コラム：LiLiCoのHappy eiga ダイニング - 第だい19回かい

第だい19回かい：木村きむら大作だいさく監督かんとく＆松山まつやまケンイチが語かたり尽つくす撮影さつえい秘話ひわ
対談たいだんゲスト：「春はるを背負せおって」木村きむら大作だいさく監督かんとく、松山まつやまケンイチ

TBS「王様おうさまのブランチ」の映画えいがコメンテーターとして人気にんきのLiLiCoが、旬しゅんの俳優はいゆう・女優じょゆう・監督かんとくから映画えいがに対たいする思おもい、プライベートな素顔すがおに至いたるまでを多角たかく的てきに展開てんかいする対談たいだん連載れんさい「LiLiCoのHappy eiga ダイニング」。第だい19回かいのゲストは、「春はるを背負せおって」のメガホンをとった日本にっぽんを代表だいひょうする名めいキャメラマンでもある木村きむら大作だいさく監督かんとくと、主演しゅえんの松山まつやまケンイチ。立山たてやま連峰れんぽうでの過酷かこくな撮影さつえいを“踏破とうは”した2人ふたりに、LiLiCoが迫せまった。

LiLiCo（以下いか、リリコ）：完成かんせいをずっと待まっていましたよ！　以前いぜんからいろいろな話はなしをお聞ききしていましたし、誰だれよりも早はやくメイキング映像えいぞうを渡わたしてくださいましたからね。それに、深夜しんや2時じくらいに「何なにしているの？」って電話でんわをかけていただいたこともありました。「寝ねてるっちゅーの！」みたいな（笑）。さて、今いま作さくはすぐに感想かんそうが言いえる映画えいがじゃないと思おもうんですよ。映像えいぞうもきれいですし、本当ほんとうに素晴すばらしかったです。すべてが美うつくしくて、大作だいさくさんが撮とったんですよねえ。

木村きむら大作だいさく監督かんとく（以下いか、木村きむら監督かんとく）：俺おれが撮とったとは思おもえないんだろう？　冗談じょうだんじゃないよ（笑）。

リリコ：大作だいさくさんの目めから見みて、松山まつやまさんの俳優はいゆうとしての魅力みりょくは？

木村きむら監督かんとく：僕ぼくの撮とり方かたって多重たじゅうキャメラだよね。松山まつやまさん、蒼あおい井い優ゆうさん、豊川とよかわ悦司えつしさんによる3人にんでの受うけの芝居しばいを全部ぜんぶ撮とっていることになる。そうすると、自然しぜんな感情かんじょうがやっぱり出でてきますよね。それを使つかうから、松山まつやまさんも自分じぶんで今いままで見みたことのない、素もとのいい感情かんじょうを出だしている。こちらもちゃんと拾ひろっている。そういうのでカットバックするから、ちゃんと素もとの部分ぶぶんが出でていると思おもうよ。

リリコ：私わたしはデビューの頃ころからずっとインタビューをさせていただいて、「天才てんさいだ」「カメレオン俳優はいゆうだ」と言いい続つづけてきましたが、まだ出だしていなかった顔かおがあったんですね。松山まつやまさんは監督かんとくとご一緒いっしょしていかがでした？

松山まつやまケンイチ（以下いか、松山まつやま）：監督かんとくとこの場所ばしょ（立山たてやま連峰れんぽう）がそうさせてくれたというのがあると思おもうんです。それは、どの役者やくしゃさんも言いうと思おもいます。ここに登のぼってきたからこそできる演技えんぎ。後半こうはんはセットでもやっていますが、ここを経へてのセットなので。ここで生活せいかつしたことがすごく大おおきかったですねえ。

木村きむら監督かんとく：山小屋やまごやに最大さいだいで38人にんが寝泊ねとまりしていたからさ。スタッフは17人にんしかいないけど、ガイドさんが10人にんくらいいて、俳優はいゆうさんも最大さいだいで5人にんくらいかな。スタッフは食堂しょくどうに寝袋ねぶくろで寝ねている感かんじだったんだよ。松山まつやまさんにしたって、優ゆうちゃん、檀だんふみさん、豊川とよかわさんにしたって、構かまっていられないよね、雰囲気ふんいき的てきには。自分じぶんでいるしかないわけだから。合宿がっしゅく生活せいかつみたいな環境かんきょうが大おおきいんじゃないかな。夜よるは外そとになんて一いち歩ほも出でられないし。晩ばん飯めしを食たべたら雑談ざつだんするか、トランプするくらい。場所ばしょが限かぎられているから話はなし声ごえだって聞きこえてくるし、言葉ことばが乱みだれ飛とぶなかで、自分じぶんを隠かくしてなんていられないよ。

