コラム：芝山しばやま幹郎みきお　テレビもあるよ - 第だい38回かい

映画えいがはスクリーンで見みるに限かぎる、という意見いけんは根強ねづよい。たしかに正論せいろんだ。フィルムの肌合はだあいが、光学こうがく処理しょりされた映像えいぞうの肌合はだあいと異ことなるのはあらがいがたい事実じじつだからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映ほうえいされる映画えいがを毛嫌けぎらいするのはまちがっていると思おもう。「劇場げきじょう原理げんり主義しゅぎ者しゃ」はとかく偏狭へんきょうになりがちだが、衛星えいせい放送ほうそうの普及ふきゅうは状況じょうきょうを変かえた。フィルム・アーカイブの整備せいびされていない日本にっぽんでは、とくにそうだ。劇場げきじょうでの上映じょうえいが終おわったあと、DVDが品切しなぎれや未み発売はつばいのとき、見みたかった映画えいがを気前きまえよく電波でんぱに乗のせてくれるテレビは、われわれの強つよい味方みかただ。

というわけで、毎月まいつき、テレビで放映ほうえいされる映画えいがをいろいろ選えらんで紹介しょうかいしていくことにしたい。私わたしも、ずいぶんテレビのお世話せわになってきた。BSやCSではDVDで見みられない傑作けっさくや掘ほり出だし物ものがけっこう放映ほうえいされている。だから私わたしはあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「女おんなと男おとこのいる舗道ほどう」

(C)1962. LES FILMS DE LA PLEIADE. Paris

18歳さいのころ、私わたしはアンナ・カリーナにぞっこんだった。7歳さいのころの夢ゆめの女おんなはジーナ・ロロブリジーダだったが、これは欲望よくぼうの種類しゅるいがちがう。アンナ・カリーナのような恋人こいびとを作つくるぞ、と私わたしは心しんに誓ちかったが、そういう相手あいてにはなかなか出会であえなかった。当あたり前まえか。

「女おんなと男おとこのいる舗道ほどう」のナナは、私わたしの頭あたまに棲すみついていた。ナナは娼婦しょうふだ。ポールという男おとこと結婚けっこんして、子供こどももいたのだが、女優じょゆうになりたいといって家いえを出でる。だがもちろん、まともな手段しゅだんでまとまった金かねを稼かせぐ方法ほうほうはない。レコード屋やで働はたらいたり、ピンボールをして遊あそんだりしているうち、ナナはラウルというヒモに出会であって娼婦しょうふになる。

といっても、メロドラマ的てきな起伏きふくをこの映画えいがに期待きたいしてはいけない。ナナはなぜポールと別わかれたのか？　ナナは子供こどものことを考かんがえていないのか？　監督かんとくのゴダールは、そんなことを一切いっさい説明せつめいしない。「12の点景てんけい」という副題ふくだいからもわかるとおり、ゴダールはナナを見みつめ、ナナを取とり巻まく空間くうかんを探さぐり、ナナの生活せいかつを観察かんさつする。

その映像えいぞうが素晴すばらしい。記録きろくされた映像えいぞうというよりも、その場ばその場ばで肉眼にくがんがとらえた映像えいぞう、と呼よぶべきだろうか。たとえば、娼婦しょうふが集あつまる通とおりを写うつした場面ばめんを思おもい出だしてみよう。キャメラは通とおりの片側かたがわを流ながしたあとで反対はんたい側がわを流ながし、気きになる女おんなに遭遇そうぐうすると、移動いどうの速度そくどをゆるめる。あるいは、建物たてものの高層こうそう階かいにあるカフェで撮とられた有名ゆうめいなシーンを思おもい出だしてもよい。たばこを吸すったラウルがナナにキスすると、ナナが口くちからたばこの煙けむりを吐はき出だす場面ばめんだ。眼下がんかのシャンゼリゼを背景はいけいに、ナナは茫然ぼうぜんとしている。どこかずしりとしていながらかげろうのようで、はかなげに見みえながら肉にくの質感しつかんが伝つたわってくるような存在そんざい。ゴダールが彼女かのじょに夢中むちゅうになっていたからこそ私わたしもナナに岡おかっ惚ほれしたのだ、と気きづくまでには、少すこし時間じかんがかかった。
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「女おんなと男おとこのいる舗道ほどう」

