マーシャル諸島しょとう共和きょうわ国こくマジュロ環礁かんしょうには、東ひがし太平洋たいへいよう戦没せんぼつ者しゃの碑いしぶみと聖恩せいおん紀き念ねん碑ひという日本にっぽん政府せいふが建立こんりゅうした記念きねん碑ひがある。前者ぜんしゃは1984年ねんに第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんの犠牲ぎせい者しゃへの追悼ついとうの意味いみを込こめて建立こんりゅうされ、後者こうしゃは1918年ねんに台風たいふう被害ひがいを受うけた同どう環礁かんしょうに対たいする大正天皇たいしょうてんのうの支援しえんを記念きねんして建たてられた。

　建立こんりゅうした日本にっぽん側がわの意図いととは異ことなり、今日きょうのマジュロ環礁かんしょう民みんたちは、両方りょうほうの記念きねん碑ひの建立こんりゅうを日本にっぽんがもたらした経済けいざい開発かいはつによる地域ちいきの発展はってんと結ゆいびつけて考かんがえた。1980年代ねんだいには、日本にっぽんからマーシャル諸島しょとうへの経済けいざい支援しえんの実施じっしと慰霊いれい巡拝じゅんぱいによる日本人にっぽんじんの訪問ほうもん再開さいかいが重かさなった。マジュロ環礁かんしょう民みんは、東ひがし太平洋たいへいよう戦没せんぼつ者しゃの碑いしぶみの建立こんりゅうを、日本にっぽんからもたらされるODA事業じぎょうによるローラ地区ちくの発展はってんと結ゆいびつけて歓迎かんげいした。同様どうように、戦前せんぜんに建立こんりゅうされた聖恩せいおん紀き念ねん碑ひに対たいしても、同どう紀き念ねん碑ひが建立こんりゅうされた時期じきがコプラ産業さんぎょうの発展はってんによるマジュロ環礁かんしょうの開発かいはつが進すすんだ時期じきであったことと結ゆいびつけ、彼かれらは紀き念ねん碑ひを豊ゆたかな時代じだいの象徴しょうちょうとして考かんがえる言説げんせつが確認かくにんされた。

　二ふたつの事例じれいから、記念きねん碑ひの建立こんりゅうとそこから現地げんちの人々ひとびとが想起そうきする意味いみとの関係かんけいについて、次つぎのように解釈かいしゃくできる。一ひとつは、歴史れきし的てき文脈ぶんみゃくを超こえて生むじさせる記念きねん碑ひが有ゆうしている記憶きおくやイメージを喚 起おこりする力ちからである。戦没せんぼつ者しゃの碑いしぶみの建立こんりゅうと経済けいざい援助えんじょの開始かいしが同どう時期じきだったことから、同どう碑いしぶみが地域ちいき開発かいはつを想起そうきさせるエージェンシーと化かした。同様どうように住民じゅうみんは紀き念ねん碑ひに対たいしても、植民しょくみん地ち主義しゅぎという文脈ぶんみゃくを超こえて、戦前せんぜんのプランテーション開発かいはつによる経済けいざい開発かいはつを想起そうきさせたと解釈かいしゃくできる。

　一方いっぽう、記念きねん碑ひの建立こんりゅうと経済けいざい開発かいはつを結ゆいびつけた言説げんせつが生せいじた背景はいけいに、戦後せんごの米国べいこくによる統治とうち政策せいさくとの関係かんけいがある。米国べいこくからも多大ただいな財政ざいせい支援しえんがあったにもかかわらず、現地げんちの人々ひとびとは、社会しゃかいインフラ整備せいびなど目めの前まえに見みえる形かたちで顕在けんざい化かされた日本にっぽんのODA事業じぎょうに対たいして、豊ゆたかさの象徴しょうちょうを見出みいだした。 そこには、強制きょうせい移住いじゅう政策せいさくや過度かどな欧米おうべい文化ぶんかの流入りゅうにゅうという目めに見みえない形かたちで現地げんち社会しゃかいに深刻しんこくな影響えいきょうを及ぼす米国べいこくに対たいする不満ふまんが存在そんざいすること、そして、その対比たいひの中なかで記念きねん碑ひの建立こんりゅうと日本にっぽんの経済けいざい開発かいはつを結ゆいびつける言説げんせつが生うみ出だされたのだと解釈かいしゃくできる。