コラム：川村かわむら元気げんき　誰だれも知しらない100の企たくらみ - 第だい5回かい

2022年ねん9月がつ13日にち更新こうしん

【特別とくべつ書かき下おろしエッセイ】「百花ひゃっか」に至いたるまでの50の映画えいが

「電車でんしゃ男おとこ」に始はじまり、「告白こくはく」「悪人あくにん」「モテキ」「おおかみこどもの雨あめと雪ゆき」「君きみの名なは。」「怒いかり」「天気てんきの子こ」など、これまで40本ほんの映画えいがを手てがけてきた川村かわむら元気げんき氏しは、映画えいが業界ぎょうかいならずとも、クリエィティブな仕事しごとに従事じゅうじする人々ひとびとにとって無視むしすることができない存在そんざいといえるでしょう。今年ことし、映画えいがプロデューサーのほかに小説しょうせつ家か、脚本きゃくほん家か、絵本えほん作家さっかなど、実じつに多おおくの顔かおを持もつ川村かわむら氏しに、「映画えいが監督かんとく」という肩書かたがきが新あらたに加くわわりました。

自みずからの祖母そぼが認知にんち症しょうになったことをきっかけに、人間にんげんの記憶きおくの謎なぞに挑いどんだ自著じちょ「百花ひゃっか」の映画えいが化かに際さいし、なぜ監督かんとくを務つとめようと思おもったのか。激務げきむをこなす川村かわむら氏しにとって、仕事しごとというカテゴリーにおける効率こうりつ、非ひ効率こうりつの線引せんひきはどこにあるのか。

この連載れんさいでは、本人ほんにんのロングインタビューはもちろんの、川村かわむら氏しの“ブレイン”ともいえる仕事しごと仲間なかまや関係かんけい者しゃからの証言しょうげん集しゅうなどを通とおして、全ぜん7回かいで「川村かわむら元気げんき」を紐解ひもときます。映画えいが人じんとしてのキャリアをスタートさせてから「百花ひゃっか」に至いたるまで、100の企たくらみに迫せまっていきます。

第だい5回かいは、「百花ひゃっか」に至いたるまでの50の映画えいが、というテーマで、川村かわむら氏しが映画えいが.com読者どくしゃの皆様みなさまのために書かき下おろしのエッセイを特別とくべつ寄稿きこうしてくれました。

「百花ひゃっか」に至いたるまでの50の映画えいが
川村かわむら元気げんき

神かみは「光ひかりあれ」と言いわれた。すると光ひかりがあった。
神かみはその光ひかりを見みて、良いしとされた。
神かみはその光ひかりと闇やみとを、分わけられた。

クリスチャンだった母親ははおやと聖書せいしょの「創世そうせい記き」を読よんだあと、父親ちちおやに連つれられて横浜よこはまの映画えいが館かんに行いった。
たしか三さん歳さいの時ときだ。
生うまれて初はじめての映画えいが館かんは、暗くらくて煙けむたくて、床ゆかがベトベトしていて、なんだか怖こわかった。
けれども、そこに一線いっせんに差さし込こむ光ひかりがあった。
僕ぼくはその光ひかりを見みつめる。
光ひかりの先さきには「映画えいが」があった。

これが僕ぼくにとって最初さいしょの「映画えいがの記憶きおく」だ。
映画えいがとは「光ひかり」だと思おもう。
暗闇くらやみの中なかに差さし込こむ、希望きぼうの光ひかり。
ちなみに僕ぼくがそこで最初さいしょに見みた「光ひかり」はスティーブン・スピルバーグの「E.T.」だった。

