40周年しゅうねん記念きねんBOX発売はつばい記念きねん! スペシャル・インタビュー＜第だい2回かい＞を掲載けいさいしました!!

　『アタックNo.1』(1969)でアニメソングに出会であい、念願ねんがんのヒット賞しょうを手てにした大杉おおすぎ久美子くみこは、次々つぎつぎとアニメソングを歌うたうようになる。彼女かのじょのアニメソング歌手かしゅとしての評価ひょうかを決定けっていづけたのが、『アルプスの少女しょうじょハイジ』だった。

■『ハイジ』との出会であいで決心けっしんを固かためた

大杉おおすぎ　『アタックNo.1』のあとに、『ミラクル少女しょうじょリミットちゃん』(1973)、『エースをねらえ！』(1973)などの主題歌しゅだいかを歌うたうんですが、その前まえに、歌謡かよう曲きょくのレコードも出だしているんですよ(※)。まだ迷まよっていたんですね。だけど、やはり売うれませんでした。「アタックNo.1」は売うれたのに、自分じぶんの曲きょくは売うれないなんて、私わたしは歌手かしゅとしてやっていけるんだろうかって悩なやみましたね。

　※“杉すぎ 美子よしこ”名義めいぎでDENONレーベルから「ポケットにりんご」(1971:CD-136)、「ときめき」(1972:CD-156)の2枚まいのシングルをリリースしている。

『アルプスの少女しょうじょハイジ』 のジャケット

大杉おおすぎ　それから、『アルプスの少女しょうじょハイジ』(1974)にめぐりあったんです。
『ハイジ』は、『アタックNo.1』以来いらい、久ひさしぶりの渡辺わたなべ岳夫たけお先生せんせいとのお仕事しごとでした。私わたしは「アタックNo.1」の記憶きおくがあるから、岳夫たけお先生せんせいというと「怖こわい」という印象いんしょうがあって緊張きんちょうしていたんです。でも、『ハイジ』のレコーディングのときの岳夫たけお先生せんせいは、もう厳きびしいことはおっしゃいませんでした。
そのときは、エンディングの「まっててごらん」と挿入歌そうにゅうか「夕方ゆうがたの歌うた」の2曲きょくをいっしょに録ろくったんです。「夕方ゆうがたの歌うた」はほんとに夕焼ゆうやけの情景じょうけいが浮うかぶようなすてきな歌うたで、でも難むずかしい歌うたでした。録音ろくおんのとき、何なん度ども同おなじ箇所かしょで間違まちがえてしまうんです。「ここに来くると間違まちがえる」という部分ぶぶんがあって、気きをつけているんだけれど、歌うたうと同おなじところを間違まちがえる。それで何なん度ども録ろくり直なおしました。そのとき、岳夫たけお先生せんせいが「彼女かのじょはきっとうちでいっぱい練習れんしゅうしてきたんだね。だからすぐには直なおせないんだよ。待まっててあげよう」って言いってくださって。申もうし訳わけないと思おもいながらも、「岳夫たけお先生せんせいがそういってくださるなんて」とうれしかったですね。
その録音ろくおんが終おわったあと、『ハイジ』の試写ししゃ会かいに呼よばれて観かんに行いきました。私わたしたちは録音ろくおんのときは絵えを見みていないんですよ。そのとき、はじめて映像えいぞうを観みたんです。そしたら、オープニングのあのブランコがぐーんとなるシーン！　もう、「わあーっ」って引ひき込こまれて、見入みいってしまいました。
この『ハイジ』もおかげで大だいヒットして、また賞しょうをいただきました。この作品さくひんをきっかけに、私わたしは「もう自分じぶんの歌うただとか漫画まんがの歌うただとか関係かんけいない、こんなすばらしい歌うたが歌うたえてみんなによろこんでもらえるなら、アニメひと筋すじで行いこう」と心しんに決きめたんです。

☆　☆　☆

　この作品さくひんのために自費じひでヨーロッパへ音楽おんがく取材しゅざいに行いったという渡辺わたなべ岳夫たけおは、『ハイジ』の曲きょくに自みずからの音楽おんがく性せいを注つぎ込こんだ。伊集いじゅ加代子かよこが歌うたったオープニング「おしえて」、大杉おおすぎ久美子くみこによるエンディング「まっててごらん」、挿入歌そうにゅうか「ユキとわたし」「ペーターとわたし」「夕方ゆうがたの歌うた」など、シンプルなメロディに凝縮ぎょうしゅくされた渡辺わたなべ岳夫たけおの"音楽おんがくごころ"は、まっすぐに子こどもたちの心しんに届とどいた。1974年ねんにコロムビアから発売はつばいされたLPアルバム『アルプスの少女しょうじょハイジ』はロングヒットとなり、アナログレコードがCDに交代こうたいする1980年代ねんだい末まつまで、現役げんえき商品しょうひんとしてレコード店てんの店頭てんとうに並ならび続つづけたのである。

