コラム：国立こくりつ映画えいがアーカイブ　お仕事しごとは「映画えいが」です。 - 第だい18回かい

映画えいが館かん、DVD・BD、そしてインターネットを通つうじて、私わたしたちは新作しんさくだけでなく昔むかしの映画えいがも手軽てがるに楽たのしめるようになりました。

それは、その映画えいがが今いまも「残のこされている」からだと考かんがえたことはありますか？

誰だれかが適切てきせつな方法ほうほうで残のこさなければ、現代げんだいの映画えいがも10年ねん、20年ねん後ごには見みられなくなるかもしれないのです。

国立こくりつ映画えいがアーカイブは、「映画えいがを残のこす、映画えいがを活いかす。」を信条しんじょうとして、日々ひびさまざまな側面そくめんからその課題かだいに取とり組くんでいます。

広報こうほう担当たんとうが、職員しょくいんの“生せい”の声こえを通とおして、国立こくりつ映画えいがアーカイブの仕事しごとの内側うちがわをご案内あんないします。

ようこそ、めくるめく「フィルムアーカイブ」の世界せかいへ！

第だい18回かい：映画えいがをどのように“デジタルファイル”で保存ほぞんするか

メディアの確認かくにんやバックアップ作業さぎょうを行おこなうデジタル検査けんさ室しつ2

作品さくひんの完成かんせい原版げんばんがデジタルデータの形態けいたいを採とる、いわゆる「ボーンデジタル」の映画えいがや、デジタル復元ふくげんした映画えいがなど、デジタルファイルとして映画えいがを適切てきせつに保存ほぞん・活用かつようすることも、今いまでは国立こくりつ映画えいがアーカイブの大切たいせつな活動かつどうの一部いちぶとなりました。

光ひかりにかざせば記録きろくされた映像えいぞうを視認しにんできるフィルムに対たいし、デジタルファイルは視聴しちょうするにはフォーマットに応おうじた再生さいせい機器ききが必要ひつようで、メディア（ファイルを保存ほぞんする媒体ばいたい）やフォーマットの陳腐ちんぷ化かサイクルが早はやいため、フィルムとは異ことなる保存ほぞん上じょうの課題かだいが発生はっせいします。原版げんばんがデジタルファイルの場合ばあいはもちろん、ビデオテープも長期ちょうき保存ほぞんのためにはデジタルファイル化かが不可欠ふかけつです。（再生さいせい機器ききの製造せいぞう・保守ほしゅサービスの終了しゅうりょうなど幾多いくたの要因よういんにより、ビデオテープの映像えいぞうは、デジタルファイル化かをしない限かぎり近ちかい将来しょうらい再生さいせいできなくなるという危機ききに瀕ひんしています。詳くわしくはこちら　https://www.nfaj.go.jp/exhibition/unesco2021/#section1-5）

DTF（デジタル・テープ・フォーマット）-2やフロッピーディスクは、今いまでは陳腐ちんぷ化かしてしまった記録きろくメディアである

今回こんかいは、当館とうかんがどのように映画えいがをデジタルファイルとして保存ほぞん・カタロギング（目録もくろく化か）しているかを紹介しょうかいします。

映画えいがを保存ほぞんする際さいには、以下いかの3点てんが明確めいかくでなければなりません。

［1］：コンテンツ（contents）＝映像えいぞう・音声おんせい情報じょうほう

［2］：キャリア（carrier）＝フィルム、光学こうがくディスクなど、コンテンツを記録きろくするメディア

［3」：コンテクスト（context）＝上映じょうえい・再生さいせい方法ほうほうなど受容じゅようの文脈ぶんみゃく

デジタルファイルはここで言いう「コンテンツ」にあたり、ひとつのキャリア（ハードディスク［以下いか、HDD］や光学こうがくディスクなど）から別べつのキャリアに容易よういに移動いどうできる特徴とくちょうがあります。これは、複製ふくせいは可能かのうでも、乳剤にゅうざい面めんに記録きろくされた映像えいぞう情報じょうほうだけを切きり離はなして別べつのフィルムに移うつすことはできず、キャリアがコンテンツと常つねに一体いったいであるフィルムとの大おおきな違ちがいです。

さらに、デジタルファイルは、内容ないようが同一どういつでも動画どうがが有ゆうする解像度かいぞうどや圧縮あっしゅくなどにより映像えいぞう品質ひんしつが違ちがっていたり、内容ないようとフォーマットが同おなじでもコーデック（符号ふごう化か・復号ふくごう化か）によって再生さいせい機器ききとの互換ごかん性せいが異ことなったりと、無数むすうにバリエーションが派生はせいします。

