抄録
聖書物語を再話として再構築する試みは,洋の東西を問わず, あまたの虚構作家たちを魅了してきたが, 中には聖書が信仰の書であることを忘れて, 狂言綺語を弄し偏頗な考えを押しつけてくる作品も少なくはない. しかしその中にあってその再構築が, 作者のリアリティとみごとに共震しあっている例も見逃すことはできない. R. Gravesの聖書再話もその一つである. 聖書に対する異端と懐疑を出発点として, やがて神秘的なそれらの内面化を通して異端を超えて行ったGravesの創作プロセスは, その過程に作用したパラメーターを知るために, 貴重な手懸りを与えてくれるように思う. 彼の最初の小説 My Head ! My Head ! が, どういうパラメーターの作用により, 単なる借景小説の枠を超えて詩人の中に内面化をもたらしたのか, 創作のメンタルプロセスに光を当てることにより, できるだけ仔細な考察を試みてみた.