<研究けんきゅうノート>口述こうじゅつ筆記ひっきというケア労働ろうどう : 谷崎たにざき潤一郎じゅんいちろう筆記ひっきしゃ伊吹いぶき和子かずこ事例じれい中心ちゅうしん

書誌しょし事項じこう

タイトル別名べつめい
  • Dictation as Care Work : The Case of Tanizaki Jun'ichirō and Ibuki Kazuko
  • コウジュツ ヒッキ ト イウ ケア ロウドウ : タニザキジュンイチロウ ト ヒッキシャ ・ イブキ カズコ ノ ジレイ オ チュウシン ニ

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抄録しょうろく

本稿ほんこうは、口述こうじゅつ筆記ひっき創作そうさくにおける〈男性だんせい作家さっか女性じょせい筆記ひっきしゃ〉というジェンダー構成こうせい着目ちゃくもくし、近代きんだい作家さっかくケア労働ろうどう問題もんだい一端いったんあきらかにするものである。公的こうてき領域りょういきにおける自律じりつした主体しゅたい概念がいねん密接みっせつからみつくかたち周縁しゅうえんされるケア労働ろうどう問題もんだいは、作家さっか有名ゆうめいせいかげでシャドウワークとしてあつかわれてきた女性じょせい筆記ひっきしゃ不可視ふかし構造こうぞうともつうそこしている。 本稿ほんこうでは、まず作家さっかという職業しょくぎょうにおいて公的こうてき領域りょういき私的してき領域りょういきとの境界きょうかい確定かくていがいかにおこなわれているのかを確認かくにんし、とく女性じょせい筆記ひっきしゃ営為えいい評価ひょうか対象たいしょうからりこぼされ、搾取さくしゅされる構造こうぞうをケアの論理ろんりかさねて整理せいりした。そのうえで、実際じっさい谷崎たにざき潤一郎じゅんいちろう筆記ひっきしゃつとめた伊吹いぶき和子かずこ(1929 ~ 2015ねん)の回想かいそう記述きじゅつみちびきに、口述こうじゅつしゃ筆記ひっきしゃとの交渉こうしょう実態じったい口述こうじゅつ筆記ひっき現場げんばしょうじる摩擦まさつ軋轢あつれきのありようを具体ぐたいてき事例じれいとして検討けんとうした。とくに、伊吹いぶき筆記ひっきしゃとしての自身じしんのスタンスをしめすなかでかえす「〈機械きかい〉になる」という自己じこ認識にんしき焦点しょうてんて、みずからの立場たちば人格じんかくした無機質むきしつなライティング・マシーンにかさわせる一見いっけん受動じゅどうてき自称じしょうが、女性じょせい労働ろうどうする身体しんたいとして主体しゅたいするさい戦略せんりゃくてきかまえであると同時どうじに、筆記ひっきしゃ役割やくわり矮小わいしょうする評価ひょうか構造こうぞうへの抵抗ていこうにもつながることを指摘してきした。 また、〈機械きかい〉として伊吹いぶき口述こうじゅつ筆記ひっき現場げんば参画さんかくすることが、谷崎たにざきが〈小説しょうせつになる〉という生成せいせい変化へんか表裏一体ひょうりいったいがるものであることを考察こうさつした。これは、支配しはい抑圧よくあつといったもんがた言葉ことば表象ひょうしょうされざるをえなかった口述こうじゅつしゃ筆記ひっきしゃとの固定こていした主従しゅうじゅう関係かんけい風穴かざあなけ、ケアの実践じっせんざした関係かんけいせいのなかにそのいとなみを位置いちづけるうえで有効ゆうこう視角しかくとなる。伊吹いぶき言葉ことばから谷崎たにざきとの相互そうご依存いぞんせいることで、口述こうじゅつ筆記ひっき創作そうさく現場げんば口述こうじゅつしゃ筆記ひっきしゃ双方そうほうにおけるアイデンティティの形成けいせい承認しょうにん空間くうかんとしてとらえることが可能かのうになると結論けつろんづけた。

収録しゅうろく刊行かんこうぶつ

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