(Translated by https://www.hiragana.jp/)
名手が描く幽霊と触れあうホラーを堪能 お盆の読書にオススメの3冊|好書好日
  1. HOME
  2. コラム
  3. 朝宮あさみや運河うんがのホラーワールド渉猟しょうりょう
  4. 名手めいしゅえが幽霊ゆうれいれあうホラーを堪能たんのう おぼん読書どくしょにオススメの3さつ

名手めいしゅえが幽霊ゆうれいれあうホラーを堪能たんのう おぼん読書どくしょにオススメの3さつ

円熟味えんじゅくみすキング、死者ししゃ姿すがたえる少年しょうねん成長せいちょう物語ものがたり

 ホラーの巨匠きょしょう、スティーヴン・キングの長編ちょうへん死者ししゃうそをつかない』が邦訳ほうやくされた。文春ぶんしゅん文庫ぶんこのオリジナル長編ちょうへんとして土屋つちやあきらやくした。主人公しゅじんこうジェイミーは死者ししゃ姿すがたえ、言葉ことばわすことができる少年しょうねんこわうこともおおいが、その特殊とくしゅちからはまんざらやくにたないわけでもない。たとえばご近所きんじょおくさんがくなったさいえてしまった結婚けっこん指輪ゆびわのありかを“本人ほんにん”にたずねたり、担当たんとうする人気にんき作家さっか急逝きゅうせいして途方とほうれていたジェイミーのはは(シングルマザーで文芸ぶんげいエージェントをしている)のために、未完みかん小説しょうせつのプロットをききだしたり。ところがある事件じけん捜査そうさ協力きょうりょくしたことから、かれ運命うんめいおおきくうごはじめる。

 ひととはことなる能力のうりょくそなえたティーンエイジャーといえば、過去かこのキング作品さくひん『シャイニング』や『ファイアスターター』がおもかぶが、本書ほんしょ恐怖きょうふ絶望ぜつぼうかんちたつよし速球そっきゅうというよりは、たのしみながらはなったスローカーブといったおもむき厄介やっかい能力のうりょくとそれなりに共存きょうぞんしながら、現代げんだいらしい青春せいしゅんおくるジェイミーの姿すがたが、あじわいぶかえがかれていてまれる。

 幽霊ゆうれいえる主人公しゅじんこう自体じたいけっしてめずらしいものではないが、本書ほんしょはそこに“死者ししゃうそをつかない”という独自どくじのルールをりこむことで、絶妙ぜつみょうなサスペンスをしてみせる。このあたりのさじ加減かげんはさすがにキング。ジェイミーがくりがえべる「これはホラーストーリーだ」という不気味ぶきみ言葉ことば真意しんいかった瞬間しゅんかん読者どくしゃいようのないショックにたれることだろう。喜寿きじゅ目前もくぜんひかえていよいよ円熟味えんじゅくみす、キングの筆力ひつりょくをあらためて実感じっかんできるエンタメホラーの良作りょうさくだ。

浅田あさだ次郎じろう達意たついかたくち堪能たんのうできる自伝じでんてき怪談かいだんしゅう

完本かんぽん かみすわ(いま)すやま物語ものがたり』(双葉社ふたばしゃ)は、浅田あさだ次郎じろうが2014ねん発表はっぴょうした連作れんさくしゅうかみましまやま物語ものがたり』に、ろしや収録しゅうろくさくなどをくわえた“御嶽山みたけさんもの”の集大成しゅうたいせい霊山れいざんとしてられ、著者ちょしゃ母方ははかた一族いちぞくらしてきた奥多摩おくたま御嶽山みたけさん舞台ぶたいにした不思議ふしぎ物語ものがたりを10へんおさめている。

 心中しんちゅうの決意けついして真冬まふゆやまのぼってきたわか男女だんじょ悲劇ひげきあかきずな」、少女しょうじょひょういたきつね神主かんぬしであった曾祖父そうそふ懸命けんめいとそうとする「おきつねさまはなし」、にち戦争せんそう時代じだい背景はいけいなま不思議ふしぎかんじさせる「兵隊へいたい宿やど」など珠玉しゅぎょく怪談かいだん数々かずかずは、かみれいきつね天狗てんぐ存在そんざいたりまえのものとしてれていた、山頂さんちょう屋敷やしきでのらしをあざやかにかびがらせる。ここには現代げんだい都市としかたられる怪談かいだんとはまたちがった、しみじみとしたこわさとなつかしさがある。

 本書ほんしょ御嶽おんたけ山頂さんちょう神社じんじゃ代々だいだいまもつづけてきた、著者ちょしゃふく一族いちぞくのファミリーヒストリーの側面そくめんつよいが、同時どうじ無数むすう死者ししゃたちの面影おもかげとおして、近代きんだい片隅かたすみひかりてるこころみでもある。関東大震災かんとうだいしんさい悲劇ひげきあつかったろし「やまらぐ」をんであらためてそうかんじた。いま先人せんじんたちをしのびながら、達意たついかたくち堪能たんのうしてほしい。

あやふじアザミの魅力みりょくきる軽妙けいみょうだがこわいバディもの

 上記じょうき2さつ幽霊ゆうれいえるひと物語ものがたりだったが、あやふじアザミ『幽霊ゆうれい作家さっか古物商こぶつしょう 黄昏たそがれかんだなぞ』(文春ぶんしゅん文庫ぶんこ)は幽霊ゆうれいになったひと物語ものがたり主人公しゅじんこう長月ながつきひびきは、づくと幽霊ゆうれいになってしまっていた小説しょうせつ仕事しごとはネットをつうじてなんとかつづけているが、だれにも存在そんざいづかれない毎日まいにち単調たんちょう退屈たいくつだ。そんなある霊感れいかんのある古物商こぶつしょう御蔵おぐらざか(みくらざか)るいい、おたがいトラブルを解決かいけつしあうパートナーとなる。

 北陸ほくりく古都こと舞台ぶたいにし、いわくつきのアンティークを多数たすう登場とうじょうさせるなど、耽美たんびてき作品さくひんられるいろどりふじアザミらしい展開てんかいがある一方いっぽう、いつも以上いじょうにキャラクターとストーリーに重点じゅうてんいた、軽妙けいみょうだがピリリとこわいバディホラー。るいった万年筆まんねんひつがひとりでに文字もじく「文字もじ」、子猫こねこ幽霊ゆうれいったひびきがそのたましい成仏じょうぶつさせる「大蛇おろち」など、ひねりのいた13へんおさめている。個人こじんてきなベストをあげるなら、くびかれててられているぬいぐるみの秘密ひみつあつかった「模様もよう硝子がらすこう」。この真相しんそうにはおもわずぞっとさせられた。

 なお本書ほんしょにはひびきはなぜんだのか、死体したいはどこにあるのかというおおきななぞが、解決かいけつのままのこされている。幽霊ゆうれい物語ものがたりわたしたちをきつけるのは、こわいものたさの興味きょうみくわえて、きることとぬことという根源こんげんてき問題もんだいれてくるからだろう。ひびき過去かこかされるはずの続編ぞくへんたのしみにちたい。

PROMOTION