ハート・ロッカー : インタビュー

本年度ほんねんどのアカデミー賞しょうで9部門ぶもんにノミネートされている話題わだい作さく「ハート・ロッカー」が、今週こんしゅう末まつついに日本にっぽん公開こうかいを迎むかえる。現在げんざいも進行しんこう中ちゅうのイラク戦争せんそう下かのバグダッドを舞台ぶたいに、爆発ばくはつ物ぶつ処理しょりに従事じゅうじする特殊とくしゅ部隊ぶたいEODの活躍かつやくをサスペンスフルに描えがいた本ほん作さくについて、「K-19」以来いらい7年ねんぶりにメガホンをとり、来きたる第だい82回かいアカデミー賞しょうでも監督かんとく賞しょうの最さい有力ゆうりょくと目めされているキャスリン・ビグロー監督かんとくに話はなしを聞きいた。（取材しゅざい・文ぶん：中島なかじま由紀子ゆきこ）

キャスリン・ビグロー監督かんとくインタビュー
「監督かんとくとして自分じぶんに出来できることは、戦争せんそうの一部いちぶを見みる人ひとに体感たいかんしてもらうこと」

──このストーリーに惹ひかれた理由りゆうを教おしえて下ください。

「前線ぜんせんのEOD（爆ばく弾だん処理しょり班はん）に従軍じゅうぐんしたマーク・ボール（脚本きゃくほん）がEいーメールをくれたことから始はじまったの。彼かれからのメールを読よんでいて、知しらない世界せかいの中なかに引ひき込こまれて行いったわ。こんなに危険きけんな仕事しごとに毎日まいにち毎日まいにち携たずさわるってどういう事ことなんだろう？　世界せかいでもっとも危険きけんな仕事しごと？　それを自みずから選えらぶ人ひとってどんな人ひと？……どんどん好奇心こうきしんが膨ふくらんでいったわ。

イラク戦争せんそうはいろいろな形かたちで使つかわれている爆ばく弾だんに振ふり回まわされてるのが特徴とくちょうのひとつでしょう？　マークも『これはまだ報道ほうどうされてない、普通ふつうには知しられていない仕事しごとで、こんなふうに戦争せんそうに関かかわっている人ひともいるということを世間せけんに知しらせたいという気持きもちがどんどん強つよくなっていった』と言いってるわ。それでもまだ私わたしには掴つかみようのない抽象ちゅうしょう的てきな世界せかいに見みえてたけど、マークがその気きになったらすごい映画えいがになる可能かのう性せいがあると感かんじて、映画えいが化かへの思おもいも増ましていったの。マークが帰かえってきて即刻そっこく映画えいが化かの可能かのう性せいを話はなし合あったわ」

──時間じかん的てきにはどれくらいかかったんですか？

「マークとの話はなし合あいがスタートしたのが2005年ねんだから4、5年ねんはかけたということね。映画えいが作づくりというのは長ながい時間じかんがかかるコミットメントだから、選えらんだストーリーを信しんじてまっしぐらに進すすむ気持きもちがないとできないことなの。一旦いったん始はじめたら後のちには引ひけない。製作せいさく費ひは簡単かんたんに集あつまると確信かくしんしてたわ。低てい予算よさんのほうが口出くちだしが少すくないからやりやすいの。あまり多おおい予算よさんは望のぞんでないし」

──監督かんとくが女おんなだから男おとこだからという見方みかたはもう古ふる過すぎますが、女おんなの感性かんせいというものが細こまかい選択せんたくに当然とうぜん顔がおを出だすと思おもいます。

「監督かんとくの判断はんだんや決定けっていにはその人ひとの人生じんせい体験たいけんが当然とうぜんもの差さしになる訳わけだから、私わたしが決きめたことには女おんなの感性かんせいが動うごいているでしょうね。ただしそれは意識いしき的てきなものではなくて無意識むいしきの中なかで自分じぶんの女おんなとしての人生じんせい体験たいけんの色合いろあいが出でるということだと思おもうわ。つまりキャスリン・ビグローの色合いろあいが出でるということでしょう」

──一般いっぱん的てきに男おとこと女おんなの戦争せんそうに対たいする反応はんのうは違ちがうと思おもいます。あなた自身じしんと戦争せんそうとの関係かんけいは？

「確たしかに男おとこと戦争せんそうの関係かんけいと女おんなと戦争せんそうの関係かんけいは違ちがうと思おもう。でも、サバイバルということでは男女だんじょの性別せいべつはないと思おもうのね。サバイバルは人間にんげんの基本きほん的てきな本能ほんのうで、誰だれもが生いき残のこるにはどうするべきかという触覚しょっかくみたいなものを持もってるはず。戦争せんそうをサバイバルするって本当ほんとうに大変たいへんなことでしょう？　アメリカ人じんとして戦争せんそうというものに心しんを痛いためているわ。すごく複雑ふくざつで奥深おくふかいものだから、良よい悪わるい、白しろか黒くろか、みたいな簡単かんたんな結論けつろんを出だせないわね。

でも、『戦争せんそうによって信しんじられないほど人間にんげんの命いのちが犠牲ぎせいになっている』という部分ぶぶんは皆みながきちんと直視ちょくしするべきだと思おもうの。その部分ぶぶんは映画えいがのなかで手抜てぬきをしないではっきり描えがかなくてはならないと思おもっていたわ。フィルムメーカーとして自分じぶんにできることは、判断はんだんを下くだすことで、自分じぶんの意見いけんを押おし付つけることではなく、無数むすうの人間にんげんの命いのちを犠牲ぎせいにしている終おわりの見みえない戦争せんそうの一部いちぶを見みる人ひとに体感たいかんしてもらうということなの。結果けっか、それぞれが自分じぶんなりの意見いけんを見みつけてくれば、それでいいのよ」

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