(Translated by https://www.hiragana.jp/)
ロシアという大いなる謎をシベリア・極東から読み解く|じんぶん堂
  1. じんぶんどうTOP
  2. 歴史れきし社会しゃかい
  3. ロシアというおおいなるなぞをシベリア・極東きょくとうから

ロシアというおおいなるなぞをシベリア・極東きょくとうから

記事きじ明石書店あかししょてん

東シベリアに位置するサハ共和国でのお祭り風景
ひがしシベリアに位置いちするサハ共和きょうわこくでのおまつ風景ふうけい

あえて辺境へんきょうからロシアを

 明石書店あかししょてんの「エリア・スタディーズ」のシリーズからは、すでに下斗米しもとめ伸夫のぶお島田しまだひろし編著へんちょ)『現代げんだいロシアをるための60しょう』、下斗米しもとめ伸夫のぶお編著へんちょ)『ロシアの歴史れきしるための50しょう』が刊行かんこうされている。ロシアというくに全般ぜんぱん興味きょうみをおちの読者どくしゃは、まずはそれらをって入門にゅうもんたしていただきたい。

 世界せかい各国かっこくくにべつ解説かいせつすることにらず、最近さいきんではよりマニアックな領域りょういきんでいる「エリア・スタディーズ」ながら、本書ほんしょのようにいちこくなか特定とくてい地域ちいきげるケースは、まだあまりおおくないはずだ。

 しかも、本書ほんしょはシベリア・極東きょくとう全体ぜんたいとしてろんじているだけでなく、だいにおいて、シベリア・極東きょくとうぞくす24地域ちいきをすべて個別こべつしょうとしてげている。こんなマニアックなほんは、本邦ほんぽうはもちろん、世界せかいてきにもめずらしいだろうし、ロシア本国ほんごくでもそうはおにかかれないはずだ。

バイカル湖をチェルスキー岩展望台より望む
バイカルをチェルスキーがん展望てんぼうだいよりのぞ

ロシアの本質ほんしつがここに

 ロシア極東きょくとう・シベリアは、地理ちりてきにこそ広大こうだいだが、今日きょうこの辺境へんきょう地帯ちたいにはぜんロシア国民こくみんの2わりほどがんでいるにすぎない。それでも、本書ほんしょがあえてロシアの東部とうぶ徹底的てっていてきにフォーカスしたのには、もちろん理由りゆうがある。

 はしてきえば、ロシアをロシアたらしめているのは、シベリアであり、さらにその延長えんちょうじょうにある極東きょくとうなのではないだろうか。シベリア・極東きょくとうは、ロシアのすべてではないが、それがなかったら、ロシアはまったくちがくにになっていたはずだ。

 歴史れきしかえれば、後進こうしんてきなヨーロッパこくとしてくすぶっていたロシアが、やがて大国たいこく成長せいちょうしていったのには、ひがしひろがっていた広大こうだいなフロンティアを、それほどのもなくれられたことがおおきかったはずだ。本書ほんしょでは、だい「シベリア・極東きょくとう歴史れきし」で、その過程かてい克明こくめいえがいている。

 これによりロシアは、地理ちりてきなコントラストをし、ヨーロッパのみならずアジア・太平洋たいへいよう国家こっかともなった。また、正教せいきょう信奉しんぽうするロシアじん主体しゅたいとしつつも、民族みんぞく文化ぶんか国家こっかとしての性格せいかくつよめたのである。だい「シベリア・極東きょくとう民族みんぞく文化ぶんか」で、そのあたりをまなんでいただければさいわいである。

ヤクーツクの毛皮製品店で酷寒対策
ヤクーツクの毛皮けがわ製品せいひんてん酷寒こっかん対策たいさく

 シベリア・極東きょくとうは、石油せきゆ天然てんねんガスをはじめとする天然てんねん資源しげんめぐまれ、それがロシアの発展はってんささえている。しかし、代償だいしょうとして資源しげん以外いがい産業さんぎょうそだちにくく、また国際こくさい市況しきょう翻弄ほんろうされがちだ。また、シベリア・極東きょくとう開発かいはつ維持いじすることは、ロシアにとっておおきな負担ふたんである。巨大きょだいなポテンシャルをゆうする反面はんめん重荷おもにでもあるシベリア・極東きょくとうは、ロシアにとりつね中心ちゅうしんてきなジレンマなのである。

 本書ほんしょでは、だい35しょう「シベリア・極東きょくとう石油せきゆ・ガス――ロシア経済けいざいささえる貴重きちょう資源しげん」、だい36しょう「シベリア・極東きょくとう資源しげん宝庫ほうこ――ダイヤモンド、石炭せきたんきむ水産物すいさんぶつ」で資源しげんゆたかさについてろんじる一方いっぽう、コラム2で「シベリアののろい」ろん紹介しょうかいしている。

バイカル湖名産オームリの燻製
バイカル名産めいさんオームリの燻製くんせい

日本にっぽんにとっても人類じんるい地球ちきゅうにとっても重要じゅうよう

 シベリア・極東きょくとうはまた、日本にっぽんとロシアの出会であいのでもある。江戸えど時代じだい日本人にっぽんじんがロシアの人々ひとびと邂逅かいこうしたのを皮切かわきりに、20世紀せいき前半ぜんはんにはにち戦争せんそう日本にっぽんぐんのシベリア出兵しゅっぺいソ連それんたいにち参戦さんせん日本人にっぽんじん捕虜ほりょのシベリア抑留よくりゅうといった政治せいじてき事件じけんつづき、戦後せんごには北方領土ほっぽうりょうど問題もんだいのこされた。だい18しょうだい20~24しょうだい41しょうが、それらをあつかった論考ろんこうである。