デジタルファイルは、再生さいせい機器ききとフォーマットに互換ごかん性せいがないと再生さいせいできない

そのため当館とうかんでは、世界せかいの視聴覚しちょうかくアーカイブやフィルムアーカイブ、類似るいじ機関きかんが公開こうかいする種々しゅじゅのガイドラインを参考さんこうにしながら、使用しよう目的もくてきに応おうじたデジタルファイルのフォーマットを以下いかの通とおり定さだめ、適切てきせつかつ効率こうりつ的てきな管理かんり・運用うんようにつなげています。

［1］オリジナルマスター：プリザベーションマスターを作成さくせいする際さいの元もと素材そざいになるデジタルファイル。

［2］プリザベーションマスター：オリジナルの完全かんぜんなコピーで、非ひ圧縮あっしゅくなど、高こう品質ひんしつを保たもつ。保存ほぞん用ようのマスターファイルとなる。

現在げんざいの典型てんけいフォーマット：DCDM（「デジタル・シネマ・ディストリビューション・マスター」の略りゃく）。DCP作成さくせい用ようのマスターフォーマットとして標準ひょうじゅん化かされている。

［3］リファレンスマスター：変換へんかん・加工かこうをせず再生さいせいができる上映じょうえい用ようフォーマットで、公開こうかい当時とうじの上映じょうえいを再現さいげんできる。プリザベーションマスターから新あらたに上映じょうえい素材そざいを作つくる際さいの参考さんこうとしても使用しようされる。

現在げんざいの典型てんけいフォーマット：DCP（「デジタル・シネマ・パッケージ」の略りゃく）。映画えいが館かんのデジタル上映じょうえいはDCPが主流しゅりゅうである。

［4］アクセスマスター：主おもに上映じょうえい以外いがいの利り活用かつようを目的もくてきとするデジタルファイル。

現在げんざいの典型てんけいフォーマット：1つに限定げんていしていないが、Prores422HQコーデックのMOVを採用さいようするケースが多おおい。Prores422HQは高こう品質ひんしつを維持いじできるため、TV放送ほうそうやWEB配信はいしん用ようのマスターデータなどに適てきしている。

［5］アクセスコピー：主おもに（4）から一時いちじ的てきに作成さくせいされた、簡易かんい視聴しちょう用ようのデジタルファイル。

現在げんざいの典型てんけいフォーマット：H.264コーデックのMOVやMP4がメイン。PCやスマホのブラウザでの視聴しちょうに適てきしている。

［6］素材そざい：オリジナルマスター以前いぜんの製作せいさく段階だんかいで生成せいせいされるデジタルファイル。

では、デジタルファイル（コンテンツ）を保存ほぞんする「箱はこ」であるメディア（キャリア）は何なにを用もちいるのが良よいのでしょうか。当館とうかんのデジタル保存ほぞんの体制たいせい構築こうちくを中心ちゅうしんになって進すすめてきた主任しゅにん研究けんきゅう員いんの三浦みうら和己かずみさんは、「アクセスコピーであればHDDに入いれて管理かんりするのが通常つうじょうですが、一般いっぱん的てきに、HDDは長期ちょうき保存ほぞんには向むいていないんです」と教おしえてくれました。

「HDDは内蔵ないぞうされたディスクの回転かいてん速度そくどが非常ひじょうに速はやいうえ、稼働かどうする部品ぶひんが多おおくて壊こわれやすいですからね。長期ちょうき保存ほぞん向むきなのは磁気じきテープと光学こうがくディスク。そのなかでも当館とうかんでは磁気じきテープのLTOを採用さいようしています。一いち社しゃが製造せいぞうするメディアだと、そこが生産せいさんを中止ちゅうししてしまったときに大変たいへんですが、LTOは色々いろいろなメーカーが共同きょうどうで規格きかくを決きめて作つくっているんです。

LTO8。サイズは11センチ四方しほうで、非ひ圧縮あっしゅくで12TBもの容量ようりょうを有ゆうしている

LTOは、ファイルが記録きろくされた磁気じきテープが円形えんけいに巻まかれて内蔵ないぞうされた四角しかくい装置そうち。シンプルな構造こうぞうである上うえに、電源でんげんを使つかわずに置おいておけるのが強つよみです。読よみ出だしに時間じかんがかかるという難点なんてんはありますが、こうした長期ちょうき保存ほぞんの適性てきせいを重視じゅうししてLTOを採用さいようしているのです。

