2001年ねん宇宙うちゅうの旅たび

◯作品さくひん全体ぜんたい
モノリスや宇宙船うちゅうせんとその内装ないそう、そしてＨＡＬ。複雑ふくざつな機能きのうや能力のうりょくを持もちながらシンプルな形かたちや色合いろあいをしていて、着飾きかざっていない「無機質むきしつ」が公開こうかいされて６０年ねん近ちかくたった今いまでも色褪いろあせずに近きん未来みらいを映うつし出だす。ＦＩＸの多おおいカメラワークもその無機質むきしつさにより一層いっそう磨みがきをかけていて、自分じぶんたちと同おなじ人類じんるいが過すごす景色けしきでありながら、全まったく別べつの世界せかいとして感かんじられた。宇宙船うちゅうせんの航行こうこうを映うつすシーンは、暗闇くらやみと宇宙船うちゅうせん、たまに星ほしが映うつる程度ていどのシンプルな構成こうせいの画面がめんだが、そのスケール感かんが素晴すばらしい。影かげの落おとし方かたやカメラ位置いちによるものだろうか、広大こうだいな宇宙うちゅう空間くうかんを巨大きょだいな宇宙船うちゅうせんが進すすんでいく様子ようすが記録きろく映像えいぞうと見みまがうほどに存在そんざいの説得せっとく力りょくに満みちていた。そしてその説得せっとく力りょくは、宇宙船うちゅうせんが黙々もくもくと進すすんでいく様さまから感かんじる「無機質むきしつさ」の表現ひょうげんでもあった。
木星もくせい探査たんさへ向むかうクルーの表情ひょうじょうも「無機質むきしつさ」の演出えんしゅつに一役ひとやく買かっている。月つきでモノリスを発見はっけんする第だい１章しょうではフロイド博士はかせが楽たのしそうに娘むすめとビデオ通話つうわするシーンがあるが、第だい２章しょうでボーマンが家族かぞくからのビデオレターを見みるシーンではほとんど表情ひょうじょうを変かえない。後者こうしゃは通話つうわではないから、という理由りゆうもあるだろうが、二人ふたりの表情ひょうじょうや声こえのトーンに大おおきな差異さいがあり、ボーマンの無機質むきしつさを強調きょうちょうしているように感かんじた。さらに突出とっしゅつしたシーンとしてはＨＡＬの暴走ぼうそうに対抗たいこうするボーマンのシーンだろう。同僚どうりょうを宇宙うちゅうへ放ほうり出だされ、自みずからも作業さぎょう船せんから動うごけなくなってしまったときのボーマンの表情ひょうじょうはあまりにも無表情むひょうじょうで、怒おこっている表情ひょうじょうを見みせるよりも恐おそろしく感かんじた。
ボーマンの無表情むひょうじょうのカット以外いがいにも、無機質むきしつの裏うらに強つよい感情かんじょうが存在そんざいする。一番いちばん印象いんしょうに残のこったのはＨＡＬの暴走ぼうそうシーンだ。ＨＡＬが船員せんいんを突つき放はなすとき、赤あかい光ひかりを映うつす。ポン寄よりでその光ひかりにカメラが寄よっていくだけだが、ＨＡＬの負まけの感情かんじょうが強つよく降ふり注そそぐような気きがした。乱みだれた感情かんじょうを映うつすのであればいろいろと手段しゅだんはあるように思おもう。作業さぎょう船せんのアームを勢いきおいよく振ふり下おろしたりして動的どうてきなカットで演出えんしゅつするのはショッキングなシーンの常套じょうとう手段しゅだんだ。本ほん作さくではただＨＡＬの象徴しょうちょうのように赤あかく光ひかるランプだけを映うつす。それだけなのにその裏うらにある憎悪ぞうおが感かんじ取とれるのは、ここまで無機質むきしつな画面がめんに意味いみを積つみ重かさねてきた本ほん作さくだからこそ、繊細せんさいに感かんじ取とれるのだと思おもう。

