コラム：メイキング・オブ・ミニシアター - 第だい2回かい

第だい2回かい：名画めいが座ざや二番館にばんかんはキュレーターだ

人口じんこう減少げんしょう期きに入はいっているこの日本にっぽんですが、なぜか反比例はんぴれいするように映画えいがの公開こうかい作品さくひん本数ほんすうは増ふえているんです。映画えいがに限かぎらず、あらゆるコンテンツが量産りょうさんされているご時世じせいです。デジタルとインターネットの最大さいだいの功績こうせきはやはり万まん人にんに表現ひょうげんの場ばを開ひらいたことにあると思おもいます。情報じょうほうを上手じょうずに取得しゅとくできれば、素晴すばらしい作品さくひんにであう機会きかいは以前いぜんより飛躍ひやく的てきに増ふえています。

しかし、コンテンツが多おおすぎて、頭あたまがパンクしそうになることもしばしば。消費しょうひする側がわにとっては選択肢せんたくしの増大ぞうだいじたいはいいことですが、増ふえすぎて自分じぶんにあった作品さくひんを探さがす労力ろうりょくもハンパない、そんな時代じだいに突入とつにゅうしてしまいました。

映画えいが業界ぎょうかいも例外れいがいではなく、公開こうかい本数ほんすうが年々ねんねん増加ぞうか傾向けいこうにあります。2013年ねんには初はじめて公開こうかい本数ほんすうが1000本ほんを突破とっぱしました。映画えいが好すきからすると嬉うれしい悲鳴ひめいを上あげるべきなのでしょうか、財布さいふがどんどん軽かるくなっていくことを絶望ぜつぼうすべきなのか、よくわからない状況じょうきょうですね。1日にち3本ほんペースで見みていかないと全部ぜんぶ見切みきれませんし。いつ仕事しごとに行いけばいいのやら。

そんな状況じょうきょうでどうやって面白おもしろい映画えいがを選えらんだらいいんでしょう。情報じょうほう量りょうが多おおすぎて逆ぎゃくに判断はんだんできなくて、かえって足あしが映画えいが館かんから遠とおのく、なんて人ひともいそうです。

高校こうこう時代じだいはぴあを片手かたてに都内とないで公開こうかいされた映画えいがは全部ぜんぶ見みてやるんだ！　と息巻いきまいてた時期じきが僕ぼくにもありましたが、今いま僕ぼくが高校生こうこうせいであっても同おなじ熱意ねついを持もてるのかどうか。公開こうかいリストの膨大ぼうだいさに絶望ぜつぼうしてしまうかもしれません。

現代げんだいのメディア業界ぎょうかいでも過剰かじょうに溢あふれた情報じょうほうをどう整理せいりして届とどけるのか、というのが課題かだいとしてあります。キュレーションという概念がいねんがIT用語ようごとして定着ていちゃくしましたが、本来ほんらいは博物館はくぶつかんや図書館としょかんなどの資料しりょうの鑑定かんていや研究けんきゅうを行おこない見みやすく整理せいりすることを指さします。英語えいごでcurateとは展示てんじ会かいを開催かいさいするという意味いみでも使つかわれます。現代げんだい美術びじゅつの世界せかいでは、キュレーターのポジションは非常ひじょうに重要じゅうようで、テーマを考かんがえ、作品さくひんを選択せんたくして、どう展示てんじするかまで考かんがえます。同おなじ作品さくひんであっても、どのようなテーマで展示てんじされたかによって見みえ方かたが全まったく異ことなります。一見いっけんなんの変哲へんてつのない作品さくひんでも、テーマと効果こうか的てきな展示てんじの仕方しかたによっては、作品さくひんの印象いんしょうは全まったく変かわります。

年間ねんかんの公開こうかい本数ほんすうが1000本ほんを超こえてしまう時代じだいになった今いま、映画えいが業界ぎょうかいにもキュレーターが求もとめられていると思おもいます。名画めいが座ざとか二番館にばんかんというのは映画えいがの世界せかいのキュレーターのような存在そんざいだと思おもうんです。膨大ぼうだいな公開こうかい作品さくひん、過去かこのアーカイブスから、テーマに沿そってセレクトし、良質りょうしつな作品さくひんを新鮮しんせんな視点してんで届とどけるような存在そんざいが。

「この時期じきのこの2作さくをチョイスした早稲田わせだ松竹しょうちくの意図いとはなんだろう」とか頼たのまれもしないのに考かんがえているときがあります。結果けっか新あたらしい発見はっけんがあったりするんです。

おりしも先日せんじつ、そんな独特どくとくの視点してんを味あじわえる名画めいが座ざ「新橋しんばし文化ぶんか劇場げきじょう」が閉館へいかんを発表はっぴょうしました。少すこし前まえには三軒茶屋さんげんぢゃやシネマも閉館へいかんを発表はっぴょうしました。何なにを上映じょうえいしてるか知しらなくても、新橋しんばしガード下かに行いけば素晴すばらしい映画えいがが見みられる、という安心あんしん感かんがあそこにはありました。

閉館へいかんが発表はっぴょうされた翌日よくじつに新橋しんばし文化ぶんか劇場げきじょうに行いって来きたのですが、上映じょうえい作品さくひんは「チャップリンの独裁どくさい者しゃ」と「死刑しけい執行しっこう人じんもまた死しす」。今いまこのチョイス、というだけで何なにかを訴うったえかけているような気きがします。そのメッセージが好すきか嫌きらいかは別べつとして、選えらんだ作品さくひんだけで、なにかを伝つたえることができるのは、まさしくキュレーターの仕事しごとそのものだと思おもいます。（「死刑しけい執行しっこう人じんもまた死しす」のラスト、The Endじゃなく、Not The Endなんですよね。このタイミングでこの劇場げきじょうでそのラストは絶妙ぜつみょうに心しんに響ひびく！）それができるからこそ、新橋しんばし文化ぶんか劇場げきじょうさんは長ながい間あいだ支持しじされ続つづけたのでしょう。長年ながねんの素晴すばらしいセレクションからくる信頼しんらい感かんは、JRの列車れっしゃのガタンゴトンという音おとすら、館たて特有とくゆうの効果こうか音おんとして味方みかたにつけている感かんすらあります。

オープンしてまだ2カ月かげつたらずの当館とうかんにそこまでの存在そんざい感かんはまだないかもしれませんが、先達せんだつの偉大いだいな背中せなかに少すこしでも追おいつきたいものです。コンテンツ激増げきぞうの時代じだいだからこそ、選択せんたく眼めを持もった名画めいが座ざや二番館にばんかんは必要ひつようとされる存在そんざいになれるはずです。