子供こどもの頃ころ、映画えいがの仕事しごとをしていた父親ちちおやが、週末しゅうまつになるとビデオで映画えいがを観みていた。
フェリーニの「道みち（1954）」、川島かわしま雄三ゆうぞうの「幕末ばくまつ太陽たいよう傳でん」、リドリー・スコットの「ブレードランナー」、宮崎駿みやざきはやおの「風ふうの谷たにのナウシカ」。この四よん本ほんが定番ていばんで、繰くり返かえし何なん度ども同おなじ作品さくひんを父ちちの隣となりで観みていた。
父ちちは気きまぐれで、音おとを消けして映像えいぞうだけを観みたり、画面がめんを見みずに音おとだけを聴きいていたりしたこともあった。
だから僕ぼくにとっては、この四よん本ほんがいまだに映画えいが作づくりのベースになっているような気きがする。
映画えいがとは可笑おかしくて、悲かなしくて、リアルだけど、嘘うそみたいだ。
でも必かならず、そこに「人間にんげん」が見みえてくる。

中学生ちゅうがくせい、高校生こうこうせい、大学生だいがくせいと、暇ひまさえあれば映画えいがを観みていた。
映画えいが館かんに通かよい、レンタルビデオショップに足あしを運はこび、多おおいときは年としに500本ほん以上いじょうの作品さくひんを観みた。「恋こいする惑星わくせい」に胸むねをときめかせ、「パルプ・フィクション」に衝撃しょうげきを受うけ、同どう時期じきに現あらわれた「アンダーグラウンド（1995）」「ファーゴ」「セブン」に映画えいが新しん時代じだいを感かんじた。

「珍めずらしい映画えいがを作つくりたい」という気持きもちが常つねにある。
妙みょうな映画えいが、稀まれな映画えいがともい換いかえられる。
そう思おもうのは、学生がくせい時代じだいの映画えいが体験たいけんが大おおきいように思おもう。

そもそも花はなというもの、万木まんぎ千草ちぐさ四季しき折々おりおりに咲さくものであって、その時ときを得えた珍めずらしさゆえに愛めでられているのである。申楽さるがくにおいても人ひとの心しんに珍めずらしいと感かんじられる時とき、それがすなわち面白おもしろいという心しんなのだ。

五ご百ひゃく年ねん前まえ、世阿弥ぜあみはそう言いった。

花はな、面白おもしろい、珍めずらしい。これらは三みっつの同おなじ心しんである。
いずれの花はなでも散ちらずに残のこる花はななどあろうか。花はなは散ちり、また咲さく時ときがあるがゆえ珍めずらしいのだ。”

人ひとはなぜ花はなに惹ひかれるのか？　花はなを生いけ、桜さくらの下したに集あつまるのか。
それはすぐに散ちり、失うしなわれる、「珍めずらしい」ものだからだと世阿弥ぜあみは言いう。

その時々ときどきの世相せそうを心得こころえ、その時々ときどきの人ひとの好このみに従したがって芸げいを取とり出だす。これは季き節ぶしの花はなが咲さくのを見みるがごときである。

「時代じだいの気分きぶんを感かんじながら、花はなのような、珍めずらしく、面白おもしろい映画えいがを作つくる」
この世阿弥ぜあみの言葉ことばは、自分じぶんの映画えいが作づくりの指針ししんとなっている。

「電車でんしゃ男おとこ」はネット掲示板けいじばんを映画えいがにした。「告白こくはく」はミュージックビデオのような映画えいがだと揶揄やゆされた。「モテキ」に至いたってはカラオケビデオだと言いわれた。「君きみの名なは。」の頃ころには、こういう映画えいがもありかもしれないと思おもってもらえるようになったけれど、いつも「珍めずらしい」映画えいがを作つくってきたつもりだ。

「百花ひゃっか」というタイトルも、花はなに惹ひかれる自分じぶんの心しんがそう名なづけたのかもしれない。
記憶きおくもまた、花はなのように、美うつくしいけれど儚はかないものだ。

「あなた誰だれ？」
七なな年ねん前まえ、僕ぼくのことを忘わすれてしまった祖母そぼ。
祖母そぼと向むき合あう中なかで、自分じぶんもさまざまなことを忘わすれ、記憶きおくを改竄かいざんしていることに気きづいた。
僕ぼくがスマートフォンやクラウドのなかに「何なにもかも忘わすれないように」記憶きおくを溜ため込こんでいる横よこで、祖母そぼはさまざまなことを忘わすれていった。けれどもその姿すがたは潔いさぎよく、美うつくしく見みえた。