富山とやま・立山たてやま連峰れんぽうでの約やく8カ月かげつにおよぶ長期ちょうきロケを敢行かんこうした今いま作さくは、笹本ささもと稜りょう平たいら氏しの同名どうめい小説しょうせつが原作げんさく。松山まつやまは、山小屋やまごやの主しゅとして生いきる父ちち・勇夫いさお（小林こばやし薫かおる）に反発はんぱつし故郷こきょうを捨すて、東京とうきょうでトレーダーとして生いきることを選えらんだ享とおるに扮ふんした。不慮ふりょの事故じこで死去しきょした父ちちの通夜つやのために戻もどった立山たてやまで、疑問ぎもんを感かんじていた今いまの生活せいかつを捨すて、山小屋やまごやを継つぐことを決意けつい。そんなある日ひ、亡なき父ちちの後輩こうはいだという不思議ふしぎな山男やまおとこ・ゴロさん（豊川とよかわ）が現あらわれる。家族かぞくや周囲しゅういの人々ひとびととの温あたたかい交流こうりゅう、山やまでの力強ちからづよい生いき方かたを通とおして人間にんげん的てきな成長せいちょうをとげていく姿すがたに焦点しょうてんを当あてたドラマだ。

リリコ：山やまに登のぼるだけでも過酷かこくだったとは思おもうのですが、一番いちばん大変たいへんだったのはどんなことでした？　豊川とよかわさんをかつぐシーンというのもありましたよね。

木村きむら監督かんとく：崖がけのシーンっていうのもあったなあ。あれは大変たいへんだったよ。

松山まつやま：僕ぼくも大変たいへんすぎて記憶きおくから消去しょうきょしていました（笑）。今いま聞きいていて思おもい出だしました。うん、そこが大変たいへんでしたね。あと、優ゆうちゃんが演えんじた愛あいが身みの上うえを告白こくはくする部分ぶぶんは、テストなしでやりましたよね。

木村きむら監督かんとく：そうだよ、あれは一発いっぱつだったね。いまの映画えいが界かいってさ、特とくに若わかめの監督かんとくはテストを何なん本ほんも繰くり返かえしていって、自分じぶんの思おもい通どおりにいっていると思おもい込こんでいる人ひとが多おおいんだよ。俺おれは違ちがうといつも思おもうんだよ。特とくにこの3人にんだったら、絶対ぜったいに一発いっぱつで撮とった方ほうがいいという自信じしんもあったしね。「本番ほんばんいきましょうか？」と言いったら、3人にんは返事へんじをしないでニコッと笑わらったんだよ。ニコッとさ。それで本番ほんばんにいったのさ。

リリコ：おお～、すごいですねえ。ニコッと笑わらった裏側うらがわには何なにがあったの？

松山まつやま：やるしかないですからね。繊細せんさいなシーンでしたから、何なん回かいもやれるものではないと思おもうんですよ。それをくんでいただいているなというのがわかったので、「喜よろこんで！」という感かんじでしたね。

木村きむら監督かんとく：松山まつやまさんはあのシーン、ほとんど無言むごんなんだけど、あれだけアップで使つかっているでしょう？　逆ぎゃくにあんなに使つかわれるとは思おもっていなかったのかもしれないね。でも、あれが自然しぜんの感情かんじょうなんだよ。「お父とうさんが大おおきな木きみたいな人ひとで、そこから酸素さんそをいっぱいもらいました」って言いうだろう？　あの絶妙ぜつみょうな反応はんのうだよね。カットを割わったら、もう少すこしやるんじゃないかと思おもったりするんだよ。それが微妙びみょうなうまさだから、見みている人ひとも感情かんじょうが移入いにゅうするんだよね。