デジタルファイルが消失しょうしつするリスクを回避かいひすべく、当館とうかんではいわゆる「3-2-1の法則ほうそく」に基もとづいて保存ほぞんをしています。まず、保存ほぞんしたいファイルのコピーを3つ（使用しよう目的もくてき＝運用うんよう、保存ほぞん〈正ただし〉、保存ほぞん〈副ふく〉）持もつこと。次つぎに、それを2種類しゅるいのメディアで保存ほぞんすること。そして、災害さいがいなどのアクシデントによる大量たいりょう滅失めっしつを防ふせぐためにも、そのうち1つは物理ぶつり的てきに別べつの場所ばしょで保存ほぞんすること。

このように、フィルムとかけ離はなれた方法ほうほうで保存ほぞんしなくてはならないデジタルファイルは、カタロギングでも、フィルムや映画えいが関連かんれん資料しりょうと同おなじデータベース「NFAD」を使用しようすることができません。

そこで2017年ねんに構築こうちくしはじめたのが、当館とうかんのデジタルコレクション管理かんり用ようデータベース「ALFA」です。ALFAでは「メディア」「コンテンツ」「作品さくひん」を別個べっこのカテゴリーで管理かんりしています。コンテンツの情報じょうほうには、収蔵しゅうぞう年度ねんど、収蔵しゅうぞう事由じゆうなどNFADのフィルム情報じょうほうと共通きょうつうする項目こうもくもある一方いっぽうで、データ種別しゅべつ（プリザベーションマスター、アクセスマスターなどの分類ぶんるい）、ファイル情報じょうほう（ファイル名めい、サイズ、暗号あんごう化か等とう）といった、ALFAにしかない項目こうもくも並ならびます。

メディアの情報じょうほうには、容量ようりょう、使用しよう容量ようりょう、メーカー、機材きざい名めいといった各かくメディアの情報じょうほうと、メディア内うちのコンテンツが一覧いちらんになっています。また、「メディア用途ようと」という項目こうもくがあり、HDDは「運用うんよう用よう」、LTOは「保管ほかん用よう」と登録とうろくされています。「3-2-1の法則ほうそく」に基もとづいて、保管ほかん用ようも「正ただし」「副ふく」の二に種類しゅるいを作つくり、ひとつは京橋きょうばし、もうひとつは相模原さがみはら分館ぶんかんで管理かんりをしています。

ALFAのメディア欄らんでは、格納かくのうされたコンテンツ情報じょうほうやメディアの容量ようりょう、メーカーまで細こまかく登録とうろくされている

作品さくひん情報じょうほうはNFADと連携れんけいしていて、作品さくひん種別しゅべつ、製作せいさく年ねん、製作せいさく会社かいしゃ、監督かんとくやスタッフ、キャストといったNFADから自動じどう抽出ちゅうしゅつされた情報じょうほうが載のっています。NFADではフィルムや関連かんれん資料しりょうの情報じょうほうが作品さくひんにぶら下さがるかたちで登録とうろくされているように、ALFAでも、作品さくひん情報じょうほうの欄らんではその作品さくひんにひもづいたコンテンツとメディアの情報じょうほうを確認かくにんできます。

ALFAへの登録とうろく作業さぎょうを担当たんとうする研究けんきゅう補佐ほさ員いんの稲垣いながき晴はる夏なつさんに、作業さぎょうの流ながれを聞きいてみました。

「外部がいぶからデジタルファイルが届とどいたら、館かんのネットワークと切きり離はなされたコンピューターでウイルスチェックをし、まずは外側そとがわのメディアの登録とうろくを行おこないます。各かくメディアには、格納かくのうされたコンテンツ情報じょうほうを記載きさいした記録きろく表ひょうが同封どうふうされています。中なかに何なにが入はいっているかのメモ書がきですね。その後ご、オープンソースのソフトを使つかってメディアとそのコンテンツのメタデータを抽出ちゅうしゅつし、記録きろく表ひょうとの間あいだに齟齬そごがないか確認かくにんしながら、各かくコンテンツを登録とうろくしていきます」

メタデータは、ファイルの管理かんりや将来しょうらいの利り活用かつように向むけて重要じゅうような情報じょうほうです。さらに、映像えいぞうは、同おなじファイルであっても再生さいせい環境かんきょう（視聴しちょう環境かんきょう）が変かわれば見みえ方かた・聞きこえ方かたが大おおきく異ことなってしまいます。