記憶きおくを失うしなっていく一方いっぽうで、祖母そぼは狂くるい咲ざきのように、さまざまな記憶きおくを甦よみがえらせていった。
少女しょうじょの純真じゅんしん、秘ひめたる恋心こいごころ、母ははとしての愛情あいじょう。
余計よけいな記憶きおくが剥はがれ落おち、大切たいせつな記憶きおくだけが残のこっていくように見みえた。
その様ようを、僕ぼくは「百花ひゃっか」と名なづけ、小説しょうせつとして書かいた。

同どう時期じきに初はじめて短編たんぺん映画えいがを撮とった。
佐藤さとう雅彦まさひこさんと、その研究けんきゅう室しつの若者わかものたちと一緒いっしょに「手法しゅほう」からテーマや物語ものがたりを生うみ出だしていった。「どちらを選えらんだのかはわからないがどちらかを選えらんだことははっきりしている」（のちに「どちらを」に改題かいだい）というその“珍めずらしい”映画えいがは、カンヌ国際映画祭かんぬこくさいえいがさいの短編たんぺんコンペティション部門ぶもんに選出せんしゅつされた。初はじめて監督かんとくを務つとめた映画えいがで、初はじめてカンヌのレッドカーペットを歩あるくという奇妙きみょうな体験たいけんをした。

日本にっぽんからはその年としのパルムドール作品さくひんとなった是枝これえだ裕和ひろかず監督かんとくの「万引まんびき家族かぞく」と濱口はまぐち竜介りゅうすけ監督かんとくの「寝ねても覚さめても」が、韓国かんこくからはイ・チャンドン監督かんとくの「バーニング　劇場げきじょう版ばん」が出品しゅっぴんされていた。そこは珍めずらしい映画えいがばかりが集あつまった、夢ゆめのような場所ばしょだった。

帰国きこくして、「どちらを」を共ともに監督かんとくした平瀬ひらせ謙太けんた朗ろうと、「百花ひゃっか」の映画えいが脚本きゃくほんを書かき始はじめた。
今いままで「世界せかいから猫ねこが消きえたなら」と「億おく男なん」という自著じちょが映画えいが化かされていたが、「百花ひゃっか」はみずから脚本きゃくほん、監督かんとくしようと思おもった。
「どちらを」のように「手法しゅほうから映画えいがを作つくる」ということを、長編ちょうへんでもトライしてみたかった。その実験じっけん台だいとして、自分じぶんの原作げんさくは最適さいてきだ。文句もんくを言いう原作げんさく者しゃはいない。

どういった手法しゅほうで「百花ひゃっか」を映画えいがにするべきなのかを発見はっけんするために、平瀬ひらせくんが原作げんさく小説しょうせつのシーンをカードにして「要素ようそ還元かんげん」していった。
僕ぼくが愛あいした、思おもい入いれのあるキャラクターやセリフがバラバラにされていく。切せつないけれど、それはどこか気持きもちの良よい体験たいけんだった。
二に十じゅう代だいの頃ころ、橋口はしぐち亮輔りょうすけ監督かんとくのご自宅じたくに遊あそびにいった時ときに「ぐるりのこと。」の脚本きゃくほんを、同様どうようにカードを並ならべながら作つくっている姿すがたを垣間見かいまみたのを思おもい出だした。

同時どうじに、過去かこに認知にんち症しょうを描えがいた映画えいがとどう差別さべつ化かするかを考かんがえた。
パルムドール作品さくひんの「愛あい、アムール」や、イ・チャンドンの「ポエトリー　アグネスの詩し」、そして「ファーザー」と傑作けっさくだらけだ。
それらの前例ぜんれいと、どう決定的けっていてきに差別さべつ化かするのか。

