異い邦人ほうじん

サラリーマン風ふうの夏なつの背広せびろを来きたマストロヤンニは立たち居振いふる舞まいが限かぎりなく美うつくしいくセクシーだ。タバコをくわえる角度かくど、脚あしの開ひらき方かた。こんなにハンサムな男おとこだったんだ。

まず思おもったのはマストロヤンニってこんなに美うつくしかったのかということ。
自分じぶんの裁判さいばんだというのにある種しゅ他人事たにんごとのような視線しせんで見みているムルソーの姿すがたが印象いんしょう的てき。なぜ殺ころしたのかと聞きかれても太陽たいようのせいだというのみで、言葉ことばも少すくない。

神かみを信しんじないというだけで普通ふつうではないとみなされるような時代じだい。
母ははの死しに涙なみだを流ながさなかったり、葬儀そうぎ翌日よくじつに恋人こいびとと喜劇きげき映画えいがを観かんに行いくということが普通ふつうではないとみなされるのは今いまの時代じだいと変かわらないかもしれない。

いつ死刑しけいが執行しっこうされるか分わからない、その状況じょうきょうで彼かれはどんな境地きょうちに至いたったのか。最後さいごの神父しんぷとの対話たいわはよく分わからなかった。

一見いっけん普通ふつうに生いきているけれど
（本人ほんにんにとっては一見いっけんも糞くそも正真正銘しょうしんしょうめいふつうなのだけれど）どこかで一般いっぱんピープルとずれている…。

そういう人間にんげんを演えんじるのって凄すごく難むずかしいと思おもうけれど、この映画えいがではとても上手うまく演えんじられていて、絶妙ぜつみょうなものを観みることができた、という満足まんぞく感かんがあった。

刑務所けいむしょでのムルソーが、恋人こいびとと面会めんかいする場面ばめんあたりに、テーマは集約しゅうやくされていくと思おもう。
この肌はだ感かんの違ちがい。感覚かんかくの違ちがい。
感かんじろと言いわれても、感かんじないものは感かんじないのだ。
個性こせいの差さといってしまえばそれまでの、生いきている世界せかいに対たいする感性かんせいの違ちがいといった絶妙ぜつみょうなものを、具体ぐたい的てきに映像えいぞうで見みせてくれたのは面白おもしろかった。

アルジェリアの話はなしなのですね。
ぼうっとして観みてたので、アラブ圏けんの話はなしなのか、イタリアの話はなしなのか、どこが舞台ぶたいになっているのか最後さいごまでよくわかっていませんでした（原作げんさくも読よんでいないので）。スミマセン。

それにしても、アルジェリアってイタリア人じんがあんなに住すんでいたんですか？
いやいや、ちょっと調しらべたらアルジェリアはフランス領りょうだったというじゃないですか。カミュもフランス人じんだし。
これって、フランス人じんの話はなしをイタリア人じんに置おきかえて撮とったようですね。ややこし。

さて、ルキノ・ヴィスコンティ監督かんとく『異邦いほう人じん』。

主人公しゅじんこうムルソーは、どこか虚無きょむ的てきでありながら、美うつくしい恋人こいびとや友人ゆうじんたちと人生じんせいを享楽きょうらくするが、やがてそこに不穏ふおんな空気くうきが漂ただよいはじめ……。

シンプルなストーリーですが、テンポがあり、興味深きょうみぶかく鑑賞かんしょうできました。

最近さいきんの映画えいがではあまり用もちいられないような唐突とうとつなクローズアップを多用たようする撮とり方かたにも、観みているうちにすぐに慣なれました。

作中さくちゅう、象徴しょうちょう的てきに「汗あせ」が映うつし出だされますが、これが本ほん作さくのキーポイントになっていると思おもいます。

それから、終盤しゅうばんの法廷ほうていや監獄かんごくのシーンでは、「神かみ」がわりと重要じゅうようなポイントになってくると思おもうのですが、そのあたりのやりとりがちょっとわかりにくかった（ぼうっと観みていたからでしょうか）。

そんなわけで、（西洋せいよう的てきな）「神かみ」に対たいして馴染なじみのうすい我々われわれ日本人にっぽんじんには、本ほん作さくが描えがこうとするものを完全かんぜんに読よみ解とくのはなかなかむずかしいのではないか、この映画えいがは、キリスト教きょう圏けんの人々ひとびとと、そうでない人々ひとびとが観みるのとでは、その印象いんしょうがかなり異ことなるのではないか、などという感想かんそうも抱いだきました。
機会きかいがあれば、もう一度いちど鑑賞かんしょうして、そのへんのことを注意深ちゅういぶかく検証けんしょうしたいと思おもいます。

あと、本ほん作さくは「不条理ふじょうり」がテーマになっているようですが、それもあまりピンとこなかった。
昨今さっこんの日本にっぽんにおける様々さまざまな事象じしょうのほうがよほど不条理ふじょうりかと……。

タイトルの意味いみするところを確認かくにんするためにも、ぜひ原作げんさくも読よみたいです。