ニュー・シネマ・パラダイス

○作品さくひん全体ぜんたい
定番ていばん名作めいさく映画えいがの一ひとつ、というスタンスで見み始はじめたけれど、猛烈もうれつに良よかった。名作めいさく映画えいがといえど当然とうぜん自身じしんに刺ささるものと刺ささらないものがある。『ニューシネマパラダイス』は猛烈もうれつに刺ささった。

一番いちばん刺ささった要素ようそは時間じかんの扱あつかい方かたと郷愁きょうしゅうに対たいする感情かんじょうの扱あつかい方かただった。

物語ものがたり前半ぜんはん、約やく2時じ間あいだあるうちのちょうど1時じ間あいだ分ぶんは旧きゅう映画えいが館かんでのトトとアルフレッドの出会であいの物語ものがたりだ。シーンの大半たいはんを映写えいしゃ室しつに使つかうことになるが、ここで強調きょうちょうされるのは時間じかんの滞留たいりゅう。トトは家族かぞく、学校がっこう、映画えいが館かんとさまざまなコミュニティがあり、目めまぐるしく走はしり回まわっているがアルフレッドにあるのは映写えいしゃ室しつと映写えいしゃの仕事しごとだけで、映写えいしゃして神父しんぷからカット部分ぶぶんを指示しじされることを繰くり返かえしている。トトとアルフレッド、二人ふたりの対比的たいひてきな存在そんざいが、多おおくの時間じかんを費ついやしている映写えいしゃ室しつの時間じかんの滞留たいりゅうを強調きょうちょうする。
アルフレッドの存在そんざい自体じたいも「滞留たいりゅう」そのもの。自身じしんが望のぞんで映写えいしゃ技師ぎしをしているわけではなく自分じぶんしかいなかったというネガティブな成なり立たちや、子供こどもがいないこと、そして初等しょとう教育きょういくをキチンと受うけていないこと等ひとし、アルフレッドの人生じんせいに進展しんてんがなく、留とどまった存在そんざいであるという要素ようそを多おおく持もっている。映写えいしゃ技師ぎしという仕事しごと自体じたいも、同おなじ映画えいがを何なん十じゅう回かいも回まわしては巻まき戻もどす。これも滞留たいりゅうを演出えんしゅつする一ひとつだ。
ただ、この時期じきのトトからすれば映写えいしゃ室しつでの出来事できごとは真新まあたらしさの塊かたまりだ。だからこそ将来しょうらい的てきに濃こい思おもい出でとして郷愁きょうしゅうの一いちページに残のこるのだが、それは未来みらいのトトにとっては「あのときの映写えいしゃ室しつ」に滞留たいりゅうすることを表あらわす。それを端的たんてきに、そして辛辣しんらつに言葉ことばにすると、「郷愁きょうしゅうに騙だまされるな。ここにはなにもない」というアルフレッドのセリフになるのだろう。
停滞ていたいの無力むりょくさを映写えいしゃ室しつで長ながく過すごしてきたアルフレッドは身みを持もって実感じっかんしている。だからこそ出でてきた言葉ことばであり、この言葉ことばに説得せっとく力りょくが生うまれるのは前半ぜんはん1時じ間あいだを映写えいしゃ室しつという滞留たいりゅうの時間じかんに注そそいだからこそ。この時間じかんの使つかい方かたが後半こうはんの物語ものがたりに効きいてくる。

物語ものがたり後半こうはんは滞留たいりゅうした空間くうかんから長ながく離はなれていたトトに、長ながく離はなれていた分ぶんだけの郷愁きょうしゅうが凝縮ぎょうしゅくされてやってくる。その凝縮ぎょうしゅくの密度みつどは、上述じょうじゅつした前半ぜんはん1時じ間あいだ分ぶんの密度みつどだ。トトと同様どうよう、村むらの人々ひとびとやジャン・カルロ村むら自体じたいの変貌へんぼうを浴あびせられる感覚かんかく。自分じぶん自身じしんが一気いっきに年としをとったような感覚かんかくがして震ふるえた。

