ゴナ単語たんご

ゴナ

2.5千せん文字もじの記事きじ

ゴナとは、株式会社かぶしきがいしゃ写うつし研けんから提供ていきょうされている和文わぶん書体しょたいである。分類ぶんるいは角すみゴシック体たい。設計せっけい士しは中村なかむら征せい宏ひろし。手動しゅどう写植しゃしょく、電でん産さん写植しゃしょく機き製品せいひん用ように提供ていきょうが行おこなわれた。

線せんが均質きんしつで懐ふところの広ひろいモダンスタイル（ニュースタイル）系けいゴシック体たい、また極太ごくぶと系けい書体しょたいのパイオニアかつ代表だいひょう格かくであり、多おおくのゴシック体たいなどの書体しょたいデザインに多大ただいな影かげ響ひびきを与あたえ、追随ついずい者しゃも多おおい。

概要がいよう

近代きんだい的てきな超ちょう特とく太ふとしゴシック体たい

——発表はっぴょう時じのパンフレットより

1975年ねん、写うつし研けんから「ゴナ-U」として発売はつばい。タショニムコードはUNAG。写うつし研けんで初はじめてUのウエイトを冠かんした書体しょたいである。このUは、UltraのUであり、極太ごくぶとのウエイトを表あらわしている。

流ながれとしては、写うつし研けんにおいて極細ごくぼそモダン丸まるゴシック体たい「ナール」の成功せいこうを受うけ、同どう書体しょたいを設計せっけいした中村なかむらへ、新あらたに従来じゅうらいの角すみゴシック体たいを上回うわまわるゴシック体たいの設計せっけいが企画きかく立案りつあんされ、オファーへ至いたったものである。監修かんしゅうをつとめた橋本はしもと和夫かずおの談話だんわによれば、コンセプトでは写植しゃしょく機きにおいて表現ひょうげんできる限界げんかいの太ふとさを持もたせたものであるとされる。名前なまえの由来ゆらいは中村なかむらの「ナ」とゴシックの「ゴ」で、多おおくの書体しょたいの例れいに漏もれず社長しゃちょうであった石井いしい裕子ゆうこの命名めいめいによる。

従来じゅうらいの角すみゴシック体たいが線せんの幅はばに緩急かんきゅうを持もち、懐ふところを狭せまくしていたのに対たいして、欧文おうぶん書体しょたいのUniversやHelveticaなどに影かげ響ひびきを受うけたという本ほん書体しょたいでは、極太ごくぶとの造形ぞうけいを実現じつげんするために直線ちょくせん的てきで幾何きか学がく的てきなエレメントが設計せっけいされた。骨ほね格かく面めんでも、極太ごくぶとかつモダンな造形ぞうけいとするために従来じゅうらいの例れいにとらわれず、「き」「さ」の2・3画かく目めを切きり離はなしたり、「な」では3・4画かく目めを接続せつぞくするなどの非常ひじょうに特徴とくちょう的てきな処理しょりを行おこなった。他ほかにも濁点だくてん・半はん濁点だくてんのために切きり欠かきを作つくったり、パーツの長ながさを調整ちょうせいするなど、図形ずけい的てきな処理しょりを多おおく行おこない、モダン角すみゴシック体たいの礎いしずえを作つくり上あげた。

当初とうしょはこの極太ごくぶとウエイト「U」のみでのリリースであったが、これは小ちいさい文字もじサイズではつぶれて読よめなくなってしまうので、小見出こみだしに使つかえるEが作つくられてから、最終さいしゅう的てきに12種しゅのウエイトファミリーに拡張ちょうされ、本文ほんぶんから見出みだしまで幅広はばひろく利用りようできるようになった。このことで、雑誌ざっしに採用さいようされたり、銀行ぎんこうや鉄道てつどうなどの制定せいてい書体しょたいにことごとく選えらばれるなど、1980年代ねんだいにはゴナを見みない日ひはないというほどに広ひろがりを見みせた。

一時期いちじきのJRの制定せいてい書体しょたいもゴナであった。漫画まんがでも、セリフを強調きょうちょうするために用もちいられる人気にんきの書体しょたいであった。特とくに初期しょきの「ワンピース」などの、多おおくの印しるし象ぞう的てきなセリフで使つかわれている太ふといゴシック体たいがゴナだったりする。

書体しょたい業界ぎょうかいでも追随ついずい者しゃを多おおく生うみ、リョービイマジクス「ナウ」、モリサワ「新しんゴ」、フォントワークス「ニューロダン」などが著名ちょめいである（これは後述こうじゅつ）。

