4人が死亡した「和歌山毒物カレー事件」から26年。2009年に死刑が確定した林眞須美の長男を軸に据えたドキュメンタリーが公開される。事件当時、長男は母親を「マミー」と呼んでいた。話題の一作についてジャーナリスト・相澤冬樹は「事件についてこれまでになかった見方を与えてくれる」と言う。(文中敬称略)
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「マミーがピアノを最後に弾いたのは、小学校5年の誕生日だった」
マミーはやってないと思う。母親だからって訳じゃない。被害者を思えば軽々しく言えないけど、やっぱりマミーがやったとするにはおかしなことが多すぎる。だから僕は映画で訴えることにしたんだ。
映画『マミー』が斬新なのは、有名な和歌山毒物カレー事件を描くのに、死刑が確定し、無実を訴えている林眞須美本人ではなく、その長男を軸に据えたことだろう。当時長男は、母親を「マミー」と呼んでいた。
1998年7月25日、和歌山市内の夏祭りで出されたカレーに猛毒のヒ素が混入され67人が中毒となり、4人が死亡した。それから26年。長男が一人で暮らす室内にはウイスキーのボトル、隅に立てかけられたギター。いかにも30代男性の部屋だ。そこで寝っ転がって母親からの手紙を読むシーンがある。
「そういえば(長男が)小学5年生のバースデーに、ケーキにろうそくを11本立ててママがピアノでハッピーバースデーを弾いたのが、ピアノを弾いた最後です」
そんな母親について長男は振り返る。
「教育熱心な母親。習い事にも熱心で、悲惨な事件を起こしたというイメージを持てない」
事件に疑問を抱き始めたのは、発生からかなり経ってからだという。
「判決を読み込んだり当時の報道の細かな内容も見ていくと、明らかにおかしい部分がたくさんあって…」