リリコ：またセリフがどれも素敵すてきじゃないですか。心しんに残のこる言葉ことばが詰つまっているんですよね。

木村きむら監督かんとく：もっと言いえばね、冒頭ぼうとうで「一歩一歩いっぽいっぽ、負まけないように普通ふつうに歩あるけばいいんだ」とあるじゃない？　最初さいしょはさ、「一歩一歩いっぽいっぽ、前まえへ進すすめばいいんだ」というセリフだったんだよ。現場げんばではさ、11歳さいの子役こやくに対たいしてスタッフが「ああした方ほうがいい」「こうした方ほうがいい」っていろいろ言いうんだよ。それで頭あたまが混乱こんらんしちゃってね。そうしたら、山岳さんがくガイドの稲葉いなば英樹ひできさんが「坊ぼうや、普通ふつうに歩あるけばいいんだよ」と言いってね。俺おれはそばにいたんだけど、「こっちの方ほうがいいな」と思おもってさ。自分じぶんが書かいたやつだから、どうにでも直なおせるし、誰だれにも文句もんくを言いわれない。そういう意味いみでどんどん変かわっていったね。

リリコ：共演きょうえんの皆みなさんも、すごい面々めんめんでしたよね。ゴロさんを演えんじた豊川とよかわさんも素敵すてきでした。

松山まつやま：豊川とよかわさんは本当ほんとうにゴロさんみたいでしたよ。ゴロさんの周まわりでいっぱい笑わらいが起おこっていましたね。優ゆうちゃんも大笑おおわらいしていましたし。だから、場ばの空気くうきが悪わるくなるってことは1回かいもなかったと思おもいます。それがすごいですよね。スタッフの皆みなさんなんて、40キロも荷物にもつをかついで登のぼっているわけですよ。それでも笑顔えがおが耐たえないっていうのは素晴すばらしい現場げんばでした。それがまた、スクリーンに出でていますよね。

リリコ：若わかい方々かたがたにも見みてほしいですよね。

木村きむら監督かんとく：今いままでの試写ししゃ会かいでは、母ははと娘むすめの親子おやこ連づれとか、女学生じょがくせいが多おおかったんだよ。そういう世代せだいが来きてくれるといいんだけどね。俺おれが作つくっているんだから、基本きほん的てきには一定いっていの年齢ねんれい以上いじょうなんだよね。でも、今度こんどの場合ばあいはキャストも若わかい。女学生じょがくせいなんて泣ないて出でてくることもあるからね。

そして、話題わだいは本編ほんぺん後半こうはんに出でてくる、享とおる（松山まつやま）と愛あい（蒼あおい井い）が手てを取とり合あってグルグル回まわるシーンについてへと移行いこうしていく。

木村きむら監督かんとく：さっき、中年ちゅうねんのおじさんがあのシーンを「大作だいさくさんらしくないね」なんて言いうんだよ。若わかい子こたちはそんなこと言いわない。あるとき、試写ししゃが終おわった後のちにロビーに行いったんだよ。そうしたらアベックがいてさ、グルグル回まわっていたんだよ。「どうしたの？」って聞きいたら、「この映画えいがを見みたらグルグル回まわりたくなった」って言いうんだよ。2人ふたりとも松山まつやまさんと優ゆうちゃんにどこか似にていてね。女おんなの子こに「蒼あおい井い優ゆうに似にているよ」って言いったら喜よろこんでくれてさ。でもね、それで自信じしんがついたね。

リリコ：街まち中ちゅうでやってくれたらいいですよねえ。

木村きむら監督かんとく：外国がいこく人じんだったらやるだろうけどさ、日本人にっぽんじんはやらないよ。

リリコ：そんなことないですよ。私わたし、監督かんとくとやりたいですもの。そういえば、前作ぜんさく「劔つるぎ岳だけ　点てんの記き」のときに「最初さいしょで最後さいごの監督かんとく業ぎょう」っておっしゃっていましたよね？

木村きむら監督かんとく：それについては謝あやまったんだよ、最初さいしょの会見かいけんで。日本にっぽん映画えいが界かいからバイバイするつもりだったんだよ。これさえ撮とれればいいやと思おもっていたんだけど、終おわってみたら「明日あしたからどうやって食ぐっていけばいいんだ？」となってね。でもさ、映画えいがの魅力みりょくはやめられないよ。この魅力みりょくにかなうものはないんだから。

リリコ：次回じかい作さくに向むけて考かんがえていることがあるんでしょう？

木村きむら監督かんとく：そりゃ、色々いろいろあるよ。でも、これがヒットしなかったら、やりたくてもやれないよ。今いまはこれをヒットするために最大さいだいの力ちからを尽つくすしかないな。ヒットしたら、年としも年としだし、そろそろ高たかくないところで、それでいて自然しぜんのすごいところでやりたいなあ。俺おれが山田やまだ洋次ようじさんの作品さくひんみたいなのは似合にあわないだろう？

