書店の危機をめぐる報道が絶えない。全国各地で廃業する店が相次ぐだけでなく、政府が本格的に書店支援に乗り出すことが喧伝され、直木賞作家の運営する「シェア型書店」に注目が集まったりもしている。
しかし書店危機の問題は業界の複雑な商慣習がからんでおり、外からは本質が見極めにくい。いったいなぜ書店は消えていくのか。
2028年というそれほど遠くない未来に「街から書店が消える」。そんなショッキングな仮説を提示する本書は、大手出版取次で営業部長を務め、地方書店の経営改革に携わったこともある経営コンサルタントによる警世の書だ。
書店人によって書かれた本がこのところ増えているが、それらと本書が一線を画するのは徹頭徹尾ビジネスの話、しかも現場から聞こえてくる声に軸足を置いている点にある。出版文化をめぐる議論は、ともすれば熱心な読書人の視点からみたものになりがちだ。しかしそれは大都市に暮らす、恵まれた読者の視点にすぎない。本書は逆に泥くさい足元から議論を始める。
書店がすでに「構造倒産業種」と呼ばれるべき状況なのはなぜか。それは「粗利で販管費が収まらない」からだ。なぜ粗利が増えないのか。再販制度のもとで価格決定権をもたず、マージンも低く抑えられたままだからだ。書店はもはや「本という商材だけで商売を成りたせる」ことができない。だから次々に廃業する。
そうした現実を浮き彫りにするため、著者は全国各地の書店人や出版関係者28人に取材し、生々しい現場の声を拾い上げた。著者が彼らの言葉に解説を加え、就活中の大学生に説明して聞かせるというビジネス書的な体裁なので、業界の商慣習に疎い一般の読者にも書店をめぐる危機的状況がよく理解できる。
もちろん、危機感を煽ることが本書の目的ではない。業界構造の改善への具体的な提言や、現場におけるさまざまな取り組みも紹介される。なかでも広島の過疎地域にある「ウィー東城店」の例は象徴的だ。「本はすべての商材のゲートウェイだ」との考えから、同店では化粧品やパンも売る。卵の自動販売機もあればコインランドリーもある。生活と密着した多様なサービスが書店の経営を支えている。
本書で主張される出版業界再生の提案のうち、とくに目を引くのは企業研修の必要を述べている点だろう。システマティックな研修の不在を著者は「死に至る病」だという。
技術革新と情報環境の激変が起きた21世紀はじめに出版界は自らイノベーションを起こせなかった。アマゾンのような巨大IT企業が支配する情報環境のもとで、出版業界は一般の読者が求める水準のサービスを提供できずにいる。その最大の原因は教育の不在ではないか。私にはこの指摘が、本書でもっとも重いメッセージに思えた。
こじましゅんいち/1957年生まれ。トーハン執行役員九州支社長などを経て、経営不振に陥っていた愛媛県の明屋書店に出向し代表取締役就任。独自の手法で従業員のモチベーションを大幅に向上させ、リストラせずに2年半後には業績をV字回復させる。著書に『会社を潰すな!』。
なかまたあきお/1964年生まれ。評論家・編集者。個人出版プロジェクト「破船房」を行う。近刊に『橋本治「再読」ノート』など。