コラム：FROM HOLLYWOOD CAFE - 第だい52回かい

それにしても、最近さいきんは取材しゅざいがよく流ながれる。「コールド・マウンテン」でのニコール・キッドマン取材しゅざいも、「24」のキーファー・サザーランド取材しゅざいもドタキャン、「ロスト・イン・トランスレーション」のソフィア・コッポラと「キル・ビルVol.2」のタランティーノを対談たいだんさせてしまおうという夢ゆめの企画きかくも、スケジュールが二に転てん三さん転てんして、そろそろ実現じつげんしない可能かのう性せいのほうが高たかくなってきた。最近さいきんでは予定よてい通どおりに取材しゅざいが行おこなわれることのほうが、むしろ珍めずらしくなってきている。

ぼくは器用きようなほうではないので、こう変更へんこうが多おおいと、その対応たいおうに追おわれているうちに、いっぱいいっぱいになってしまう。インタビュー会場かいじょうに行いって、「あれ、なんの取材しゅざいだったっけ？」などと戸惑とまどうこともあるくらいだ。こんなんじゃダメだと反省はんせいしているのだけれど、キャパシティの小ちいささだけはどうしようもない。

「エターナル・サンシャイン・オブ・スポットレス・マインド」を観みたのは、ちょうどそんな精神せいしん状態じょうたいのときだった。脚本きゃくほんがチャーリー・カウフマンで、主演しゅえんがジム・キャリーということぐらいの知識ちしきしかなく、それ以外いがいは、やたらと長ながいタイトルだなあ、という印象いんしょうしか持もっていないかなった。試写ししゃが始はじまる前まえも体からだがだるくて、眠ねむってしまわないかと心配しんぱいしていたほどだ。

でも、「エターナル・サンシャイン」を観みたあとのぼくは、使つかい切きったバッテリーがフルに充電じゅうでんされたように、完全かんぜんに生うまれ変かわっていた。これほど刺激しげきを与あたえてくれた映画えいがなんて、これまでの映画えいが鑑賞かんしょう歴れきを振ふり返かえってみても、数かぞえるほどしかない。

複雑ふくざつな映画えいがなので簡単かんたんに説明せつめいすることが難むずかしいのだけれど、挑戦ちょうせんしてみる。

主人公しゅじんこうのジョエル（ジム・キャリー）と、恋人こいびとのクレメンタイン（ケイト・ウィンスレット）は倦怠期けんたいきのまっただなかにいる。ある日ひ、ささいなケンカがきっかけで、衝動しょうどう的てきな性格せいかくのクレメンタインは、記憶きおく消去しょうきょの手術しゅじゅつを受うけてしまう。ジョエルとの過去かこを完全かんぜんに忘わすれて新あらたな人生じんせいを歩あゆみ出だしたクレメンタインを見みて、ジョエル自身じしんも同様どうようの手術しゅじゅつを受うける決意けついをする――。

映画えいがは、ジョエルの記憶きおく消去しょうきょ手術しゅじゅつを手てがけるテクニシャンたち（マーク・ラファロ、イライジャ・ウッド、キルステン・ダンストら）のストーリーと、ジョエルの頭あたまのなかのクレメンタインとの思おもい出でが、パラレルで進行しんこうしていく。最近さいきんの記憶きおくから過去かこにさかのぼって除去じょきょが行おこなわれていくので、ラブストーリーが逆ぎゃく回転かいてんで進行しんこうしていくことになる。恋愛れんあい版ばん「メメント」といえば、わかりやすいかもしれない。

ジョエルの記憶きおくからクレメンタインが消去しょうきょされていくビジュアル表現ひょうげんは、天才てんさい映像えいぞう作家さっかミシェル・ゴンドリー監督かんとくの面目めんぼく躍如やくじょである。ジム・キャリーやケイト・ウィンスレットらキャストみんなは楽たのしんで演技えんぎをしているし、エレン・クラスの手持てもちカメラも、ジョン・バイロンの音楽おんがくも、ヴァルディス・オスカードゥティルの編集へんしゅうも、すべてが一いち級きゅう品ひんだ。

でも、一番いちばんすごいのは、チャーリー・カウフマンが執筆しっぴつした脚本きゃくほんだ。大胆だいたんな設定せっていやリアルな人間にんげん描写びょうしゃ、倒錯とうさくしたユーモアセンスなどはそのままに、これまでの作品さくひんに見みられなかった温あたたかみや優やさしさが加くわわり（ここらへんは、原案げんあんに参加さんかしたミシェル・ゴンドリーの影響えいきょうかもしれない）、こんがらがったストーリーに落おとし前まえをつけることにも成功せいこうしている。そのため、大胆だいたんかつ完成かんせい度どの高たかい、まったく独創どくそう的てきな作品さくひんに仕上しあがっている。

知的ちてきなパズルを解とく楽たのしみを味あじわえて、同時どうじに胸むねをめいっぱい締しめつけられる。頭あたまとハートを同時どうじに刺激しげきされる映画えいがなんて、初はじめてだ。