「デジタルファイルは来歴らいれきも様々さまざまなため、コンテクストに関かかわる情報じょうほうについては特とくに慎重しんちょうに記載きさいしていくようにしています。ALFAのコンテンツ情報じょうほうには視聴しちょう環境かんきょうの項目こうもくもありますが、これはファイルがどのような環境かんきょうで観みられる想定そうていでつくられたかを示しめす情報じょうほうです。作品さくひんがつくられた当時とうじの画がの再現さいげん性せいを保たもつためには、こういった情報じょうほうをコンテンツ毎ごとに残のこしていくことが大切たいせつになってきます」と、稲垣いながきさんも抽出ちゅうしゅつした情報じょうほうの重要じゅうよう性せいを語かたります。

旧きゅう東京とうきょう国立こくりつ近代きんだい美術館びじゅつかんフィルムセンターの広報こうほう映像えいぞう『映画えいがの箱はこ舟ぶね』のMOVファイ ルは、色いろ域いきとして、高こう精細せいさい度どテレビジョン放送ほうそう向むけの規格きかくである「Rec.709」、 色いろ温度おんどが「D65」、ディスプレイガンマが「γがんま2.4」と入力にゅうりょくされている

国立こくりつ映画えいがアーカイブがフィルムや資料しりょうを一切いっさい所蔵しょぞうしていない場合ばあいは、NFADへの作品さくひん登録とうろくも行おこないます。抽出ちゅうしゅつしたメタデータと記録きろく表ひょうに齟齬そごが生しょうじることは基本きほん的てきにないそうですが、記録きろく表ひょうも規格きかくが統一とういつされてはいないので、情報じょうほうに抜ぬけがあって再さい確認かくにんが必要ひつようになることもあります。また、当館とうかん独自どくじの表記ひょうきルールがある項目こうもくは、それに合あわせて記載きさいを変かえて入力にゅうりょくしなければなりません。

ALFAへの登録とうろくを終おえた後のち、正副せいふくのLTOを作成さくせい。それを京橋きょうばし、相模原さがみはらの定さだめられた保存ほぞん場所ばしょに収おさめることで、デジタルファイルはようやく、フィルムで言いうならば「収蔵しゅうぞう庫こ」に収おさめられたことになります。こうしたカタロギングの工程こうていはようやく構築こうちくできたもので、三浦みうらさんは開設かいせつ当時とうじをこのように振ふり返かえります。

「ALFAの立たち上あげにあたっては、世界せかい各国かっこくのいろいろな機関きかんをリサーチしました。ヨーロッパでは周辺しゅうへん組織そしきと頻繁ひんぱんにやり取とりをする機関きかんも多おおく、共通きょうつうしたデータベースソフトを使つかっているケースもありましたね。アーカイブに特とく化かしたオープンソースのソフトウェアを使用しようしている機関きかんもありますが、館かん独自どくじの作つくり込こみをしようとすると途端とたんに難むずかしくなりますし、頻繁ひんぱんにアップデートもされるので、管理かんりが大変たいへんな面めんもあります。専用せんようデータベースの作成さくせいを外部がいぶに発注はっちゅうすることも考かんがえましたが、それには国立こくりつ映画えいがアーカイブのデジタルファイルの管理かんり方針ほうしんが完全かんぜんに固かたまっている必要ひつようがある。ALFAに着手ちゃくしゅしたころは手探てさぐりの部分ぶぶんが多おおかったので、ノンコードで開発かいはつできる、市販しはんのデータベースソフトでとにかく始はじめてみました。ALFAの開設かいせつ当初とうしょに登録とうろくした情報じょうほうは内容ないようが不足ふそくしていることもあるので、今いまは、館かんで定さだめたルールに基もとづいてそれらをアップデートし、情報じょうほうを整備せいびしていく、ということをやっています。手て戻もどりが多おおくて苦労くろうも絶たえませんが、当館とうかんの最適さいてき解かいは他たの誰だれかが教おしえてくれるものではない。正解せいかいを探さがしている間あいだにもデータは失うしなわれていってしまうので、とにかく始はじめて、考かんがえ続つづけながら育そだてていくということが重要じゅうようだと思おもっています」

技術ぎじゅつの進化しんかによって、これからも新あらたなフォーマットやメディアが誕生たんじょうする可能かのう性せいはいくらでもあります。当館とうかんはその都度つど、新あたらしい保存ほぞんの方法ほうほうを模索もさくしながら、ALFAをアップグレードしなくてはなりません。いまも、目下めしたコンテンツのカテゴリーの表記ひょうき変更へんこうなどを試こころみている最中さいちゅうとのこと。デジタルファイルとして映画えいがを未来みらいに残のこしていく保存ほぞん活動かつどうは、さまざまな変化へんかに柔軟じゅうなんに保存ほぞんスキームを適応てきおうさせしていく、絶たえ間まないプロセスでもあるのです。