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新しい年越しそば　澤田瞳子｜好書好日
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カバンの隅すみには

新あたらしい年越としこしそば　澤田さわだ瞳子とうこ

　流行りゅうこう（はや）りモノには疎うとい人間にんげんのはずだが、昨年さくねんのクリスマス直前ちょくぜん、大だい流行りゅうこう中ちゅうのインフルエンザに罹患りかん（りかん）し、年末年始ねんまつねんしの予定よていが大おおいに狂くるった。毎年まいとし恒例こうれいの田舎いなかの餅もちつきがある理由りゆうから中止ちゅうしと決きまっていたため、心置こころおきなく療養りょうようできたのがまだ幸さいわいだった。

　もともと年末年始ねんまつねんしを問とわぬ多忙たぼうもあって、年越としこしの支度したくには毎年まいとしさして力ちからを注そそいでいない。年賀状ねんがじょうもこの数すう年ねんはほとんど出だせていないし、お節せちもあまり好すきではないので、最低限さいていげんの数すう品ひんしか作つくらない。ただそんな中なかで毎年まいとし心待こころまちにしているのが、蕎麦そば（そば）の手打てうちを趣味しゅみとする家族かぞくが作つくる年越としこし蕎麦そばだ。最初さいしょはぶちぶちと切きれ、形かたちも不ふぞろいだったのが、この十じゅう年ねんほどは身内みうちの贔屓目ひいきめ（ひいきめ）を差さっ引ぴいても、どこに出だしても恥はずかしくない味あじに仕上しあがっている。とはいえ今回こんかいはそれどころではない。残念ざんねんと思おもいながら、名残なごりの咳せき（せき）に苦くるしめられていた大晦日おおみそか（おおみそか）、思おもいがけぬ荷物にもつが届とどいた。我わが家やの状況じょうきょうを知しった長崎ながさきの知人ちじんが、冷凍れいとうのちゃんぽんと皿さらうどんを差さし入いれてくれたのだ。

　すべてが料理りょうり済ずみで冷凍れいとうされたセットで、麺めんを湯ゆがき、温あたためた汁しると具ぐ材ざいを乗のせるだけ。手間てまがかからず、栄養えいようがある。知人ちじんの心こころづかいをつくづくありがたいと思おもうとともに、「今年ことしの年越としこしそばはこれだ！」と嬉うれし（うれ）しくなった。

　これまで、蕎麦そば以外いがいの麺類めんるいを年越としこしに食たべたことはない。全国ぜんこくには年越としこしうどん、年越としこしラーメンを食たべる地域ちいきもあるとは知しっているが、なんとなく「やっぱり蕎麦そばだよね」と考かんがえていた。だが思おもいがけず届とどいたちゃんぽんを啜すす（すす）れば、年越としこしそばは細ほそくて長ながい蕎麦そばの形状けいじょうに長寿ちょうじゅを願ねがったものとの説せつもあるのだから、これはこれでいいんじゃないかとこれまでのこだわりが遠とおいものに感かんじられてくる。インフルエンザは苦くるしかったが、思おもいがけない年越としこしそばに出会であわせてくれた点てんだけは感謝かんしゃだ。というわけで家族かぞくの手打てうち蕎麦そばは年末ねんまつ以外いがいに作つくってもらうとして、さて今年ことしはどんな「年越としこしそば」にしようかと、今いまからあれこれ考かんがえている。＝朝日新聞あさひしんぶん2025年ねん01月がつ29日にち掲載けいさい

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