぶんしょうにしました。

獣医じゅういがく人間にんげんのためのものでもある

――なかなか大変たいへん取材しゅざいだったのでは?

藤岡ふじおか そうですね。コロナだったので、ふくうえしろなビニールの防護ぼうごふくるんですよ。サウナスーツのようなあつさで農場のうじょうまわるので、本当ほんとうにきつくて・・・・・・。わたしはまだ取材しゅざいとして、っていているだけですが、獣医じゅういさんやむすめしがらみえて、300キロもあるうしをおさえつけて、注射ちゅうしゃをしたりしているわけです。

 わたし自身じしん大変たいへんでしたけれども、そのだい動物どうぶつ獣医じゅういさんのダイナミックな仕事しごとぶりをまざまざとて、本当ほんとうにずっとむねあつくなりました。

――このほんかれて、ご自身じしん獣医じゅういがくたいするかんがかたわりましたか?

藤岡ふじおか はい。そもそも獣医じゅういがくというものを全然ぜんぜんらなかったんですけど、このほん執筆しっぴつつうじて、しし医療いりょう人間にんげん医療いりょうはすごく密接みっせつしているんだなということをることができました。

 ほんなかにもいていますが、抗生こうせい物質ぶっしつかない感染かんせんしょうたいしておこな治療ちりょうほうに「ファージセラピー」という治療ちりょうほうがあるんです。抗生こうせい物質ぶっしつかない細菌さいきんだけをべるバクテリオファージを動物どうぶつたちのからだなかれて、その細菌さいきん退治たいじさせるわけですが、その臨床りんしょう実験じっけん酪農学園大学らくのうがくえんだいがく日本にっぽんはじめて成功せいこうさせているんですね。

 わたし看護かんごなので、抗生こうせい物質ぶっしつかない皮膚ひふびょう肺炎はいえん患者かんじゃさんをたりにしてきました。いま日本人にっぽんじん死因しいんだい1ががんですけども、2050ねんには薬剤やくざいかない感染かんせんしょうが1になるという予想よそうがあるほど深刻しんこく問題もんだいなんですね。そのときにこのファージセラピーという、こん動物どうぶつ実験じっけんされている治療ちりょう臨床りんしょうきて人間にんげんいのちすくうかもしれない――。

 そのはなしいたときに、獣医じゅういがく動物どうぶつのためだけではなくて、人間にんげんのためのものでもあるんだなとかんじたんです。それがこのほんくなかで、わたし自身じしんいちばんまなんだことですし、おおくのほうにもってほしいことですね。

 2050ねんいまから27ねんわたしはそのとき79さいなんですけど、そのときにファージセラピーがわたしたすけるかもなんておもうと、ゆめがありますよね。研究けんきゅうしゃ学生がくせいさんがあつくご自分じぶんたちの研究けんきゅうかたってくださって、懸命けんめい努力どりょくされている姿すがた感動かんどうしました。

いちまえ物語ものがたり

――最後さいごにこのほんをどんなほうんでしいかおしえてください。

藤岡ふじおか わたし小説しょうせつになって15ねん。『リラのはなくけものみち』をれて19さくほんいているんですけど、その半分はんぶん以上いじょうつよ性格せいかく主人公しゅじんこうつよひとがどんどんみちひらいていくというような小説しょうせついてきました。

 この『リラのはなくけものみち』は家庭かてい環境かんきょうめぐまれず、つらい幼少ようしょう時代じだいおくってきた主人公しゅじんこういちまえ物語ものがたり。だからどういうほうんでほしいかなとかんがえたときに、いま自分じぶん頑張がんばりたくてもなかなか頑張がんばれないとか、いちまえられないとか、勇気ゆうきないとか、そういうおもいをかかえたどもたちにもんでもらいたい。

 それから主人公しゅじんこうささえる祖母そぼのように――祖母そぼ自分じぶん人生じんせいをかけて、まご将来しょうらいささえて後押あとおししていくんですけども、これから未来みらいある若者わかものたちにたいしてなにかやってあげようという気持きもちがわたしにもあるんです。わたしおなおや世代せだいほうにもんでもらいたいなともおもいます。

司会しかいは「このみしょ好日こうじつふく編集へんしゅうちょう吉野よしの太一郎たいちろう

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