僕ぼくたちの人生じんせいにはカットがかからない。
けれども脳のうはデタラメにいろいろなことを思おもい出だす。
その脳のうと記憶きおくの働はたらきを「ワンシーン・ワンカット」と「インサート」という映画えいが的てきな手法しゅほうで映像えいぞう化かしたらどうなるのだろうか。
ワンシーン・ワンカットというと、マニアックな印象いんしょうになりがちだが、日本にっぽん映画えいがにおいても「THE 有頂天うちょうてんホテル」や「カメラを止とめるな！」のような作品さくひんも同様どうようの手法しゅほうで描えがかれており、表現ひょうげん次第しだいでは娯楽ごらく映画えいがにもなりうると考かんがえた。

加くわえて、原作げんさく小説しょうせつにおいて文章ぶんしょうで描写びょうしゃした「認知にんち症しょうの人ひとが見みえている世界せかい」をどうやって映像えいぞう化かするか。その描写びょうしゃにおいてもワンシーン・ワンカットが有効ゆうこうだと考かんがえた。本来ほんらいつながらないはずの時間じかんや空間くうかんが、まるで夢ゆめのようにひとつのシーンとしてつながっていく。

平瀬ひらせくんと、衣装いしょう担当たんとうの伊賀いが大介だいすけさん、カメラマンの今村いまむら圭けい佑たすくくん、プロデューサーの山田やまだ兼司けんじくんとともに、「映うつ研とぎ」と名なづけた勉強べんきょう会かいを重かさねた。
「トゥモロー・ワールド」「台風たいふうクラブ」「バードマン　あるいは（無知むちがもたらす予期よきせぬ奇跡きせき）」「ロングデイズ・ジャーニー　この夜よるの涯てへ」、長ながいワンカットのなかで、夢ゆめうつつを見みせていく。

「バードマンあるいは（無知がもたらす予期せぬ奇跡）」 — 「バードマン　あるいは（無知むちがもたらす予期よきせぬ奇跡きせき）」

なかでも「百花ひゃっか」が大おおきな影響えいきょうを受うけたのは溝口みぞぐち健二けんじ作品さくひんだった。
「雨月物語うげつものがたり」や「山椒さんしょう大夫たいふ」ではワンカットのなかで現実げんじつと幻想げんそうが行いき来きする。そのなかで俳優はいゆうがその役やくを生々なまなましく生いきていく。今いまは失うしなわれつつある日本にっぽん映画えいがのマジックリアリズムがここにあった。

記憶きおくを描えがくにあたり、マジックリアリズム的てきな表現ひょうげんは最適さいてきだ。
ミシェル・ゴンドリーの「エターナル・サンシャイン」、クリストファー・ノーランの「メメント」や「インセプション」、押井おしい守まもるの「うる星せいやつら2 ビューティフル・ドリーマー」や「イノセンス」、今いま敏さとしの「パプリカ」は、奇妙きみょうな映像えいぞう表現ひょうげんや編集へんしゅう技術ぎじゅつによって、記憶きおくの正体しょうたいに迫せまっている。
映画えいがで記憶きおくを描えがこうとするとき、映像えいぞう的てきな発明はつめいが生うまれるともいえる。
「母ははなる証明しょうめい」のようなインパクトのあるオープニング、「ニュー・シネマ・パラダイス」のような圧倒的あっとうてきな感動かんどうが訪おとずれるエンディングを映像えいぞう手法しゅほうと共ともに目指めざした。
「百花ひゃっか」においても「記憶きおく」を描えがこうとした時ときに、思おもわぬ発明はつめいが生うまれた。

脚本きゃくほんが完成かんせいし、俳優はいゆう陣じんが合流ごうりゅうしてきた。
彼かれらに対たいして、衣装いしょうのカラーチャートを伊賀いが大介だいすけさんと共ともに作つくっていった。
「ルパン三さん世せい」は赤あかで、「名めい探偵たんていコナン」は青あお。「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカーは物語ものがたりが進すすむにつれて、白しろから灰色はいいろ、そして黒くろへと衣装いしょうが変かわっていく。
アニメーションやSFではよく使つかわれる手法しゅほうだが、それを実写じっしゃ映画えいがの中なかでいかに「リアルな衣装いしょう」として成立せいりつさせるか。

