「モニュメント原論げんろん」書評しょひょう　平和へいわプロパガンダと女性じょせい裸体らたい像ぞう

評者ひょうしゃ：椹さわら木野この衣ころも／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2024年ねん01月がつ20日はつか

モニュメント原論げんろん思想しそう的てき課題かだいとしての彫刻ちょうこく著者ちょしゃ：小田原おだわらのどか出版しゅっぱん社しゃ：青土おうづち社しゃジャンル：芸術げいじゅつ・アート

ISBN: 9784791774555
発売はつばい⽇： 2023/11/14
サイズ: ２０ｃｍせんちめーとる／６１３ｐ

「モニュメント原論げんろん」　［著ちょ］小田原おだわらのどか

　この国くにには街まちや公園こうえんの随所ずいしょで女性じょせいの裸体らたい像ぞうが立たっている。なぜ「裸はだかの女おんな」なのか。本書ほんしょによると、日本にっぽんの公共こうきょう空間くうかんに「平和へいわ」を冠かんするその第だい一いち号ごうがお目見めみえしたのは１９５１年ねんのこと。東京とうきょう・三宅みやけ坂ざかに「平和へいわの群像ぐんぞう」と題だいされた三さん体たいの彫刻ちょうこくが設置せっちされた。同おなじ台座だいざには、戦時せんじ中ちゅうには軍閥ぐんばつの力ちからの象徴しょうちょうとして「寺内てらうち元帥げんすい騎馬きば像ぞう」が置おかれていた。
　ところが戦時せんじ中ちゅうの物資ぶっし不足ふそくで騎馬きば像ぞうが金属きんぞく回収かいしゅうされると台座だいざだけが残のこされる。そこに戦後せんご、当時とうじの電通でんつう社長しゃちょう、吉田よしだ秀雄ひでおの指針ししんで「軍服ぐんぷくを脱ぬぎ捨すてた『三さん美神びしん』」を建立こんりゅうし、新生しんせい日本にっぽんの平和へいわと自由じゆうを「広告こうこく宣伝せんでんとタイアップの彫刻ちょうこく」により広ひろく演出えんしゅつしたのだ。著者ちょしゃはそこに連合れんごう国軍こくぐん総そう司令しれい部ぶ（ＧＨＱ）が関与かんよした可能かのう性せいについても触ふれている。
　街まち中ちゅうに氾濫はんらん（はんらん）する女性じょせいの裸体らたい像ぞうは、この平和へいわの宣伝せんでん戦略せんりゃく（プロパガンダ）が行いき届とどいた結果けっかだった。だが、そのことで起源きげんは忘わすれられる。「彼女かのじょ」たちは「無言むごん」で「立たつなら幾いく千せん年ねんでも黙だまって立たってろ」（高村たかむら光太郎こうたろう）と命めいじられるしかなかった。しかし忘わすれてはならない。先さきの騎馬きば像ぞうの作者さくしゃは現在げんざい、長崎ながさきの「平和へいわ公園こうえん」にそびえる「平和へいわ祈念きねん像ぞう」と同おなじ彫刻ちょうこく家か、北きた村西むらにし望のぞむ（せいぼう）で、筋骨きんこつ隆々りゅうりゅうな裸体らたいの巨人きょじん像ぞうは力ちからの顕現けんげんそのものに見みえる。先さきに新生しんせい日本にっぽんと書かいたが「ここに『新あたらしさ』はない。むしろ、分わかつことのできない戦時せんじとの連続れんぞく性せいがある」――そう著者ちょしゃは書かき「戦後せんご日本にっぽんの彫刻ちょうこくを考かんがえるうえで、長崎ながさきは最もっとも重要じゅうような場所ばしょ」と断言だんげんする。
　戦後せんご、日本にっぽんに「自由じゆうと平和へいわ」をもたらしたのは、歴史れきし的てきに言いえば「敗戦はいせんと占領せんりょう」にほかならない。ゆえに著者ちょしゃはこの国くにに氾濫はんらんする女性じょせい裸体らたい像ぞうを「戦後せんご民主みんしゅ主義しゅぎのレーニン像ぞう」と名付なづける。そしていつか、それらが引ひき倒たおされる時ときが来くるかもしれないことに思おもいを馳はせ（は）せ、長崎ながさきに、広島ひろしまに、水俣みなまたにあるモニュメントに「無言むごん」ではなく「応答おうとう」しようとし、あえてこれらの「彫刻ちょうこくを見みよ」と呼よびかけるのだ。
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おだわら・のどか　１９８５年ねん生うまれ。彫刻ちょうこく家か、評論ひょうろん家か、出版しゅっぱん社しゃ「書肆しょし九きゅう十じゅう九きゅう（しょしつくも）」代表だいひょう。著書ちょしょに『近代きんだいを彫刻ちょうこく／超克ちょうこくする』。

椹さわら木野この衣ころも（さわらぎのい）美術びじゅつ評論ひょうろん家か・多摩美術大学たまびじゅつだいがく教授きょうじゅ

1962年ねん生うまれ。『日本にっぽん・現代げんだい・美術びじゅつ』『震ふるえ美術びじゅつ論ろん』など著書ちょしょ多数たすう。企画きかく・監修かんしゅうした展覧てんらん会かいに「日本にっぽんゼロ年ねん」展てん（水戸みと芸術げいじゅつ館かん）、「平成へいせい美術びじゅつ：うたかたと瓦礫がれき　１９８９―２０１９」展てん（京都きょうと市し京きょうセラ美術館びじゅつかん）など。2022年ねん10月がつより書評しょひょう委員いいん。