横浜赤レンガ倉庫という、かつての港湾施設の倉庫を利用した、ショッピングとイベントの複合施設がある。そこで開催された「My Yamaha Motorcycle Day Touch」というイベントに行ってきた。4月20日のことだ。
ヤマハ発動機のバイクに跨(また)がれたり、電動アシスト自転車に試乗できたりというものだが、私の場合、目当てはバイクだった。特にこの日は新しく発表された「XSR900 GP」という車種に、一般人が初めて跨がることができる機会ということもあり、それっとばかりに意気込んで会場に向かった。
バイク試乗はまず足着き確認だ
背が低く脚が短い私の場合、試乗の興味の中心は「足が付くか」である。
どんなに乗りたいバイクでも、足が着かなくてはどうしようもない。特に昨今のバイクはシートが高く、私の足ではつま先つんつんになってしまうことが多いのだ。バイクのシートの高さはカタログには書いてあるのだが、同じシート高でも幅が狭いと足が着きやすくなるし、サスペンションが柔らかくセッティングされていると、カタログの数値よりもシートが低くなり、足着きが楽になる。自分の体重との兼ね合いもあるので、実際の足着きは跨がってみないことには分からない。
こういう機会で跨がれるバイクは燃料抜きなので、燃料満載の場合とではまた足着きが変化する。とはいえ、実際に跨がってみれば大まかに「あ、これは自分は乗れない」とか「これなら乗れるか」という感触は分かる。
バイクは日本の4メーカー――ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキが世界的に大きなシェアを持っているが、その日本メーカーのバイクは、昨今シートが高くなりつつある。
そこには、「タイヤが高性能化してコーナーでより深く倒し込めるようになり、足を乗せるステップをより高い位置に設定するようになった」とか、「高性能化のためにエンジンをより前に、より高い位置に搭載するようになった」とか、色々な事情がある。が、日本のバイク市場が最盛期の1980年代に比べて随分と小さくなってしまったので、需要の旺盛な海外市場向けにバイクを設計し、そのまま日本市場にも持ち込むようになった、というのもかなり大きな理由だ。結果、私のような者には「なんという格好いいバイクだ。が、足が着かないので乗れない」という悲しい事態が起きたりする。
この日の目玉であったXSR900 GPは、1980年代に流行した「レーサーレプリカ」という、サーキットを走るレーシングマシンを模したスタイルで、素晴らしく格好良い。どきどきわくわくで跨がったのだが……これがやはりシートが高い。足はつんつんで、つま先がつくかどうかという程度。自分には乗れないなあ、とちょっとしょんぼりした気分になった。
私のような人はそれなりに多いらしく、メーカー純正、あるいはサードパーティから「ローダウンシート」あるいは「ローダウンリンク」というものも販売されている。前者はシートを薄くしてシート高を落とすもの、後者はサスペンションに組み込むリンクという部品に手を加えて車高全体を落とすというものだ。ところが、前者は「乗車姿勢が変化する」、後者は「サスペンションに手を加えるので、メーカーが指定したセッティングから外れて乗りにくくなることもある」という問題点がある。
市場が小さくなってしまったので、日本市場が製品開発では二の次になるのは仕方ない。資本主義というのはそういうものだから。
ただ、バイク4メーカーには、せめてシートの高い各車種にはメーカー純正のローダウンパーツと、「こうすれば性能に変化はありませんよ」というセッティングを用意してもらいたい。「背が低くて足の短い人も乗れますよ」とはっきり示してほしい。ショールームやアンテナショップに、跨がれるローダウンセッティングの車両が常備されていればなお良い。みんながみんな、背が高くて足が長いとは思わないでほしいのである。
ひとわたり愚痴っておいてここからが本題なのだが、XSR900 GP目当てで赴いたこの日の一番大きな収穫は、電動アシスト自転車の試乗だった。
モーターによるアシストが、かつてとは比べものにならないぐらい自然でさりげないものになっているのだ。以前の電動アシスト自転車は、ちょっとペダルを踏み込むと「さあ、アシストしますぜ」と言わんばかりに「がこん」といきなりモーターが回って、慣れないとぎくしゃくするというものだったが、今や本当に自分の脚力が強くなったかのように自然でさりげなく、しかも必要十分の力でアシストしてくれる。まったく普通の自転車と同じ感覚で乗れるではないか。
最初の電動アシスト自転車が発売されたのはいつだったかと調べてみる。1993年にヤマハが発売した「ヤマハPAS」が最初だった。それから31年、電動アシスト自転車は、ここまで進歩したのかと感心してしまった。
アレはZガンダムだったのか!