WOWOWシネマ　7月がつ24日にち（火ひ）　02：45～04：15

原題げんだい：Vivre Sa Vie
監督かんとく・脚本きゃくほん：ジャン＝リュック・ゴダール
製作せいさく：ピエール・ブロンベルジェ
撮影さつえい：ラウール・クタール
音楽おんがく：ミシェル・ルグラン
出演しゅつえん：アンナ・カリーナ、サディ・ルボット、ブリス・パラン、アンドレ・S・ラバルト
1962年ねんフランス映画えいが／1時じ間あいだ24分ふん

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「ラヴ・ストリームス」

TM & Copyright(c)2012 By Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ジーナ・ローランズの脚あしは細ほそい。肩幅かたはばが広ひろく、上体じょうたいが頑丈がんじょうそうで、顔かおが大人おとなびているため、あの脚あしの細ほそさはどこかアンバランスに感かんじられる。そんな細ほそい脚あしをハイヒールに突つっ込こみ、彼女かのじょはけっこうすたすたと歩あるく。

ローランズが演えんじているのはサラという女おんなだ。サラは、離婚りこん係争けいそう中ちゅうの夫おっと（シーモア・カッセル）と娘むすめの親権しんけんを争あらそっている。が、娘むすめは父ちちとの同居どうきょを望のぞむ。サラはヨーロッパに旅行りょこうし、山やまのような荷物にもつに囲かこまれて帰かえってくる。

帰かえってきた先さきは、弟おとうとの家いえだ。ふたりが姉あね弟おとうとであることは、だいぶ先さきにならなければわからない。弟おとうとのロバート（ジョン・カサベテス）は小説しょうせつ家かだ。粗悪そあくな小説しょうせつを書かき散ちらし、ハリウッド・ヒルズの邸やしきに娼婦しょうふを集あつめて、日夜にちや、乱痴気騒らんちきさわぎに明あけ暮くれている。

話はなしの紹介しょうかいはもうやめよう。「ラヴ・ストリームス」の登場とうじょう人物じんぶつは狂くるっている。愛あいに飢うえ、人ひとを愛あいすることが絶望ぜつぼう的てきに下手へたで、人ひとに愛あいされることがもっと絶望ぜつぼう的てきに下手へただ。つまり、痛いたい。そして苦くるしい。心しんの内うち出血しゅっけつは激はげしく、もはや手ての打うちようがない。

監督かんとくも兼かねるカサベテスは、そんな彼かれらを物語ものがたりの容器ようきに押おし込こめたりしない。代かわりに、彼かれは登場とうじょう人物じんぶつに身みを添そわせる。ドキュメンタリーでも心理しんりドラマでもない形かたちで、彼かれらとともに呼吸こきゅうし、彼かれらとともに流血りゅうけつしてみせる。そして不思議ふしぎなことに、映画えいがはけっして暗くらくならない。描えがき出だされるのは、愛あいの残酷ざんこくと絶望ぜつぼうの悲惨ひさんばかりだが、狂くるっている彼かれらは現実げんじつの束縛そくばくなどもはや歯牙しがにかけない。むしろ突つき抜ぬける。ここが見事みごとだ。馬うまや山羊やぎやアヒルをタクシーで家いえに連つれ帰かえるサラも立派りっぱだが、嵐あらしの夜よるに動物どうぶつたちを室内しつないで保護ほごするロバートも立派りっぱだ。人間にんげん、覚悟かくごを決きめれば狂気きょうきも怖こわくない。ほかの人ひとの言葉ことばなら反発はんぱつするだろうが、カサベテスがそういえば、信しんじてみたくなる。
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「ラヴ・ストリームス」

WOWOWシネマ　7月がつ11日にち（水みず）　23：00～01：30

原題げんだい：Love Streams
監督かんとく：ジョン・カサベテス
製作せいさく：メナハム・ゴーラン、ヨーラン・グローバス
脚本きゃくほん：ジョン・カサベテス、テッド・アレン
出演しゅつえん：ジーナ・ローランズ、ジョン・カサベテス、シーモア・カッセル、ダイアン・アボット
1984年ねんアメリカ映画えいが／2時じ間あいだ19分ふん