しかし勉強べんきょうしていけばいくほど、映画えいがと色いろの関係かんけいは面白おもしろい。
ガス・ヴァン・サントの「エレファント」は極きわめて作為さくい的てきに黄色おうしょくや赤あかの衣装いしょうが使つかわれており、ダルデンヌ兄弟きょうだいの主人公しゅじんこうは赤あかかった（「ロゼッタ」「少年しょうねんと自転車じてんしゃ」）。テオ・アンゲロプロスの「永遠えいえんと一いち日にち」の黄色おうしょくのレインコート、ポン・ジュノの「ほえる犬いぬは噛かまない」の黄色おうしょくのパーカーも忘わすれられない。
いずれも極きわめて巧たくみにカラーマネジメントされており、色いろの印象いんしょうが映画えいがの印象いんしょうそのものになっている。

「百花ひゃっか」においても原田はらだ美枝子みえこは黄色おうしょく、菅田すげた将すすむ暉あきらにはその補色ほしょくとなる青あお紫むらさき、長澤ながさわまさみにはアースカラー、永瀬ながせ正敏まさとしには幽霊ゆうれい的てきである灰色はいいろを配色はいしょくしていった。すべて役柄やくがらとリンクした色合いろあいだ。
加くわえて、記憶きおくが鮮明せんめいな若わかい頃ころは濃こい色いろを身みに纏まとっていて、記憶きおくは失うしなわれていくなかで徐々じょじょにその色いろが薄うすまっていくように設計せっけいした。
日本にっぽん映画えいがではコスプレ的てきになり避よけられがちな手法しゅほう。けれどもリアルに成立せいりつさせられたら、言葉ことばや映像えいぞうに加くわえて、色いろによって感覚かんかく的てきに記憶きおくを捉とらえることができるのではないかと考かんがえた。

撮影さつえいにおいては、ワンシーン・ワンカットに加くわえてバックショットを多用たようした。
「エレファント」に「サウルの息子むすこ」や「ブラック・スワン」。
いずれもカメラは執拗しつように人物じんぶつを背後はいごから追おう。
気きづけば映画えいがの中なかの人物じんぶつと視線しせんが同化どうかして、その世界せかいに入はいり込こんだような没入ぼつにゅう感かんが生うまれる。

けれども昨今さっこん、ワンシーン・ワンカットやバックショットはなかなか許ゆるされない。
なぜだろうか。
家いえで映画えいがやドラマを見みる時とき、視聴しちょう者しゃの手てには必かならずスマートフォンがあるからだ。
スマホでLINEを返信へんしんし、TwitterやInstagramやTikTokを覗のぞきながら映画えいがを観みられてしまう。だから映像えいぞうの作つくり手しゅは“離脱りだつ”されないように、カットを細こまかく割わり、音楽おんがくをかけ続つづけ、正面しょうめんのアップを多用たようする。実際じっさい僕ぼく自身じしん、そういう作つくり方かたをすることも多おおい。

そういう時代じだいだからこそ「映画えいが館かんに向むけた映画えいが」を作つくりたかった。
映画えいが館かんの中なかでは、スマートフォンは見みられない。
時代じだいが変かわり、一周いっしゅう回まわってそれは極きわめて刺激しげき的てきな体験たいけんになるはずだ。

観客かんきゃくは暗闇くらやみの中なかで、スクリーンに集中しゅうちゅうする。
ワンカットのなかで天気てんきのようにうつろう俳優はいゆうの表情ひょうじょうを、歩あるき続つづける後うしろ姿すがたからその人物じんぶつの気持きもちに思おもいを馳はせる。
観客かんきゃくの想像そうぞう力りょくが、人物じんぶつの感情かんじょうを補完ほかんする。
観客かんきゃくとの信頼しんらい関係かんけいで、物語ものがたりが出来上できあがっていく。
それが映画えいが館かんで体験たいけんする、映画えいが本来ほんらいの魅力みりょく。

