コラム：21世紀せいき的てき亜細亜あじあ電でん影かげ事情じじょう - 第だい16回かい

第だい16回かい：インドネシアより（1）　シネコン全盛ぜんせい！上映じょうえい作品さくひんから見みえてくる普段着ふだんぎのインドネシア

東南とうなんアジアの大国たいこくインドネシア。世界せかい最大さいだいのイスラム教徒きょうと人口じんこうを抱かかえる国くにの人々ひとびとは、どんな映画えいがを見みているのだろう？　筆者ひっしゃは現在げんざい、首都しゅとジャカルタ近郊きんこうの中規模ちゅうきぼ都市としに長期ちょうき滞在たいざいしている。今回こんかいからインドネシアの映画えいが事情じじょうをお送おくりしたい。

町まち一番いちばんのショッピングモールに行いってみた。ブランドショップやレストランが入はいったビルの最上階さいじょうかいに、インドネシアの大手おおてシネマコンプレックス・チェーン「Cineplex 21」があった。入いり口くちや売店ばいてん、劇場げきじょう内ないは日本にっぽんのシネコンとまったく変かわらない。上映じょうえい作品さくひんはハリウッド大作たいさくや地元じもとのインドネシア映画えいが、タイの映画えいがなど。チケットは平日へいじつが3万まん5000ルピア（約やく330円えん）、土日どにちは5万まんルピア（約やく470円えん）だ。インドネシアもシネコン全盛ぜんせいで、中規模ちゅうきぼ以上いじょうの都市としならたいていある。

まずは地元じもとの作品さくひんを観みてみる。インドネシア映画えいがは日本にっぽんの映画えいが祭さいでもよく紹介しょうかいされるが、文芸ぶんげい作品さくひんや独立どくりつ系けいの作品さくひんが多おおい。しかしこの日ひかかっていたのは、バレンタインデー狙ねらいの恋愛れんあい映画えいが2本ほん。高校生こうこうせいの恋愛れんあい物ぶつ「This Is Cinta（これが愛あいだ）」、ラブコメディー「Kapan Kawin?（いつ結婚けっこんするの？）」だった。ポスターを見みる限かぎり、いかにも「コテコテ」な作品さくひんにみえる。

若手わかて俳優はいゆう二に人にんが主演しゅえんの「This Is Cinta」。身分みぶん違ちがいの幼おさななじみが、純愛じゅんあいを貫つらぬく青春せいしゅん映画えいがだ。舞台ぶたいはジャカルタ。小学生しょうがくせいのファレル（ショーン・エイドリアン）は、隣となりに住すむかわいい女おんなの子こレイチェル（ユキ・カトー）と幼おさななじみ。ファレルは母子ぼし家庭かていに育そだったが、母ははの愛あいに包つつまれ幸しあわせに暮くらしている。しかし、レイチェルの母ははは二人ふたりが仲良なかよく遊あそぶのを快こころよく思おもわない。一家いっかは父ちちの仕事しごとの関係かんけいで、突然とつぜんニュージーランドに引ひっ越こしてしまう。

12年ねん後ご。ジャカルタに戻もどったレイチェルはファレルと再会さいかい。二人ふたりはひかれ合あうようになるが、やはりレイチェルの母ははが壁かべになる。なんとか二人ふたりを引ひき離はなそうとするが、反対はんたいされるほど二に人にんの愛あいは深ふかまっていく──というお話はなし。シンプルな恋愛れんあい映画えいがだが、物語ものがたりの端々はしばしからインドネシア事情じじょうが見みえて興味深きょうみぶかい。

たとえばニュージーランド。美うつくしい山やまと緑みどり、草原そうげんを吹ふき渡わたるさわやかな風ふう。裕福ゆうふくなレイチェルの家族かぞくが引ひっ越こし、いつか二に人にんで行いくことを夢見ゆめみる憧あこがれの場所ばしょとして描えがかれる。ジャカルタでの暮くらしぶりも興味深きょうみぶかい。レイチェルの家族かぞくは運転うんてん手付てつきの高級こうきゅう車しゃに乗のっているが、ファレルは母ははとバイクに二人ふたり乗のり。レイチェルの家いえには外国がいこく製せいのモダンな家具かぐがそろっている。

レイチェルを演えんじたユキ・カトーは父ちちが日本人にっぽんじん、母ははがインドネシア人じん。地元じもとでは人気にんきの若手わかて女優じょゆうだ。客席きゃくせきを見渡みわたすと、主演しゅえん二に人にんと同どう世代せだいの子こどもたちばかり。ジルバブ（イスラム女性じょせいがかぶるスカーフ）を着つけた女子高じょしこう生せいのグループが一喜一憂いっきいちゆうしていたり、カップルがポップコーンを分わけあっていたり。映画えいがはめでたしめでたしのハッピーエンドで、みな満足まんぞくそうに会場かいじょうを出でて行いった。

もう1本ほんの「Kapan Kawin?」は、平ひらたくいえば“アラサー女性じょせいの婚こん活かつ奮闘ふんとう記き”。主人公しゅじんこうはジャカルタの高級こうきゅうホテルの敏腕びんわんマネジャー、ディンダ（アディニア・ウィラスティ）、33歳さい。故郷こきょうの古都ことジョグジャカルタの母ははから、常つねに「いつ結婚けっこんするの？」と急せかされている。困こまったディンダは女おんな友達ともだちに相談そうだん。売うれない俳優はいゆうのサトリオ（レザ・ラハディアン）に恋人こいびとのふりをしてもらい、実家じっかに連つれて帰かえることに。家族かぞくや親しんせきに紹介しょうかいすることで、事態じたいを収おさめようとするが──。

「仕事しごとか恋れんか」で悩なやむ年としごろの女性じょせいは、ハリウッドでも繰くり返かえし描えがかれてきたテーマだ。しかし舞台ぶたいはインドネシア。やはり現地げんち事情じじょうが垣間見かいまみえる。京都きょうとと姉妹しまい都市としでもあるジョグジャカルタは、インドネシアを代表だいひょうする古都ことだ。王宮おうきゅうがあり、伝統でんとう文化ぶんかが息いきづき、古ふるきよきジャワの文化ぶんかが色濃いろこく残のこる。都会とかいではりつめていたディンダの心しんは、古里ふるさとの空気くうきに癒いやされていく。夕暮ゆうぐれ時じ、二人ふたりがそぞろ歩あるく繁華はんか街がいのマリオボロ通どおり。地元じもとの人ひとたちが訪おとずれる美うつくしい海辺うみべ。両親りょうしんが話はなす柔やわらかいジャワ語ごの響ひびき。ちょっとした観光かんこう案内あんないにもなっている。

典型てんけい的てきな二ふたつの恋愛れんあい物語ものがたりは、日本にっぽんと同おなじといえば同おなじ、違ちがうといえば違ちがう。なによりインドネシアの日常にちじょう生活せいかつ、人々ひとびとの悩なやみや喜よろこび、夢ゆめが見みえて興味深きょうみぶかかった。日本にっぽんにはまず紹介しょうかいされない娯楽ごらく作品さくひんだが、普段着ふだんぎのインドネシアを知しるにはうってつけではないだろうか。