そしてなにより、郷愁きょうしゅうを一気いっきに浴あびさせられたのはアルフレッドからの最後さいごの贈おくり物ものだ。
あの切きり取とられたキスシーンフィルムは、単たんなるキスシーンを切きって貼ばり合あわせたフィルムではない。トトにとってはアルフレッドと神父しんぷが居いて、それを覗のぞき見みする幼おさなきトトがいたあの日ひを、まるでその場ばに戻もどったかのように思おもい返かえすことのできる郷愁きょうしゅうが凝縮ぎょうしゅくされたフィルムでもあり、幼おさない頃ころ見みることができなった未知みちなるフィルムだ。このフィルムからアルフレッドの「どうかあの日ひを覚おぼえていてほしい」という郷愁きょうしゅうを望のぞむ感情かんじょうと、未いまだ未知みちなる世界せかいに進すすみ続つづけることを望のぞむ「郷愁きょうしゅうに騙だまされるな」というアルフレッドの感情かんじょう…そのアンビバレントな感情かんじょうが勢いきおいよく溢あふれ続つづけているように感かんじて、息いきを呑のんだ。トトの涙なみだはこうしたアルフレッドのメッセージをフィルムから受うけ取とったからではないか、と思おもう。
あの日ひの時間じかんを思おもい返かえしながら揺蕩たゆたっていたトトを一気いっきにあの日ひへ戻もどす物語ものがたり後半こうはんの時間じかんの緩急かんきゅうが
本当ほんとうに素晴すばらしかった。

映画えいが自体じたいもいろんな映像えいぞうを切きって貼はって作つくられるもの。ただ、その繋つなげ方かたや、その映画えいが自体じたいに寄より添そう思おもい出でによって映画えいがは一人ひとりひとりに違ちがう感情かんじょうを与あたえてくれたり、思おもい出ださせてくれる。
『ニュー・シネマ・パラダイス』。自分じぶんにとってたくさんある知しらない名作めいさくの一ひとつから、映画えいがが好すきな理由りゆうを明白めいはくにさせてくれるとても大事だいじな作品さくひんになった。

○カメラワーク
・なんといっても母ははとの再会さいかいのシーン。トトの帰宅きたくに気きづいた母ははが編あみ物ものをそのままに玄関げんかんへ急いそぐ。どんどんとほつれていく毛糸けいと、そしてそれが止とまる。そのままカメラを窓まどへ向むけて、タクシーが去さっていくのを見みせたあとに、二人ふたりが抱だき合あう姿すがたを見みせる。二人ふたりは会あえたのだろう、と思おもえるモチーフを手前てまえに据すえて、再会さいかいのカットを演出えんしゅつする。
俳優はいゆうの渾身こんしんの芝居しばいへカメラを向むけるだけ…というカメラワークも良よいけれど、表情ひょうじょうを映うつさずに二に人にんの再会さいかいの万感ばんかんの思おもいを演出えんしゅつするこのカットこそ、映像えいぞう演出えんしゅつだと思おもうし、映画えいがだと思おもう。

○その他た
・アルフレッドの葬儀そうぎで神父しんぷと話はなしをするときに、あんなに立派りっぱになって…とつぶやく神父しんぷが猛烈もうれつに良よい。これは「でもぜひ（気安きやすく声こえをかけて良よい）というのなら、トト」と、話はなしたあとのセリフなんだけど、最後さいごに「トト」と呼よぶのを大切たいせつそうにつぶやいて上述じょうじゅつのセリフに繋つながるのが、最高さいこうに良よい。映画えいが館かんの思おもい出でがトトやアルフレッドだけではない、というのがこのつぶやき方かたですべて理解りかいしたような気持きもちにさせてくれる。
正直しょうじきこのシーンが一番いちばん泣なける。

今いままで実写じっしゃ映画えいがのソフトを買かったことがないのだけど、完全かんぜん版ばんが見みたいから買かう予定よてい。あぁ、良よい映画えいがに出会であえたな・・・。