コラム：芝山しばやま幹郎みきお　テレビもあるよ - 第だい52回かい

映画えいがはスクリーンで見みるに限かぎる、という意見いけんは根強ねづよい。たしかに正論せいろんだ。フィルムの肌合はだあいが、光学こうがく処理しょりされた映像えいぞうの肌合はだあいと異ことなるのはあらがいがたい事実じじつだからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映ほうえいされる映画えいがを毛嫌けぎらいするのはまちがっていると思おもう。「劇場げきじょう原理げんり主義しゅぎ者しゃ」はとかく偏狭へんきょうになりがちだが、衛星えいせい放送ほうそうの普及ふきゅうは状況じょうきょうを変かえた。フィルム・アーカイブの整備せいびされていない日本にっぽんでは、とくにそうだ。劇場げきじょうでの上映じょうえいが終おわったあと、DVDが品切しなぎれや未み発売はつばいのとき、見みたかった映画えいがを気前きまえよく電波でんぱに乗のせてくれるテレビは、われわれの強つよい味方みかただ。

というわけで、毎月まいつき、テレビで放映ほうえいされる映画えいがをいろいろ選えらんで紹介しょうかいしていくことにしたい。私わたしも、ずいぶんテレビのお世話せわになってきた。BSやCSではDVDで見みられない傑作けっさくや掘ほり出だし物ものがけっこう放映ほうえいされている。だから私わたしはあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「イル・ディーヴォ　魔王まおうと呼よばれた男おとこ」

(C)2008 Indigo Film Lucky Red Parco Film Babe Films StudioCanal Arte France Cinema

ジュリオ・アンドレオッティのような政治せいじ家かはほかにいたのだろうか。寡聞かぶんにして、私わたしは知しらない。血ちの粛清しゅくせいだけなら、思おもい出だす名なはいくつかある。不倒翁ふとうおうと呼よばれた政治せいじ家かの名前なまえも皆無かいむではない。

アンドレオッティは双方そうほうを兼かねた。彼かれは1919年ねんに生うまれて2013年ねんまで生いきた。その間あいだ、19回かい入閣にゅうかくし、7期きにわたって3度ど首相しゅしょうをつとめている。そして、一説いっせつによると236人にんの死亡しぼう事件じけんに関与かんよしたといわれる。

そんな「魔王まおう」の人生じんせいが、彼かれの存命ぞんめい中ちゅうに映画えいが化かされた。映画えいがが公開こうかいされたときは90歳さい近ちかかったが、完全かんぜんに影響えいきょう力りょくを失うしなっていたわけではない。リスクはなかったのか。

パオロ・ソレンティーノは30代だいの若わかさで「イル・ディーヴォ」を監督かんとくした。主役しゅやくを演えんじたトニ・セルビッロは恐おそれるべき仏頂面ぶっちょうづらの演技えんぎで全ぜん篇へんを貫つらぬいた。つまり、野心やしんや奸智かんちといった言葉ことばは浮うかんできても、幸福こうふくや喜よろこびといった言葉ことばはまったく思おもいつかない。いや、これは屈折くっせつしたデッドパン・コメディではないかという疑うたがいさえ兆きざしてくる。

本当ほんとうは怖こわい話はなしなのだ。義憤ぎふんを感かんじる人ひとがいてもおかしくない話はなしなのだ。

が、私わたしはそんな感情かんじょうを覚おぼえなかった。むしろ、催眠さいみん術じゅつをかけられたような気分きぶんになった。「権力けんりょくとはだれも治なおしたがらない病やまいだ」という台詞ぜりふとか「弱よわさには途方とほうもない代償だいしょうがついてまわる」とかいった台詞せりふには、奇妙きみょうなリアリズムさえ感かんじられる。

しかも映画えいが全体ぜんたいが不思議ふしぎにアンバランスな印象いんしょうを帯おびている。端正たんせいな画面がめんと静しずけさを誇張こちょうした演技えんぎの同居どうきょも理由りゆうのひとつなのだろうが、悪人あくにんばかりが出でてきて「闇やみから闇やみへ」の行動こうどうを変奏へんそうする映画えいがは、イタリアの特産とくさん物ぶつなのかもしれない。あるいは、「アウトレイジ」の音声おんせいを消けすと、この映画えいがに近ちかづくのか。