 他方たほうでシベリア・極東きょくとうにちによる経済けいざい協力きょうりょく舞台ぶたいでもあり、日本にっぽんがロシアから輸入ゆにゅうしている商品しょうひんだい部分ぶぶんがシベリア・極東きょくとう産品さんぴんである。これにかんしては、だい38しょう「シベリア・極東きょくとう舞台ぶたいとしたにち経済けいざい協力きょうりょく――重大じゅうだい岐路きろむかえた極東きょくとうビジネス」を参照さんしょうしていただきたい。

 さらにえば、気候きこう変動へんどうをはじめ、今後こんご人類じんるい地球ちきゅうにとって北極ほっきょく重要じゅうようせいたかまっていくはずだが、ロシアの北極圏ほっきょくけんはシベリア・極東きょくとうとかなりオーバーラップしている。北極ほっきょく行方ゆくえという観点かんてんからも、シベリア・極東きょくとうけることが必要ひつようだ。だい7しょう地球ちきゅう温暖おんだんとシベリア――近年きんねん気候きこう変動へんどう環境かんきょうへの影響えいきょう」、だい44しょう「ロシアの北極ほっきょく政策せいさく――プーチン政権せいけんきゅう展開てんかい」は、その観点かんてんから必読ひつどくのテキストとなろう。

冬のトボリスク・クレムリン
ふゆのトボリスク・クレムリン

ウクライナ侵攻しんこうけたもの

 ところで、我々われわれ本書ほんしょ出版しゅっぱんけた作業さぎょう着手ちゃくしゅしたのは、2021ねんはじごろであった。それから1ねんにロシアがウクライナへの全面ぜんめん軍事ぐんじ侵攻しんこう開始かいしすることなど、おもいもよらなかった。本書ほんしょ作業さぎょう着手ちゃくしゅから刊行かんこうまで3ねんようするうちに、ロシアというくに姿すがた一変いっぺんしてしまった。

 日本にっぽんにとり、シベリア・極東きょくとうは、ロシアのなか地理ちりてきもっと身近みぢかなエリアである。近年きんねんでは、「日本にっぽんからもっとちかいヨーロッパ」として、ウラジオストクが日本人にっぽんじん観光かんこうきゃく穴場あなばにもなっていた。安倍晋三あべしんぞう政権せいけんすすめたたいロシア経済けいざい協力きょうりょくプランでも、必然ひつぜんてきにシベリア・極東きょくとう舞台ぶたいとしたプロジェクトがおおかった。

 本書ほんしょ企画きかく当初とうしょは、にち交流こうりゅうとしてのシベリア・極東きょくとうという発想はっそうっていた。であれば、だい45しょう「シベリア・極東きょくとう観光かんこう案内あんない――だい自然しぜん宝庫ほうこ多様たよう民族みんぞく文化ぶんか歴史れきし」を参考さんこうに、実際じっさいにかの旅立たびだ読者どくしゃおおかったはずだ。

 それが今日きょうでは、日本にっぽんはロシアに経済けいざい制裁せいさい適用てきようし、ロシアは日本にっぽんを「友好国ゆうこうこく」リストにくわえ、両国りょうこくあいだ直行ちょっこう便びんばなくなり、地域ちいきあいだ交流こうりゅう途絶とだえた。日本人にっぽんじんはなさきにあるウラジオストクやサハリンにおもむくことさえ、簡単かんたんではなくなった。ロシアは、シベリア・極東きょくとうというエリアがありながら、本当ほんとうちかくてとおくにになってしまった。

 もっとも、もしも本書ほんしょが2021ねん刊行かんこうされ、その翌年よくねんにロシアがウクライナ侵攻しんこう開始かいししたら、本書ほんしょだい現代げんだいのシベリア・極東きょくとうしょ問題もんだい」のしょしょうは、すぐに賞味しょうみ期限きげんれてしまったかもしれない。だい34しょう「シベリア・極東きょくとうをめぐる国際こくさい関係かんけい――『東方とうほうシフト』がかかむいっそうの困難こんなん」などは、執筆しっぴつしゃがウクライナ情勢じょうせいまえ大幅おおはば加筆かひつ修正しゅうせいしてくれたことで、価値かちたかまったとえよう。

 うまでもなく、シベリア・極東きょくとうという要因よういんがロシア・ウクライナ戦争せんそうにどのような影響えいきょうおよぼすかは、重要じゅうようである。だい40しょう軍事ぐんじめんからたシベリア・極東きょくとう――配備はいび兵力へいりょくかく戦略せんりゃく軍需ぐんじゅ産業さんぎょう」は、その格好かっこうのヒントとなろう。

 ひるがえって、ウクライナ情勢じょうせいがシベリア・極東きょくとうをどうえるのかも、重大じゅうだいなテーマである。だい46しょう「ウクライナ侵攻しんこうとシベリア・極東きょくとう――『東方とうほうシフト』は加速かそくするか」では、ウクライナ侵攻しんこうがロシアとシベリア・極東きょくとうにとりひゃくねんいち転機てんきになる可能かのうせい指摘してきしている。

写真しゃしん提供ていきょう:ロシア旅行りょこうしゃ

ページトップにもど

じんぶんどうは、「人文じんぶんしょ」の魅力みりょくつたえる
出版しゅっぱんしゃ朝日新聞社あさひしんぶんしゃ共同きょうどうプロジェクトです。
「じんぶんどう」とは 加盟かめいしゃ一覧いちらん