ARGYLLE アーガイル

　何なにがウソで何なにがホントか、凄すさまじいかぎりのどんでん返がえしと張はり巡めぐらされた伏線ふくせんの数々かずかず。これほど、もう一度いちどみなければ、と思おもわされる映画えいがはありません。そして、もしかしたら映画えいが鑑賞かんしょうの経験けいけんをかなり試ためされる作品さくひんかも知しれません。いろんな映画えいがのオマージュ、インスパイヤ、パロディーを感かんじました。記憶きおくが甦よみがえるあたりは、トータルリコールとか、ラストバトルを経へてボートで突つっ走ぱしるエンディングは、スパイ映画えいがのお約束やくそくと感かんじたのは気きのせいでしょうか。最後さいごの最後さいごで更さらに輪わをかけて現実げんじつを覆くつがえすあたり、なにか他たの映画えいがにもあったような気きがするけど思おもい出だせない。自分じぶんの知識ちしきの乏まずしさが悲かなしい。
　アクションも凄すさまじい。二人ふたりの役者やくしゃがまったく同おなじ格闘かくとうシーンを演えんじているのは二重取にじゅうどりでしょうか。クライマックスの煙幕えんまく銃撃じゅうげき戦せんやら原油げんゆスケートバトルやら、凄すさまじいアクションにも関かかわらず、荒唐無稽こうとうむけいで笑わらってしまった。そうしたシーンのBGMもぶっ飛とんでたなぁ。トドメはビートルズ新曲しんきょくにして神かみ曲きょく、NOW AND THENをツッコんだのは恐おそれ入いりました。亡なきジョン・レノンはこの使つかわれ方かたに納得なっとくしたのでしょうかｗ
　あと、Apple出資しゅっしの映画えいがと言いうことで、使つかうコンピュータも当然とうぜんApple製せい。後半こうはん、相手あいて組織そしきが使つかう未来みらい的てきな操作そうさパネルもAppleハードウェアの未来みらいの姿すがたでしょうか。そちらの今後こんごも期待きたいしたいですね。

　マシュー・ヴォーン、サム・ロックウェル、猫ねこという私わたしの好すきな要素ようそ盛ざかり盛ざかりの映画えいが。ヴォーン監督かんとくのスパイ映画えいがといえば私わたしの大好だいすきな「キングスマン」。シリーズとは別べつの作品さくひんとわかっていても、ついあの突つき抜ぬけた楽たのしさを期待きたいしてしまう。
　ところが、中盤ちゅうばんでちょっと眠ねむたくなってしまった……何故なぜだろう。

　小説しょうせつ「アーガイル」を上梓じょうしした作家さっかエリーが、妄想もうそうの小説しょうせつ世界せかいに入はいり込こんでいく話はなしかと思おもいきや、実じつはエリーは催眠さいみん暗示あんじによって記憶きおくを奪うばわれていた凄腕すごうでスパイで、スパイ仲間なかまのエイダンと共闘きょうとうし、実じつは敵てきだった自分じぶんの両親りょうしんなどと闘たたかう。騙だまし合ごういの応酬おうしゅうで、主要しゅようキャラどうしの見みた目めの関係かんけい性せいが二に転てん三さん転てんするスピード感かんのある展開てんかい。ヴォーン監督かんとくの飼かい猫ねこチップが演えんじる猫ねこのアルフィーも、単たんなるお飾かざりにとどまらないアクションをこなす（CGだけど）。
　なかなか手ての込こんだストーリーだとは思おもうが、どうも気持きもちが入はいらず、ただ話はなしを追おうだけになってしまった。有あり体ていに言いえば、主役しゅやく２人にんにスパイ映画えいがの主要しゅようキャラとしてのキャラ立だちや共感きょうかんしやすさみたいなものが感かんじられず、こちらを物語ものがたりに引ひき込こむ引力いんりょくが足たりなかったような気きがする。

　もちろん、ブライス・ダラス・ハワードは素晴すばらしい女優じょゆうだし、いわんやサム・ロックウェルをや、である。スパイという役柄やくがらに対たいする意外いがい性せいを狙ねらって監督かんとくが意図いと的てきにこのようなキャスティングをしたこともわかる。ミスマッチ感かんを笑わらうところなのだろう。
　ただ個人こじん的てきには、スパイ映画えいがにおいて、よくあるパターンから外はずしたキャスティングをするのであれば、「意外いがいとイケるやん、想像そうぞうよりかっこいいやん！」となるような化学かがく反応はんのうを見みたかった。「キングスマン」でハリーを演えんじ、50代だいにして突然とつぜん派手はでなアクションを披露ひろうしたコリン・ファースに感かんじたような心地ここちよい意外いがい性せい。
　こういうい方いかたは本当ほんとうに申もうし訳わけないのだが、ブライスのがっしり体型たいけいは、後半こうはんスパイであることを自覚じかくした後のちのアクションにどすこい感かんをもたらして、パワーが凄すごそうには見みえたものの、アクションシーンのスタイリッシュさを減げんじていた。かといって俊敏しゅんびんなアクションをこなす姿すがたが爆笑ばくしょうを誘さそうほど極端きょくたんな体型たいけいでもなく、中途半端ちゅうとはんぱに見みえる。渡辺わたなべ直美なおみがあのアクションをこなしたら多分たぶん笑わらうけど……。

　スパイ映画えいがの割わりに、面白おもしろガジェットもあまり出でてこない。クライマックスの、カラフルなガスの中なかでの踊おどるようなガンアクションは、よく言いえばヴォーン監督かんとくらしいけど、い換いかえれば既すんで視し感かんがある。
　そして、威風いふう堂々どうどうと頭あたまが爆発ばくはつしまくったり、人間にんげんをミンチにしてハンバーグにしたり、主人公しゅじんこうが（電波でんぱで操あやつられて）モブを惨殺ざんさつしまくったりといった場面ばめんに相当そうとうする、イッちゃってるシークエンスがないため、今いまひとつインパクトに欠かける。

　でもまあ、私わたしの中なかに「キングスマン」の続編ぞくへんがない欠乏けつぼう感かんを埋うめたい、という無意識むいしきの欲求よっきゅうがあったから、勝手かってに本ほん作さくにそういう役割やくわりを求もとめてしまい、不満ふまんな点てんが目めにつくことになったのかもしれない。アクションのノリが似にてたり、ラストに20年ねん前まえのアーガイルがキングスマンの名なを掲かかげた店みせに行いく、という思おもわせぶりなシーンがあったので、私わたしのひとりよがりだけが原因げんいんではないとは思おもうが（開ひらき直なおり）。
　とりあえず名作めいさく「キングスマン」のことはいったん忘わすれて観みた方ほうが、素直すなおに楽たのしめそうだ。