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「イル・ディーヴォ　魔王まおうと呼よばれた男おとこ」

WOWOWシネマ　9月21日にち（土ど）　08：30～10：30

原題げんだい：Il divo: La spettacolare vita di Giulio Andreotti
監督かんとく・脚本きゃくほん：パオロ・ソレンティーノ
製作せいさく：フランチェスカ・シーマ、ニコラ・ジュリアーノ、アンドレア・オキピンティ
撮影さつえい：ルカ・ビガッツィ
出演しゅつえん：トニ・セルビッロ、カルロ・ブチロッソ、アンナ・ボナイウート、フラビオ・ブッチ、マッシモ・ポポリツィオ、アルド・ラッリ
2008年ねんイタリア＝フランス合作がっさく／1時じ間あいだ58分ふん

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「ビッグ・ボーイズ　しあわせの鳥とりを探さがして」

(C)2011 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

バーダーという言葉ことばがある。私わたしも初はじめて聞きいたが、バードウォッチャーと呼よび替かえると叱しかられるらしい。もっと熱心ねっしんで、もっと能動のうどう的てきで、さらにいうならもっと偏執へんしゅう的てきな愛鳥あいちょう家か。鳥とりの当あたり年どしがやってくると、彼かれらは狂くるったように全米ぜんべいを駆かけめぐる。作つくり話ばなしかと思おもったが、どうやら実話じつわのようだ。

それがコンテストになる。1年ねんにどれほど多おおくの種類しゅるいを見みたか。写真しゃしんを撮とる必要ひつようはない。見みた鳥とりの名前なまえを自己じこ申告しんこくすればよい。多おおい年としには700前後ぜんこうの観察かんさつ例れいが報告ほうこくされる。ズルをする人ひとは……たまにいるかもしれない。

「ビッグ・ボーイズ」には主おもに3人にんのバーダーが出でてくる。前年ぜんねんまでの記録きろく保持ほじ者しゃボスティック（オーウェン・ウィルソン）。妻つまに逃にげられた労働ろうどう者しゃハリス（ジャック・ブラック）。大だい企業きぎょうのCEOプライスラー（スティーブ・マーティン）。ボスティックは、なにかというと人ひとの上うえに立たちたがる嫌味いやみな男おとこだ。ハリスは、熱意ねつい過剰かじょうで間抜まぬけだ。プライスラーは、正直しょうじきなのか狡猾こうかつなのかわからない。3人にんに共通きょうつうするのは、なにがなんでも鳥とりを見みるぞ、というオブセッションに衝つき動うごかされていることだ。金かねを費ついやし、時間じかんをかけ、体力たいりょくを使つかい、情熱じょうねつを燃もやす。めざすは新しん記録きろくの達成たっせいだ。

鳥とりを追おって、彼かれらは頻繁ひんぱんに移動いどうする。オレゴン、ワイオミング、テキサスあたりはもちろん、アリューシャン列島れっとうのアッツ島とうにまで足あしを伸のばす。千島ちしま列島れっとうはすぐそこだ。アンカレッジからは週しゅうに1便びんしか飛行機ひこうきが出でない。

というわけで、画面がめんはつねに変化へんかする。つねに異ことなった風景ふうけいが映うつし出だされる。いわばロードムービーの変種へんしゅだ。加くわえて、奇き怪かいな情熱じょうねつにとり憑つかれた男おとこたちの珍ちん行動こうどう。これは笑わらえる。映画えいがの原題げんだいは簡潔かんけつに「ビッグ・イヤー」。アンジェリカ・ヒューストン、ダイアン・ウィースト、ロザムンド・パイクらが、控ひかえ目めな芝居しばいで脇わきを固かためている。

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「ビッグ・ボーイズ　しあわせの鳥とりを探さがして」

WOWOWシネマ　9月28日にち（土ど）　04：30～06：15

原題げんだい：The Big Year
監督かんとく：デビッド・フランケル
脚本きゃくほん：ハワード・フランクリン
製作せいさく：カーティス・ハンソン、カレン・ローゼンフェルト、スチュアート・コーンフェルド
出演しゅつえん：ジャック・ブラック、スティーブ・マーティン、オーウェン・ウィルソン、ブライアン・デネヒー、アンジェリカ・ヒューストン、ダイアン・ウィースト、ロザムンド・パイク
2011年ねんアメリカ映画えいが／1時じ間あいだ41分ふん