生うまれて初はじめて映画えいがを見みた時ときの記憶きおくが蘇よみがえってきた。
映画えいがとは「光ひかり」だ。
暗闇くらやみの中なかに差さし込こむ、希望きぼうの光ひかり。
奇くしくも「百花ひゃっか」のラストシーンは「光ひかり」で終おわる。
映画えいがの記憶きおくが、そこに導みちびいたのかもしれない。

●川村かわむら元気げんき氏しが文中ぶんちゅうで挙あげた50の映画えいが一覧いちらん

「E.T.」
「道みち（1954）」
「幕末ばくまつ太陽たいよう傳でん」
「ブレードランナー」
「風ふうの谷たにのナウシカ」
「恋こいする惑星わくせい」
「パルプ・フィクション」
「アンダーグラウンド（1995）」
「ファーゴ」
「セブン」
「電車でんしゃ男おとこ」
「告白こくはく」
「モテキ」
「君きみの名なは。」
「どちらを選えらんだのかはわからないがどちらかを選えらんだことははっきりしている」（のちに「どちらを」に改題かいだい）
「万引まんびき家族かぞく」
「寝ねても覚さめても」
「バーニング　劇場げきじょう版ばん」
「ぐるりのこと。」
「愛あい、アムール」
「ポエトリー　アグネスの詩し」
「ファーザー」
「THE 有頂天うちょうてんホテル」
「カメラを止とめるな！」
「トゥモロー・ワールド」
「台風たいふうクラブ」
「バードマン　あるいは（無知むちがもたらす予期よきせぬ奇跡きせき）」
「ロングデイズ・ジャーニー　この夜よるの涯てへ」
「雨月物語うげつものがたり」
「山椒さんしょう大夫たいふ」
「エターナル・サンシャイン」
「メメント」
「インセプション」
「うる星せいやつら2 ビューティフル・ドリーマー」
「イノセンス」
「パプリカ」
「母ははなる証明しょうめい」
「ニュー・シネマ・パラダイス」
「ルパン三さん世せい」
「名めい探偵たんていコナン」
「スター・ウォーズ」
「エレファント」
「ロゼッタ」
「少年しょうねんと自転車じてんしゃ」
「永遠えいえんと一いち日にち」
「ほえる犬いぬは噛かまない」
「サウルの息子むすこ」
「ブラック・スワン」

川村かわむら氏しが挙あげた50本ほんの映画えいが、読者どくしゃの皆みなさんは何なん本ほんくらいご覧らんになられていますでしょうか。「百花ひゃっか」をご覧らんになられた方ほうも、これからご覧らんになる方ほうも、50本ほんの中なかからランダムにピックアップして鑑賞かんしょうしてみるのも一興いっきょうかもしれませんね。次回じかいは、川村かわむら氏しへのロングインタビュー前編ぜんぺんをお届とどけします。ご期待きたいください。

筆者ひっしゃ紹介しょうかい

大塚おおつか史ふみ貴たか（おおつか・ふみたか）。映画えいが.com副ふく編集へんしゅう長ちょう。1976年ねん生うまれ、神奈川かながわ県けん出身しゅっしん。出版しゅっぱん社しゃやハリウッドのエンタメ業界ぎょうかい紙しの日本にっぽん版ばん「Variety Japan」を経へて、2009年ねんから映画えいが.com編集へんしゅう部ぶに所属しょぞく。規模きぼの大小だいしょうを問とわず、数すう多おおくの邦画ほうが作品さくひんの撮影さつえい現場げんばを取材しゅざいし、日本にっぽん映画えいがプロフェッショナル大賞たいしょう選考せんこう委員いいんを務つとめる。

Twitter：@com56362672