【脳神経専門医が解説】「タイパばかり求める人」が圧倒的に足りてない能力とは？写真しゃしんはイメージです　Photo:PIXTA

コスパ、タイパなど現代げんだい人じんはなにかと費用ひよう対たい効果こうかを求もとめがちで、仕事しごとにおいても効率こうりつを重視じゅうししてしまう。いかに無駄むだな時間じかんと作業さぎょうをなくすかに腐心ふしんするビジネスマンも多おおいが、脳神経のうしんけい専門医せんもんいの岩立いわたち康男やすお氏しは、あえて「ぼーっと」思考しこうする時間じかんが必要ひつようだと指摘してきする。※本稿ほんこうは、岩立いわたち康男やすお『直観ちょっかん脳のう　脳のう科学かがくがつきとめた「ひらめき」「判断はんだん力りょく」の強化きょうか法ほう』（朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱん）の一部いちぶを抜粋ばっすい・編集へんしゅうしたものです。

「無駄むだ」に振ふり回まわされる時代じだいに
効率こうりつ化かは良よいことなのか？

　多おおくのビジネススクールにおいて、仕事しごと上じょうの無駄むだの削減さくげんとプロセスを改善かいぜんすることによる「効率こうりつ化かの追求ついきゅう」が主要しゅようなテーマになっている。時間じかんが全すべての人ひとに平等びょうどうに割わり振ふられている中なかで、ある一定いっていの時間じかん内ないで、より多おおくの作業さぎょうをこなそうと考かんがえるのは当然とうぜんのことだろう。

　目めの前まえに現あらわれる課題かだい、多おおくの仕事しごと上じょうのメールなどにてきぱきと返信へんしんしていると、仕事しごとをしたという実感じっかんが湧わく。一方いっぽうで、実験じっけん結果けっかの吟味ぎんみ・考察こうさつなどは時間じかんをかけても明確めいかくな成果せいかが得えられないことも多おおく、「この時間じかん、俺おれは何なにをやっていたんだろう」とネガティブに捉とらえてしまいがちだ。データを見みながら次つぎの一手いってをあれこれ悩なやむ日々ひびが続つづけば、気分きぶんは落おち込こみ、「俺おれはできない人間にんげんだ」と思おもい込こんでしまうという人ひとも多おおいことだろう。

　だが、より良よい仕事しごとをしていくうえで、目めの前まえの課題かだいをできるだけ早はやく解決かいけつしていくだけでいいのだろうか。

　まず、これらの作業さぎょうがどのような脳のうの使つかい方かたをしているのかを見みていこう。メールの返信へんしんでは、明あきらかに右脳うのうも左脳さのうも含ふくめて「集中しゅうちゅう系けい」（編集へんしゅう部ぶ注ちゅう／いろいろな課題かだいをこなすうえで、意識いしきを集中しゅうちゅうさせている時ときに活性かっせい化かする脳のう領域りょういき。前頭葉ぜんとうようや頭頂とうちょう葉はの外側そとがわ大脳皮質だいのうひしつが中心ちゅうしん）を使つかっており、いくつかの情報じょうほうを統合とうごうして文章ぶんしょうを書かき上あげている。あるいは、何なにかを作つくり上あげるために細こまかな作業さぎょうに集中しゅうちゅうし、最終さいしゅう形がたを完成かんせいさせるといったことも、集中しゅうちゅう系けいを使つかっている。

　一方いっぽうで、実験じっけん結果けっかを眺ながめて、これはどういう意味いみだろう、と考かんがえている時ときには「分散ぶんさん系けい」（編集へんしゅう部ぶ注ちゅう／「帯状おびじょう回かい」という脳のうを前後ぜんごにぐるりと回まわる長ながい神経しんけい線維せんいによって、脳のうの広ひろい領域りょういきを結むすびつけている）が働はたらいている。過去かこの実験じっけんデータとその時とき考かんがえたことなどの記憶きおくに、今回こんかい得えられたデータを結むすびつけて、新あらたな解釈かいしゃくを見出みいだそうとしているのである。脳のうの中なかのいろいろな記憶きおくのつながり方かたを模索もさくしている状態じょうたいだ。こうした時間じかんは、すぐに成果せいかをもたらしてくれるわけではない。何なにも思おもいつかず「おかしいな」「結局けっきょくわからない」で終おわってしまったときなどは、一見いっけん何なんの生産せいさん性せいもないように思おもえる。

　こういった「すぐに成果せいかの出でない」時間じかんを排除はいじょしていこうというのが「作業さぎょうの効率こうりつ化か」、あるいは「時間じかんの管理かんり術じゅつ」だ。つまり、いかに「集中しゅうちゅう系けい」の働はたらく時間じかんを多おおくできるか、工夫くふうすることを指さしている。