ラストシーンではボーマンが自みずからの肉体にくたいから解放かいほうされ、イメージのような赤子あかごの姿すがたで地球ちきゅうを見みつめる。人間にんげんの進化しんかや宇宙うちゅうにいる未知みちの生命せいめい体たい、というようなＳＦ要素ようそを強つよく感かんじるラストだ。ただ、個人こじん的てきには無機質むきしつであれど、肉体にくたいから離はなれるのであれど、核かくにあるのは精神せいしんなのだというキューブリックの情感じょうかんに溢あふれたラストだと感かんじた。

〇カメラワークとか
・無む重力じゅうりょくを演出えんしゅつするシーンは確たしかに凄すごいんだけど、すごいのを見みせつけられてる感かんが強つよい。カメラワークのカラクリみたいなのは動画どうがサイトで飽和ほうわしてしまっているからか、２０２４年ねんに見みると１カットが長ながすぎる気きがした。これはそういうのに慣なれてしまっている自分じぶんがなんとなく悪わるい気きがする。

・月面げつめんに着陸ちゃくりくする宇宙船うちゅうせんのカットはすごかった。直線ちょくせん的てきな影かげ、宇宙うちゅうの黒くろと宇宙船うちゅうせんの白しろのコントラスト、吸すい込こむように開ひらく月面げつめん基地きちの大おおきな入いり口くち。ＢＧＭも使つかわずにあそこまで息いきを呑のむ画面がめんを作つくれるのが凄すごい。

・異い次元じげんを表現ひょうげんするイメージ演出えんしゅつもどっちが上うえか下したか、そもそも上うわや下かの概念がいねんがあるのかわからなくなるような感覚かんかくが良よかった。良よかったけど後半こうはんに色いろだけ変かえた陸地りくちのカットがあって、そこは元もとがなんなのかわかりやすくて気持きもちが下さがった。

〇その他た
・原始げんし的てきなサルの世界せかいから始はじまるのはタイトルから全まったく想像そうぞうができなくて面白おもしろかった。不安ふあんとか怒いかりをそのまま表情ひょうじょうに出だしている姿すがたは中盤ちゅうばん以降いこうの無機質むきしつさと対比的たいひてきでもあった。

・サルが骨ほねを使つかってマンモス（？）の頭蓋骨ずがいこつをたたき割わるカットも印象いんしょう的てき。原始げんし的てきな世界せかいからの脱却だっきゃくを表あらわす演出えんしゅつ。
・終盤しゅうばんで異い次元じげんを見みるボーマンの表情ひょうじょうは少すこし『恐怖きょうふと欲望よくぼう』で発狂はっきょうする新米しんまい兵士へいしっぽい感かんじがした。キューブリックは狂くるった表情ひょうじょうを作つくらせるのが巧たくみいなあと思おもう。異常いじょうであることはすぐに気き付つけるけど、やりすぎと感かんじる一いち歩ほ手前てまえ、みたいな表情ひょうじょう。

この作品さくひんが1968年ねんにつくられたのが驚おどろき。
宇宙船うちゅうせんとかリアルでめちゃくちゃすごい。

ただ最初さいしょのゴリラは人間にんげんだし、砂漠さばくにいるならあんなに毛深けぶかくはないだろう。あと宇宙船うちゅうせん内ないのシーンでは、無む重力じゅうりょくであるべきなんだけど、普通ふつうに歩あるいているし、逆ぎゃくに無む重力じゅうりょくを表現ひょうげんするような歩あるき方かたが馬鹿ばかっぽくてちょっと集中しゅうちゅうできなかった。
これは制作せいさく年ねんにおける映像えいぞう表現ひょうげんの限界げんかいであるし、そこを批判ひはんしてもどうにもならないのだが。

最後さいごボーマンが幼児ようじになるのは、ニーチェの「超人ちょうじん＝幼児ようじ」を表現ひょうげんしているのだろう。「幼児ようじは無垢むくであり、忘却ぼうきゃくである。新あらたな開始かいしであり、遊戯ゆうぎである。自分じぶん自身じしんで回転かいてんする車輪しゃりん、始原しげんの運動うんどう、聖せいなる肯定こうてい」（ニーチェ1973、39）

なにはともあれSF映画えいがの古典こてんだろうし、みれてよかった。