伊藤忠「遺伝子ビジネス」の全貌、GAFAとの覇権争いに参戦した狙い
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商社生存の鍵を握るのが、デジタル化やデータビジネスへの参入だ。だが、この分野はGAFAに代表される世界的なプラットフォーマーが台頭し、商社が戦える余地は限りなく狭まっている。そんな中、「商いの次世代化」を標榜する伊藤忠が、人の遺伝子情報という究極のデータを使ったビジネスで覇権を握ろうとしている。特集『最後の旧来型エリート 商社』(全13回)の#9では、その最前線の現場をレポートする。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
ゲノムの和製プラットフォーマーへ
タッグを組んだ一人の商人と科学者
茨城県つくば市の筑波大学にあるプレシジョン・メディスン開発研究センター。人のゲノム(全遺伝情報)を網羅的に調べ、個人に最適な治療や投与を行う「プレシジョン・メディスン」(個別化精密医療)実現のため、2017年に国内で初めて開設された一大研究拠点だ。
19年夏、この施設を訪れた伊藤忠商事ITビジネス第三課長の高部公彦は、目の前に並んだ最新鋭の医療機器に驚愕した。
元来、人の全ゲノム解析には膨大な歳月と費用を要した。1990年代から13年間かけて実施された多国間プロジェクトでは、たった1人のゲノムを解析するのに費やした予算は3500億円に上った。
ところが研究室に3台並んだ「次世代シークエンサー」(遺伝子の塩基配列を高速で解読できる装置)は、1台で40時間以内に60人分のゲノムを解読することが可能だ。しかも事前のサンプル処理は全て人型ロボットが自動で行い、精度も格段に向上している。
全ゲノム解析は、がんや糖尿病、認知症などの将来的な発症を予測するのに有効とされる。個人によって異なるゲノムを安価で大量に調べられれば、病気の予防や医療費の削減に役立つ。1人当たり90GBに及ぶ全遺伝情報が日々、積み上がる現場がそこにはあった。
「高品質で付加価値の高い膨大なデータが毎日生み出されている。われわれが持つITの知見を生かし、新しい情報産業ビジネスをつくり出せるのではないか」
高部はそう確信した。それが一人の商人と、最新科学が出合った瞬間だった。