『2028ねん まちから書店しょてんえる ~本屋ほんや再生さいせい識者しきしゃ30にんからのメッセージ~』(小島こじま俊一しゅんいち ちょ)プレジデントしゃ

 書店しょてん危機ききをめぐる報道ほうどうえない。全国ぜんこく各地かくち廃業はいぎょうするみせ相次あいつぐだけでなく、政府せいふ本格ほんかくてき書店しょてん支援しえんすことが喧伝けんでんされ、直木賞なおきしょう作家さっか運営うんえいする「シェアがた書店しょてん」に注目ちゅうもくあつまったりもしている。

 しかし書店しょてん危機きき問題もんだい業界ぎょうかい複雑ふくざつしょう慣習かんしゅうがからんでおり、そとからは本質ほんしつ見極みきわめにくい。いったいなぜ書店しょてんえていくのか。

 2028ねんというそれほどとおくない未来みらいに「まちから書店しょてんえる」。そんなショッキングな仮説かせつ提示ていじする本書ほんしょは、大手おおて出版しゅっぱん取次とりつぎ営業えいぎょう部長ぶちょうつとめ、地方ちほう書店しょてん経営けいえい改革かいかくたずさわったこともある経営けいえいコンサルタントによる警世けいせいしょだ。

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 書店しょてんじんによってかれたほんがこのところえているが、それらと本書ほんしょ一線いっせんかくするのは徹頭徹尾てっとうてつびビジネスのはなし、しかも現場げんばからこえてくるこえじくあしいているてんにある。出版しゅっぱん文化ぶんかをめぐる議論ぎろんは、ともすれば熱心ねっしん読書どくしょじん視点してんからみたものになりがちだ。しかしそれは大都市だいとしらす、めぐまれた読者どくしゃ視点してんにすぎない。本書ほんしょぎゃくどろくさい足元あしもとから議論ぎろんはじめる。

 書店しょてんがすでに「構造こうぞう倒産とうさん業種ぎょうしゅ」とばれるべき状況じょうきょうなのはなぜか。それは「で販管おさまらない」からだ。なぜえないのか。再販さいはん制度せいどのもとで価格かかく決定けっていけんをもたず、マージンもひくおさえられたままだからだ。書店しょてんはもはや「ほんというしょうざいだけで商売しょうばいりたせる」ことができない。だから次々つぎつぎ廃業はいぎょうする。

 そうした現実げんじつりにするため、著者ちょしゃ全国ぜんこく各地かくち書店しょてんじん出版しゅっぱん関係かんけいしゃ28にん取材しゅざいし、生々なまなましい現場げんばこえひろげた。著者ちょしゃかれらの言葉ことば解説かいせつくわえ、就活しゅうかつちゅう大学生だいがくせい説明せつめいしてかせるというビジネスしょてき体裁ていさいなので、業界ぎょうかいしょう慣習かんしゅううと一般いっぱん読者どくしゃにも書店しょてんをめぐる危機ききてき状況じょうきょうがよく理解りかいできる。

 もちろん、危機ききかんあおることが本書ほんしょ目的もくてきではない。業界ぎょうかい構造こうぞう改善かいぜんへの具体ぐたいてき提言ていげんや、現場げんばにおけるさまざまなみも紹介しょうかいされる。なかでも広島ひろしま過疎かそ地域ちいきにある「ウィー東城とうじょうてん」のれい象徴しょうちょうてきだ。「ほんはすべてのしょうざいのゲートウェイだ」とのかんがえから、同店どうてんでは化粧けしょうひんやパンもる。たまご自動じどう販売はんばいもあればコインランドリーもある。生活せいかつ密着みっちゃくした多様たようなサービスが書店しょてん経営けいえいささえている。

 本書ほんしょ主張しゅちょうされる出版しゅっぱん業界ぎょうかい再生さいせい提案ていあんのうち、とくにくのは企業きぎょう研修けんしゅう必要ひつようべているてんだろう。システマティックな研修けんしゅう不在ふざい著者ちょしゃは「いたやまい」だという。

 技術ぎじゅつ革新かくしん情報じょうほう環境かんきょう激変げきへんきた21世紀せいきはじめに出版しゅっぱんかいみずからイノベーションをこせなかった。アマゾンのような巨大きょだいIT企業きぎょう支配しはいする情報じょうほう環境かんきょうのもとで、出版しゅっぱん業界ぎょうかい一般いっぱん読者どくしゃもとめる水準すいじゅんのサービスを提供ていきょうできずにいる。その最大さいだい原因げんいん教育きょういく不在ふざいではないか。わたしにはこの指摘してきが、本書ほんしょでもっともおもいメッセージにおもえた。

こじましゅんいち/1957ねんまれ。トーハン執行しっこう役員やくいん九州きゅうしゅう支社ししゃちょうなどをて、経営けいえい不振ふしんおちいっていた愛媛えひめけん明屋書店はるやしょてん出向しゅっこう代表だいひょう取締役とりしまりやく就任しゅうにん独自どくじ手法しゅほう従業じゅうぎょういんのモチベーションを大幅おおはば向上こうじょうさせ、リストラせずに2ねんはんには業績ぎょうせきをV回復かいふくさせる。著書ちょしょに『会社かいしゃつぶすな!』。
 

なかまたあきお/1964ねんまれ。評論ひょうろん編集へんしゅうしゃ個人こじん出版しゅっぱんプロジェクト「破船はせんぼう」をおこなう。近刊きんかんに『橋本はしもとおさむ再読さいどく」ノート』など。