「どの家を買ったらいい？」の質問に、未来のAIでも「正しい答え」を出せないワケ写真しゃしんはイメージです　Photo:PIXTA

ChatGPTをはじめ、社会しゃかいでAI（人工じんこう知能ちのう）が爆発ばくはつ的てきに普及ふきゅうしている。AIは便利べんりではあるが、「AIにより仕事しごとが奪うばわれる」という議論ぎろんを呼よんでいるのも確かくか。こうした時代じだいを生いき抜ぬくためには、どんな心こころがけが必要ひつようなのか。脳神経のうしんけいの専門医せんもんいである岩立いわたち康男やすお氏しが、人間にんげんの強つよみを指摘してきする。※本稿ほんこうは、岩立いわたち康男やすお『直観ちょっかん脳のう　脳のう科学かがくがつきとめた「ひらめき」「判断はんだん力りょく」の強化きょうか法ほう』（朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱん）の一部いちぶを抜粋ばっすい・編集へんしゅうしたものです。

知識ちしきや論理ろんり的てき思考しこうだけでは
AIに打うち勝かつことは出来できない

　AIは知識ちしき・データの活用かつよう、そしてそこから導みちびき出だされる論理ろんり的てき思考しこうにおいて、人間にんげんが全まったくかなわない仕事しごとをする。つまり、知識ちしきの活用かつよう、論理ろんり的てき思考しこうだけを武器ぶきとする人材じんざいの前まえにAIが立たちはだかるということになる。

　これまでの日本にっぽんにおける高学歴こうがくれき人材じんざい、受験じゅけんエリートと言いわれる人ひとたちは知識ちしきと論理ろんりに強つよい人材じんざいであるのだが、それこそがAIの最もっとも得意とくいとするところである。これまでエリートと言いわれてきた人ひとたちも、それだけに安住あんじゅうしていたらAIに淘汰とうたされることになってしまう可能かのう性せいがある。

　それではどのような人材じんざいがAI時代じだいにおいて真しんに必要ひつようとされる人材じんざいになり得えるのであろうか。

厖大ぼうだいな過去かこデータを積つんだ
碁ごプログラムを出だし抜ぬいた奇手きしゅ

　話はなしは少すこしさかのぼるが、2016年ねんにグーグルの開発かいはつした「アルファ碁ご」というコンピュータ・プログラムが、国際こくさい大会たいかいで18回かい優勝ゆうしょうを誇ほこる当時とうじ最強さいきょうと言いわれた棋士きしであるイ・セドル九きゅう段だんと対局たいきょくし、4勝しょう1敗はいで勝かってしまった。ゲームとはいえ、最もっとも古ふるい歴史れきしを持もつボードゲームで無限むげんに近ちかい打うち手しゅがある碁ごの世界せかいで、人類じんるいの叡智えいちと言いってもいい棋士きしを破やぶったのである。この「事件じけん」は大おおきく報道ほうどうされ、人々ひとびとに衝撃しょうげきを与あたえた。

　このアルファ碁ごは、膨大ぼうだいな数かずの人間にんげんどうしのオンライン対局たいきょくをデータとして入力にゅうりょくして、AIが自律じりつ的てきに学習がくしゅうするようにアルゴリズムを開発かいはつしたものである。このプログラム開発かいはつの優すぐれたところは、いくつかの別べつバージョンとの対戦たいせんが何なん度ども試こころみられて、プログラムのブラッシュアップが行おこなわれた点てんであろう。

　私わたしがこの対局たいきょくで注目ちゅうもくするのは、アルファ碁ごの「1敗はい」の部分ぶぶんだ。膨大ぼうだいなデータとそこから導みちびき出だされる完璧かんぺきなプログラム、さらにそこに磨みがきをかけるために繰くり返かえされた自己じこ学習がくしゅうといった論理ろんり的てきに最強さいきょうと言いってもいい戦略せんりゃくでも、人間にんげんに勝かてない部分ぶぶんがあるということだ。

　3連敗れんぱいしたイ・セドルは、4局きょく目めの78手て目めで前例ぜんれいのない、非常ひじょうに独創どくそう的てきな一手いってを打うってこの対局たいきょくで勝利しょうりした。アルファ碁ごによる過去かこの学習がくしゅう成果せいかからすれば、あり得えない一いち手て、確かく率りつがほぼゼロの一いち手てだったのである。セドルは過去かこの全すべての経験けいけん値ちが作つくった記憶きおくネットワークの中なかに、それまで3連敗れんぱいした対局たいきょくのデータを落おとし込こみ、脳のう全体ぜんたいを結むすびつけることによって過去かこにはない一手いってを「創造そうぞう」したのである。だからこそAIを出だし抜ぬくことができたのだ。