DTPへの移行いこう後ごは、雰囲気ふんいきは異ことなるが類似るいじする新しんゴなどで代替だいたいされる例れいが多おおい。というのも、本ほん書体しょたいもまた写うつし研けんの他ほかの書体しょたいの例れいに漏もれずデジタル化かが行おこなわれておらず、長ながらく写真しゃしん植字しょくじ機き向むけのみの提供ていきょうで、DTP 環境かんきょうでは利用りようが依然いぜんできない状況じょうきょうが続つづいているためである。JRの制定せいてい書体しょたいや、前述ぜんじゅつの漫画まんがの書体しょたいなども近年きんねんのものは新しんゴに置おき換かわっている。

2024年ねん以降いこう、モリサワとの協同きょうどうにてOpenType フォントの開発かいはつが発表はっぴょうされており、人気にんき書体しょたいであるゴナも利用りようできるようになる可か能のう性せいは高たかく、続報ぞくほうが待またれる状況じょうきょうである。

特徴とくちょう

シンプルな幾何きか学がく的てきなエレメントデザインによるモダンゴシック体たいである。書体しょたいの説明せつめいについて、写うつし研けん発行はっこうの機関きかん誌し「写うつし研けん38」に次つぎのようにある。

従来じゅうらいのゴシック体たいではもの足たりなかった豪ごう快こころよな力ちから強つよさをもち、その中なかにも親おやしみと柔やわらかさを併あわせもった、多おお目め的てきに活用かつようできる書体しょたいです。

骨ほね格かくは、当初とうしょの極太ごくぶとの造形ぞうけいを支ささえるべく、フトコロ（文字もじの引ひき締しまり）は広ひろくとられ、重心じゅうしんも低ひくいバランス型かたとなっている。線せんの幅はばなどの黒くろ味あじに関かかわる部分ぶぶんには、文字もじを組くんだ際さいに一定いっていに見みえるように徹とおる底そこした調整ちょうせいが行おこなわれており、特とくにUウエイトでは隙間すきまがギリギリになるまで線せんを太ふとめ、綿密めんみつな調整ちょうせいを行おこなっている。他方たほう、その調整ちょうせいのために軽微けいびな傾かたむきや曲面きょくめんなどを随所ずいしょに有ゆうしており、完かん全ぜんに幾何きか学がく的てき・直線ちょくせん的てきではない。

ファミリーは、ウエイト（太ふとさ）の展開てんかいがL、M、D、DB、B、E、H、Uの8段階だんかい。また、アウトラインのO、影かげ付つきのOS、中なかに線せんの通とおったIN、骨ほね格かくと囲かこみ線せんが重かさなったLBが用意よういされた。

また、混こん植うえの仮名かめい違ちがいとして「かなO」「かなW」「かなC」が中村なかむらによって設計せっけいされリリースされている。この後のち、「ゴカール」「ロゴライン」など、他たデザイナーによっても混こん植うえ用ようの仮名かめい書体しょたいは作つくられている。

影響えいきょう

ゴナは幾何きか学がく的てきな印しるし象ぞうを持もつ「モダン系けい角かくゴシック」の造形ぞうけいを定義ていぎすることに成功せいこうした。

均質きんしつな線せんは以降いこうの和文わぶんゴシック体たいのスタンダード的てきな造形ぞうけいとして定着ていちゃくし、図形ずけいとしての挑戦ちょうせん的てきな文字もじの処理しょりも影かげ響ひびきは顕著けんちょであった。各社かくしゃがこぞってモダン系けいのゴシック体たいを用意よういし、利用りようした。ゴナ以前いぜんと以降いこうで、ゴシック体たいの設計せっけいの方向ほうこう性せいはガラリと変かわってしまった。仮名かめいの組くみ替かえは、モダン系けい漢字かんじ書体しょたいが持もつ混こん植うえへの汎用はんよう性せいの高たかさも示唆しさし、デザイン系けい仮名がな書体しょたいの開発かいはつを後押あとおしした。

影かげ響ひびきどころか完かん全ぜんにゴナを模倣もほうした「偽にせゴナ」の流通りゅうつうも多おおいのだが、これには否定ひてい的てきな意見いけんがある。例たとえばカッティングシステムに搭載とうさいの内蔵ないぞうフォントに多おおくあったりする。また、Adobe Fontsにも収録しゅうろくされている「TA-角かくゴGF」などもゴナの模倣もほうであるが、このような書体しょたいは元もとのバランスを大おおきく崩くずれているものが少すくなくなく、品質ひんしつはあまり良よくない。

他方たほう、モリサワの新しんゴは、模倣もほうではなく新規しんきの設計せっけいではあるものの、「な」の接続せつぞくや多おおくの部分ぶぶんでゴナの影かげ響ひびきがみられ、類似るいじ性せいが認みとめられたことで、写うつし研けんはモリサワを相手取あいてどって裁判さいばんを起おこしたが、文字もじの書体しょたいに著作ちょさく権けんが認みとめられなかったことにより却下きゃっかとなってしまったということがあった。これは本邦ほんぽうの書体しょたいの著作ちょさく性せいや書体しょたい設計せっけい士しの立場たちばを位置付いちづける判例はんれいとして知しられるところである。