リリコ：撮とってみればいいのに。素敵すてきだと思おもいますよ。でも、日本にっぽんを代表だいひょうする名めいキャメラマンですから、他たの人ひとには撮とれない映像えいぞうの美うつくしさを見みたいというのはありますよね。

木村きむら監督かんとく：黒澤くろさわ明あきらさんの教おしえなんだけどさ、映画えいがって被写体ひしゃたいがよければどう撮とったって良よくなるんだよ。「みんなはキャメラのこっち側がわ、レンズのこっち側がわを工夫くふうしようとする。あんなものは意味いみがない！」とよく言いっていた。俺おれも考かんがえたよ。被写体ひしゃたいって何なにだ？　ってね。やっぱり俳優はいゆうさんなんだよ。自然しぜんだけだったら、ドキュメンタリーをやっていればいいんだから。俳優はいゆうさんにお芝居しばいをしてもらって、そのバックに自然しぜんであるべき。それを狙ねらっていきたいんだよ。

リリコ：さて、この連載れんさいでは3つの質問しつもんを皆みなさんにしています。松山まつやまさんは以前いぜん2回かいやっていますからね。まずは、好すきな言葉ことばを教おしえてください。

木村きむら監督かんとく：俺おれは即答そくとうだよ。ずっと言いい続つづけているけど、人生じんせいも大だい自然しぜんも同おなじ。「厳きびしさの中なかにこそ美うつくしさがある」。自然しぜんのことだけじゃないんだよ。人生じんせいだって、厳きびしい道みちを選えらんでいかなければ何なにも出でてこないよね。厳きびしい方ほうを選えらんでも出でてこないかもしれないけどね。人間にんげんって厳きびしい状況じょうきょうのほうが美うつくしく見みえるんだよ。

松山まつやま：今いま作さくのなかで、僕ぼくが言いうセリフで「自分じぶんの歩あるいた距離きょりだけが本物ほんものの宝たからになるんですね」というのがあるんです。このセリフですね。

リリコ：続つづいて、これからの夢ゆめは何なにですか？

松山まつやま：今いまは、「春はるを背負せおって」が大だいヒットして、監督かんとくの次つぎの構想こうそうが実現じつげんできるといいなと思おもっています。監督かんとくがやりたいことってまだまだたくさんあると思おもうんです。次つぎに何なにを出だしてくるのかすごく楽たのしみなんです。自然しぜんに対たいする見方みかたを変かえてくれる力ちからを持もった方ほうですから、すごく楽たのしみなんですよね。

木村きむら監督かんとく：まったく同おなじだね。ヒットしてくれないと、今いままでのことが全部ぜんぶ徒労とろうになっちゃうからなあ。松山まつやまさんに「自分じぶんの歩あるいた距離きょりだけが本物ほんものの宝たからになるんですね」と言いってもらっているけれど、あれは俺おれのセリフだよね。いつも言いっていることなんだけど、「春はるを背負せおって」を本物ほんものの宝たからにしてほしいんだよねえ。

リリコ：最後さいごの質問しつもんです。一番いちばん好すきな映画えいがを教おしえてください。

木村きむら監督かんとく：映画えいがの順位じゅんいはつけられないんだよ。でも俺おれは、黒澤くろさわさんの「七人しちにんの侍さむらい」になっちゃうんだよ。それと同等どうとうのものはたくさんあるけどね。

松山まつやま：黒澤くろさわさんつながりでいうと、僕ぼくは「生いきものの記録きろく」（1955）ですね。

木村きむら監督かんとく：それはちょっと意外いがいだな。

松山まつやま：当時とうじ35歳さいの三船みふね敏郎としおさんが70歳さいのおじいさんを演えんじられたんですが、僕ぼくはこの作品さくひんばかり見みて、「平清盛たいらのきよもり」の晩年ばんねんを演えんじていましたから。三船みふねさんって、すごくまっすぐに演えんじてきているイメージがあったのですが、ガラッと年齢ねんれいをも超こえた演技えんぎをされていて、すごい衝撃しょうげきを受うけたんです。

木村きむら監督かんとく：少すこし補足ほそくすると、黒澤くろさわさんはあの役やくを三船みふねさんにやってもらったのは、「よぼよぼのおじいさん」は嫌いやだったんだと言いっていた。あの時代じだい、普通ふつうであれば志村しむら喬たかしさんだよね。それを三船みふねさんに話はなしを持もっていったっていうのがすごいよね。