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「君塚直隆先生の本、一択ですね」 ――『君主制とはなんだろうか』書評(評者:河西秀哉)|じんぶん堂
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君塚きみづか直隆なおたか先生せんせいほん一択いったくですね」 ――『君主くんしゅせいとはなんだろうか』書評しょひょう評者ひょうしゃ河西かさい秀哉ひでや

記事きじ筑摩書房ちくましょぼう

君主の誕生から革命を経て、現在までを一望する、かつてない君主たちの5000年史。
君主くんしゅ誕生たんじょうから革命かくめいて、現在げんざいまでを一望いちぼうする、かつてない君主くんしゅたちの5000ねん

今後こんごなんじゅうねんがれるであろうほん登場とうじょう

君主くんしゅせいについてりたいんですが、なにんだらよいですか?」――学期がっきちゅうなんける質問しつもんである。わたし文学部ぶんがくぶつとめ、象徴しょうちょう天皇てんのうせい歴史れきしをテーマにして講義こうぎをしている。そうすると、学生がくせいたちは日本にっぽん天皇てんのうせいだけではなく、どうしても世界せかい君主くんしゅせい比較ひかくしたくなるようだ。そして、君主くんしゅせい歴史れきし君主くんしゅせいとはなにかをりたくなり、さきのような質問しつもんをしてくれる。

 この文章ぶんしょうのタイトルが、冒頭ぼうとう学生がくせいいにたいするここすうねんわたしこたえである。どうも、このままの会話かいわをこれからもずっとすることになるのではないか。本書ほんしょ君主くんしゅせいとはなんだろうか』をんでのわたし正直しょうじき読後感どくごかんだ。おそらく、今後こんごなんじゅうねんがれるであろうほん登場とうじょうを、たりにしたのである。

 それだけ、このほんには君主くんしゅせいについてりたいことがかれている。君主くんしゅという存在そんざい登場とうじょうし、理想りそうおうとしての存在そんざいから絶対ぜったい君主くんしゅせいて、市民しみん革命かくめい時代じだい通過つうかしつつ現在げんざいいち世紀せいきのこ君主くんしゅせいのありかたを、コンパクトかつわかりやすく提示ていじしている。普通ふつうはこれだけでも一人ひとりではけない。

 しかも、本書ほんしょ対象たいしょうはヨーロッパの君主くんしゅせいだけではない。中国ちゅうごく、イスラム、トルコ、インド……など、ありとあらゆる君主くんしゅせいについて言及げんきゅうされ、その特徴とくちょうがそれぞれの時期じきごとにしるされている。これも超人ちょうじんレベルである。ちょっとしんじられない。

 しかし、こういったありとあらゆることがいてあるほんは、トンデモほんであることもおおい(読者どくしゃのみなさん、をつけて)。ところが、この『君主くんしゅせいとはなんだろうか』はちがう。君塚きみづか先生せんせいせんもんであるイギリスにかんする記述きじゅつは、先生せんせいのこれまでの研究けんきゅう蓄積ちくせきまえ、やさしくかつふか解説かいせつしたものである。ヨーロッパについても、それぞれの王室おうしつ歴史れきし先人せんじんたちの研究けんきゅう参考さんこうにしつつ、先生せんせいあきらかにされた内容ないよう記述きじゅつされている。中国ちゅうごくふくめ、アジアなどの王室おうしつかんする記述きじゅつも、最新さいしん研究けんきゅうまえて記述きじゅつされている。もちろん、日本にっぽん天皇てんのうせいについても、わたし自信じしんって太鼓判たいこばんせる記述きじゅつである。世界せかい各国かっこく君主くんしゅせいについてりたければ最初さいしょいちさつは、おおくの情報じょうほう網羅もうらされたこの『君主くんしゅせいとはなんだろうか』なのである。

21世紀せいきのいま、君主くんしゅせいについて必要ひつようせい

 しかし、このいち世紀せいきになぜ君主くんしゅせいについて必要ひつようがあるのだろうか。それは、「だいしょう 市民しみん革命かくめい時代じだい」「だいしょう いち世紀せいき君主くんしゅせい」から理解りかいすることができる。

 だいいち世界せかい大戦たいせんによって戦争せんそうは「そう力戦りきせん」となり、戦争せんそうは「国民こくみん全体ぜんたい責務せきむ」となった。そうすると、敗戦はいせんという結果けっかむかえれば、最高さいこう司令しれいかんらに責任せきにんらせることがすじとなる。それゆえ、君主くんしゅ責任せきにん浮上ふじょうし、だいいち世界せかい大戦たいせんによって世界せかいてき君主くんしゅせい崩壊ほうかいしていく君主くんしゅせい危機きき時代じだいむかえた。この歴史れきし詳細しょうさい説明せつめいされているが、ここでのポイントは、世紀せいきはいり、戦争せんそう形態けいたい変化へんか民主みんしゅ主義しゅぎ導入どうにゅうによって、君主くんしゅせい国民こくみんとの関係かんけいせいつよつようになったというてんだろう。わば、君主くんしゅせい形態けいたいおおきく変化へんかし、国民こくみんつね意識いしきする必要ひつようてきた。それゆえ、現在げんざい君主くんしゅせいではそうした背景はいけいまえた活動かつどう展開てんかいされる。しかも、現代げんだいのように格差かくさ社会しゃかい拡大かくだいしていくなかで、政治せいじからこぼれちる人々ひとびと君主くんしゅすくす。この説明せつめい非常ひじょう説得せっとくてきだ。

 はっきりってしまうが、研究けんきゅうしゃというものは自分じぶん研究けんきゅうをさもむずかしいもののようにいてしまうことが簡単かんたんにできる人種じんしゅである。いや、本当ほんとう自分じぶんでもその研究けんきゅう内容ないようをよくわかっていないからか、むずかしくき、「どうだ、オレはえらいのだ」とおもわれたい人々ひとびとでもある。じつは、やさしくくことは本当ほんとうむずかしい。根本こんぽんてき疑問ぎもんこたえ、それをみんなにわかりやすく説明せつめいする。ちくまプリマー新書しんしょむと、そうしたラインナップにあふれているが、そのなかでもこの『君主くんしゅせいとはなんだろうか』はトップレベルにはいるようにおもう。あらためて、君塚きみづか先生せんせい博識はくしき説明せつめい能力のうりょくたかさにおどろかされる。象徴しょうちょう天皇てんのうせいについて、わたしもいつかこういったほんかねばと決意けついあらたにする機会きかいとなったことを最後さいご告白こくはくして、この文章ぶんしょうえておきたい。

君塚直隆『君主制とはなんだろうか』(ちくまプリマー新書)書影
君塚きみづか直隆なおたか君主くんしゅせいとはなんだろうか』(ちくまプリマー新書しんしょしょかげ

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