■子こどもたちの反応はんのうがダイレクトに伝つたわってくる楽たのしさ

――　歌謡かよう曲きょく時代じだいの歌うたい方かたとアニメソングの歌うたい方かたでは違ちがいはありましたか？

大杉おおすぎ　違ちがいますね。歌謡かよう曲きょくはフィーリングで歌うたってもいいところがあるんですが、アニメソングはそうじゃないんです。アニメの歌うたの場合ばあいは自分じぶんが前まえに出でるんじゃなくて作品さくひんがまずあるんですよ。
歌謡かよう曲きょくを歌うたっているときは、歌手かしゅというイメージを作つくって、そのイメージに沿そって歌うたっている感かんじです。でも、アニメの場合ばあいは、作品さくひんによって歌うたい方かたを変かえていかなければいけない。そこは大おおきな違ちがいでしたね。
『ハイジ』の頃ころから、子こどもたちの前まえで歌うたう機会きかいが増ふえて、遊ゆう園地えんちやデパートの屋上おくじょうや野外やがいステージなど、いろんなところに行いって歌うたいました。
子こどもたちの前まえで歌うたうのは楽たのしかったです。司会しかいのお姉ねえさんが「さあ、歌うたのお姉ねえさんが歌うたってくれますよ」って言いうんですけど、子こどもたちは最初さいしょは遠巻とおまきに見みてるんです。「誰だれが来きたんだろう？」って顔かおをして。でも、私わたしが歌うたい始はじめると、「わあーっ」て反応はんのうしてくれる。「ほんものだ」って。その反応はんのうが歌うたっている私わたしにじかに伝つたわってくるのが楽たのしかったですね。歌謡かよう曲きょく時代じだいには感かんじたことのない楽たのしさでした。
そうやってステージを重かさねていくうちに、自分じぶんなりに「次つぎはどんなふうに歌うたおうか」「こんなふうに歌うたってみよう」と考かんがえたり、「さあ、みんなで○○の歌うたを歌うたおうね」って子こどもたちに呼よびかけたりするようになって、ステージを作つくり上あげていく楽たのしみを知しりました。

――　小ちいさい頃ころはコンクールに出でるたびに緊張きんちょうされていたそうですが、そういう場ばでは緊張きんちょうしなかったんですか？

大杉おおすぎ　少女しょうじょ時代じだいと違ちがって、その頃ころになるともう大丈夫だいじょうぶでした。ステージに上あがるまでは緊張きんちょうしてるんですよ。でも、いざお客きゃくさんや子こどもたちを前まえにすると、歌うたうことが楽たのしくてたまらなかった。きっと、生せいのステージで、お客きゃくさんの前まえで歌うたうのが好すきだったんでしょうね。テレビの録画ろくがだとすごく緊張きんちょうするんですけれど、ステージではそんなことはなかったです。

――　その後ご、アニメブームがやってくると、お客きゃくさんの顔かおぶれがだんだん変かわってきましたね。

大杉おおすぎ　客席きゃくせきのうしろのほうに、お兄にいさんお姉ねえさんが混こんじるようになって(笑)かっこわらい。中高生ちゅうこうせいのファンが増ふえてきました。聴きき方かたも、子こどもたちのような「うわーっ」ていう聴きき方かたではないんです。彼かれらはアイドル歌手かしゅで育そだった世代せだいなんですけど、アニメソング歌手かしゅに求もとめているものは、アイドルとはまたちょっと違ちがうんですよ。特とくに私わたしの歌うたを聴きいてくれる人ひとは、アニメの歌うたというより、音楽おんがくとして聴きくという人ひとが多おおかったみたい。音楽おんがく好すきっていうのかな。クラシックが好すきな人ひとだったり、自分じぶんも音楽おんがくをやる人ひとだったり。そういうファンが私わたしの歌うたを聴ききにきてくれましたね。アニメの歌うたが、だんだんと音楽おんがく性せいを求もとめられるようになってきた時期じきだったと思おもいます。

■渡辺わたなべ岳夫たけおの思おもい出で

　『アタックNo.1』『アルプスの少女しょうじょハイジ』の音楽おんがくを担当たんとうした作曲さっきょく家か・渡辺わたなべ岳夫たけおは、その後ごも大杉おおすぎ久美子くみこのために多おおくの曲きょくを書かき、アニメソング歌手かしゅ・大杉おおすぎ久美子くみこを育そだてた。『フランダースの犬いぬ』に始はじまる一連いちれんの「世界せかい名作めいさく劇場げきじょう」の主題歌しゅだいかをはじめ、アニメソング史上しじょうに輝かがやく数々かずかずの名曲めいきょくを残のこしている。