このところ、何かとロバート・A・ハインラインのSF小説を引き合いに出しているのだけれど、電動アシスト自転車は、憲法記念日に事寄せて人権について書いた回(「ハインライン『宇宙の戦士』を憲法記念日に読む」)に取り上げた「宇宙の戦士」に登場する兵器「パワードスーツ」そのものである。
「宇宙の戦士」の矢野徹氏の翻訳では、パワードスーツは「強化服」という日本語になっている。
強化服の働きを説明しよう。服の内部には何百もの圧力伝達装置(※ルビで「プレッシャー・リセプター」)がある。腕なら腕の運動でそれが押されると、伝達装置がその圧力を増幅し、服を着ている本人と同じ運動を起こすように強化服に命令する。
(中略)
強化服のフィードバックは、その服を着ている者の動きをどんなことでも正確に伝えるが、その力はおそろしいほど強くなるのだ。
(R・A・ハインライン『宇宙の戦士』ハヤカワSF文庫 より)
電動アシスト自転車は、ペダルを踏む力をトルクセンサーで検出し、相応の電力をモーターに供給して漕ぐ足の力をアシストする。パワードスーツと同じだ。このアイデアは、現在、人間が操作するマニピュレーターなどの装置でも使われている。ハインラインの想像力恐るべし。
実はハインラインは「ウォルド(Waldo)」(1942年、第2次世界大戦中だ!)という短編で、人の操作をトレースし力を増幅するロボットハンドを登場させていて、「宇宙の戦士」のパワードスーツはその発展型なのだけれど、それはさておき。
パワードスーツにヒントを得て「ロボットに乗るのではなくロボットを“着る”」というコンセプトを打ち出したのが、あのテレビアニメ「機動戦士ガンダム」(1979年 富野由悠季監督)のモビルスーツなのだから、電動アシスト自転車こそ、2024年の今、一番身近にあるモビルスーツなのだ!……と言えないこともない。
モビルスーツはその後、続編の「機動戦士Zガンダム」(1985年)で、変形するようになり、さらにその次の「機動戦士ガンダムZZ」(1986年)では2機のメカが合体して主役のガンダムZZに変形するようになった。テレビアニメをスポンサードするおもちゃメーカーの「子どもがあれこれいじくって楽しく遊べるおもちゃとしてのロボット」という都合から生まれたとはいえ、「変形と合体」は日本のアニメのロボットの大きな特徴であり――と考えてきて気がついた。
現在、市場では折り畳み式の電動アシスト自転車というものも販売されている。あれって、変形モビルスーツじゃないか。
折り畳み電動アシスト自転車は、Zガンダムだったのか!
本気で考察してみる。Zガンダムはロボット形状から変形してウェイブライダーという航空機の形状になる。変形することで二足歩行の人型ロボットと航空機という2つの用途を兼ね備えるわけだ。一方折り畳み電動アシスト自転車は、折り畳むことで持ち歩きが容易になったり、小さくなって収納しやすくなったりする。電動アシスト自転車は通常の自転車よりも重いので、持ち歩きといっても自動車に乗せやすいという収納の便利さが主だろう。ロボットが航空機に変形するなら共に能動的に使えるが、自転車を折り畳むと収納に便利、というのは少々受動的だ。
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