劇場げきじょう公開こうかい日び 2024年ねん5月がつ17日にち

シド・バレット　独ひとりぼっちの狂気きょうき : 映画えいが評論ひょうろん・批評ひひょう

2024年ねん5月がつ14日にち更新こうしん

2024年ねん5月がつ17日にちよりシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町ゆうらくちょうほかにてロードショー

ありがとう、シド。あなたに会あえて良よかった

ロックを少すこしかじり始はじめた15歳さいの頃ころ、1968年ねんから71年ねんにかけて27歳さいという若わかさで早はや逝したミュージシャンたちの伝説でんせつを知しった。ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ(1969年ねん自宅じたくプールで溺死できし)、ジミ・ヘンドリックス(1970年ねんロンドンのホテルで急逝きゅうせい)、ジャニス・ジョプリン(1970年ねんハリウッドのホテルで遺体いたいを発見はっけん)、そしてドアーズのジム・モリスン(1971年ねんパリのアパート浴槽よくそう内ないで死去しきょ)が天てんに召めされた。

共通きょうつうするのは没年ぼつねんが27歳さいということ。天才てんさいと呼よばれた彼かれらは、純粋じゅんすいに音楽おんがく表現ひょうげんを追求ついきゅうし酒さけとドラッグにぶち当あたる。生いき急いそぐが故ゆえに迷宮めいきゅうを彷徨うろつい、我わが道みちを追おい求もとめるが故ゆえに命いのちを削けずった。1994年ねんにはカート・コバーンが27歳さいで他界たかい、いつしか早さ逝の天才てんさいたちを「27クラブ」として讃たたえる活動かつどうが始はじまった。

その誰だれもが伝説でんせつだ。初期しょきのピンク・フロイドのリーダーで、音楽おんがくの求道きゅうどう者しゃたるシド・バレットも同様どうようだ。絵えの才能さいのうに秀ひいでていた彼かれの美意識びいしきは独特どくとくだった。グラムロックやサイケデリックというカテゴリーがまだ見出みいだされていない時代じだいに、突如とつじょ現あらわれた彗星すいせいの如ごとき存在そんざいとしてフロントランナーとなった。

1967年ねんにメジャーレーベルと契約けいやく、ポップカルチャーの寵児ちょうじとなることを求もとめられた。だが、彼かれの気質きしつはその路線ろせんを良いしとしない。ボヘミアンのように暮くらし、創作そうさくのために全身ぜんしんを薬くすりに沈しずめた。性急せいきゅうな行動こうどうと過剰かじょう摂取せっしゅによって日常にちじょう生活せいかつにすら支障ししょうをきたすまでに至いたる。その姿すがたは27歳さいの早さ逝者たちの生いき様ざまにも重かさなる。だが、命いのちと引ひき換かえにこの世よを去さったレジェンドたちとは決定的けっていてきに違ちがっていた。ある日ひ突然とつぜん、シドはショウビズ界かいから姿すがたを消けしたのだ。

1968年ねん、シドと訣別けつべつしたピンク・フロイドにデヴィッド・ギルモアが加入かにゅう、ロジャー・ウォーターズが才能さいのうの開花かいかさせていく。複数ふくすうの実験じっけん的てきなアルバムを発表はっぴょうした後のち、ロック史上しじょう最大さいだいのヒットアルバム「狂気きょうき」(1973／5000万まん枚まい)、「炎ほのお〜あなたがここにいてほしい」(1975／2300万まん枚まい)、そしてロックオペラとも呼よべる2枚まい組ぐみ大作たいさく「ザ・ウォール」(1979／3300万まん枚まい)をリリース、アルバム・トップ3だけで累計るいけい1億おく枚まいを優ゆうに超こえる、まさにスーパー・バンドとなった。

このドキュメンタリーは、「WISH YOU WERE HERE」の原題げんだいでシドに捧ささげられたアルバム「炎ほのお」の楽曲がっきょく「Shine On You Crazy Diamond」が基調きちょう低音ていおんとなって反復はんぷくされる。エコーを効きかせたこの曲きょくでは、シド・バレットと入いれ替かわるかのようにバンドに加くわわったデヴィッド・ギルモアのギターが複雑ふくざつなる想おもいと切せつなる願ねがいを響ひびかせる。「あなた」とはシド・バレットその人ひとであり、アルバム「炎ほのお」は、ピンク・フロイドの過去かこと未来みらいが交錯こうさくした奇跡きせきのアルバムとなっている。

「炎ほのお」のレコーディング中ちゅうのある日ひ、スタジオに謎なぞの人物じんぶつが姿すがたを見みせた。「誰だれも彼かれだとは気きづかなかった」とメンバーたちは臆おくすることなく振ふり返かえる。その日ひに撮影さつえいされたスナップには、シド・バレットその人ひとが写うつっている。

1968年ねん、22歳さいでピンク・フロイドを脱退だったい、1970年ねんに2枚まいのソロアルバムをリリース、1972年ねんに新しんバンドを結成けっせいするも程ほどなく空中くうちゅう分解ぶんかい、その後ごシドは消息しょうそくを絶たつ。まだ26歳さいだった。表おもて舞台ぶたいから忽然こつぜんと姿すがたを消けした後のち、音楽おんがくシーンで煌きらめいた瞬間しゅんかんの自身じしんに固執こしつすることなく60歳さいまで生いきた。27歳さいという呪縛じゅばくに囚とらわれることのなかったシド・バレットは2006年ねん7月がつに膵臓すいぞうガンのため逝去せいきょ、享年きょうねん60歳さい。この作品さくひんを観み終おえた時とき、ある特別とくべつな感情かんじょうが込こみ上あげた。「ありがとう、シド。あなたに会あえて良よかった」と。