☆　☆　☆

『フランダースの犬いぬ』 のジャケット

大杉おおすぎ　渡辺わたなべ岳夫たけお先生せんせいは私わたしの一番いちばんの恩人おんじんですね。ほんとうはやさしい先生せんせいなんですけど、先生せんせいとのお仕事しごとのときはいつもちょっとどきどきしていました。先生せんせいは歌うたい手てに要求ようきゅうするものも高たかかったんです。
『フランダースの犬いぬ』(1975)から「世界せかい名作めいさく劇場げきじょう」の歌うたを続つづけて歌うたわせていただいたんですが、岳夫たけお先生せんせいの曲きょくは、簡単かんたんなように聞きこえて、けっこう難むずかしいんですよ。『あらいぐまラスカル』(1977)にしても『ペリーヌ物語ものがたり』(1978)にしても、すごく高たかい音おとが使つかわれていたり、逆ぎゃくに低ひくい音おとがあったりして。私わたしの友ともだちが、「大杉おおすぎさんの歌うたを歌うたおうとしたんだけど、難むずかしくて歌うたえないのよ」って言いうんです。どうも岳夫たけお先生せんせいは、私わたしのときはわざと難むずかしい曲きょくを作つくってくるんじゃないかと思おもうくらい(笑)かっこわらい。簡単かんたんには歌うたえない部分ぶぶんをちょこちょこっと入いれてくるんですね。

――　岳夫たけお先生せんせいも「大杉おおすぎさんならここまで歌うたってくれるだろう」と思おもわれていたんじゃないですか？

大杉おおすぎ　そうかしらね。『あらいぐまラスカル』の挿入歌そうにゅうかに「もえるゆうひ」という歌うたがあるんです。松山まつやま祐ゆう(「示しめせ」＋「右みぎ」が正字せいじ)士し先生せんせいのアレンジもすばらしくて、すごくいい歌うたなんですが、歌うたうのも難むずかしかったんですよ。それを私わたしが精一杯せいいっぱい歌うたって録音ろくおんを済すませたあと、岳夫たけお先生せんせいが「今日きょうはおれの負まけだな」っておっしゃったんですって。あとからマネージャーから聞ききました。そのときは、「やったぁ!!」と思おもいましたね。
岳夫たけお先生せんせいの曲きょくは、曲きょくの中なかに「ここが聞きかせどころだよ」「ここをうまく歌うたってほしいんだよ」という箇所かしょが必かならずあるんです。それを歌手かしゅとして読よみ取とって、そこをとても大切たいせつに歌うたおうと心こころがけていました。

――　『森もりの陽気ようきな小人こどもたち ベルフィーとリルビット』(1980)のときは、アニメ雑誌ざっしの取材しゅざいに答こたえて、「渡辺わたなべ先生せんせいの歌うたって、いつもむずかしいのね。今回こんかいも1度目どめの録音ろくおんでは音程おんていが落おちつかなくって録ろくり直なおしたほどなの」(徳間書店とくましょてん刊かん『月刊げっかんアニメージュ』1980年ねん2月がつ号ごう)とおっしゃってますね。

大杉おおすぎ　「森もりへおいでよ」ですよね。この歌うたもなんでもない歌うたに聞きこえるでしょう。すごく難むずかしいんですよ。旋律せんりつはとてもかわいいんですが、息いきつぎのしかたに苦労くろうしたことを覚おぼえています。

■ちいさいかわのうた

――　渡辺わたなべ岳夫たけお先生せんせいとの最後さいごのお仕事しごとになる「ちいさいかわのうた」(『ミームいろいろ夢ゆめの旅たび』(1983)エンディング)もすばらしい曲きょくですよね。

『ミームいろいろ夢ゆめの旅たび』 のジャケット

大杉おおすぎ　作詞さくしをされた武たけ鹿しか悦子えつこさんは、もともと詩人しじんの方ほうなんです。すばらしい詩しでした。最初さいしょは「詩しを朗読ろうどくしてください」と言いわれたんです。でも、朗読ろうどくって言いわれてもどうしていいかわからなくて。
録音ろくおんのときに、いろんな方ほうがいろいろなことを言いうんですよ。岳夫たけお先生せんせいの曲きょくがとても美うつくしい曲きょくだったので、きっとみなさんそれぞれにイメージを持もたれていたと思おもうんですね。「こう歌うたったらいいんじゃない」「こうしたらどう？」っていろいろな意見いけんが出でて、実際じっさいに歌うたってもみたんですけど、どうしてもしっくりこない。最後さいごに「私わたしなりの歌うたい方かたをしてみていいですか？」と言いって歌うたったものが採用さいようされました。
私わたしの本来ほんらいの歌うたい方かたってこういう感かんじなんです。かわいいでもなく、力りきむでもなく、自然しぜんに歌うたった歌うたが「ちいさいかわのうた」です。
このときは岳夫たけお先生せんせいが笑わらいながら「ひとつこの老人ろうじんに書かかせてみようって思おもったんじゃない」っておっしゃっていました。まだお若わかかったんですけれどね。今いまいらっしゃらないのが、ほんとうに残念ざんねんです。

☆　☆　☆

　生涯しょうがいをアニメ・ドラマなどの劇げき音楽おんがくにささげた渡辺わたなべ岳夫たけおは、1989年ねん、惜おしまれつつ世よを去さった。その音楽おんがくは、今いまも多おおくのファンに愛あいされ歌うたい継つがれている。

★次回じかいは、ともにヒット曲きょくを作つくった作曲さっきょく家かの思おもい出で。
＜第だい3回かい　「エースをねらえ！」「ドラえもん」〜思おもい出での曲きょくと思おもい出での先生せんせい＞
お楽たのしみに！