四川しせんのうた

420工場こうじょうを通つうじて中国ちゅうごくの近代きんだい化かに伴ともなう、郷愁きょうしゅう、憂うれい、他た、基本きほん的てきに過去かこを振ふり返かえる。

淡々たんたんと働はたらく人ひとのエピソードが流ながれ、合間あいま工場こうじょうの映像えいぞう、懐なつかしい歌謡かよう曲きょくが流ながれ、終盤しゅうばんに唯一ゆいいつ女性じょせいが想おもいを吐露とろするが、、そこが問題もんだい。

評価ひょうかは不能ふのう。
なぜならエピソードに登場とうじょうする人ひとは本人ほんにんではなく、タレントのよう。であれば、都合つごうのよい魅みせ方かたとなる。ではそちらに振ふったストーリーから何なにを感かんじるか、というとこれも、この監督かんとくありありの自己じこ満足まんぞくのもの。更さらに、唯一ゆいいつラストが示唆しさ的てきなものであれば、その場所ばしょに帰かえる事ことが喜よろこぶべきもの？

もしかして、とある層そうの中国人ちゅうごくじんにとっては価値かちある映像えいぞうかも知しれない。
しかし、日本人にっぽんじん、特とくに中国ちゅうごく好すきではない人ひとがみると切きり取とりのエピソードに感かんじるものがあるかないか、だけである。

あえて、カタルシスを言いうと、たまには故郷こきょうに帰かえろう、か。
高度こうど経済けいざい成長せいちょうの日本にっぽんと重かさねる事ことができる高齢こうれいの方ほうは懐なつかしさはあるかも知しれない。

　ジャ・ジャンクー監督かんとくは前作ぜんさく「長江ちょうこう哀歌あいか」で、中国ちゅうごくの現実げんじつを映うつし出だして見みせた。そして、今回こんかいの作品さくひんでは、中国ちゅうごくの過去かこを照てらし出だして見みせている。

　この作品さくひんの中なかで、ジャ・ジャンクー監督かんとくはインタビュー相手あいての出演しゅつえん者しゃが登場とうじょうするシークエンスの中なかで、時間じかんをインタビュー時点じてんでの現在げんざいから過去かこ、そしてまた現在げんざい、そして未来みらいへと移動いどうさせるという、テオ・アンゲロブロス監督かんとくのような演出えんしゅつ手法しゅほうを見みせている。そんな、手ての込こんだ演出えんしゅつにした理由りゆうは、最初さいしょはドキュメンタリーで撮とっていたのが、途中とちゅうからインタビューする相手あいての元もと工員こういんをプロの役者やくしゃに変かえて、あえて映画えいが的てきな演出えんしゅつをほどこしたから、のようだ。しかし、その突貫とっかん工事こうじ的てきな演出えんしゅつが逆ぎゃくに効果こうか的てきに観みられたところが、この作品さくひんの面白おもしろい点てんだと思おもう。
　プロの役者やくしゃを起用きようした効果こうかが特とくに現あらわれているところは、ジョアン・チェンの登場とうじょうシーンだ。工場こうじょうが隆盛りゅうせいを極きわめたころに、若わかい頃ころの自分じぶんが工場こうじょうのマドンナ的てき存在そんざいだったことから話はなしはじめるジョアン・チェンは、現在げんざいの妖艶ようえんな姿すがたが過去かこの面影おもかげをしのばせていて、観客かんきゃくにはチェンの話はなしをリアリティーたっぷりにき耳きみみをたてられる。もし、本物ほんものの女性じょせいだったとしたら、申もうし訳わけないが過去かこの面影おもかげを感かんじられないくらいに皺しわや肌はだつやに年齢ねんれいの積つみ重かさねを見みせていて、観客かんきゃくはちょっと幻滅げんめつを感かんじたかもしれない。
　また、最後さいごに登場とうじょうする工員こういんの娘むすめ役やくの若わかい女優じょゆうが、母ははのことを話はなしながら涙なみだぐんだり、絶対ぜったいに親孝行おやこうこうをするとの堅かたい決心けっしんを、鋭するどい眼差まなざしで話はなすシーンは、素人しろうとにはできない、迫力はくりょくを感かんじる。昨今さっこん、プロの役者やくしゃを信用しんようせず、素人しろうとを使つかう監督かんとくが増ふえている中なかで、あえてプロの役者やくしゃの力量りきりょうにかけたジャ・ジャンクーの決断けつだんは見事みごと、というほかはないと思おもう。

　現在げんざいから過去かこ、過去かこから現在げんざいと時間じかんが流ながれ行ゆく中なかで、信しんじてきたものが崩くずれていくはかなさが切々せつせつと語かたられるこの作品さくひんでは、国家こっかの成長せいちょうだけを目指めざしていた文革ぶんかく時代じだいから現在げんざいまでの中国ちゅうごくの庶民しょみんの歴史れきしが描えがかれている。が、私わたしは観賞かんしょう中ちゅう、この作品さくひんは中国ちゅうごくではなく、過去かこの日本にっぽんを描えがいているように見みえて仕方しかたがなかった。確たしかに、巨大きょだい軍需ぐんじゅ工場こうじょうなど過去かこの遺物いぶつかもしれない。しかし、この工場こうじょうの存在そんざいと汗水あせみず流ながして懸命けんめいに働はたらいていた人々ひとびとによって、今いまの隆盛りゅうせいする中国ちゅうごく経済けいざいの根幹こんかんが造つくりだされた。そう思おもうと、成都せいとの遺物いぶつは日本にっぽんの過去かこに見みえてくるのだ。
　私わたしは、この作品さくひんに登場とうじょうした巨大きょだい工場こうじょうが、最近さいきん一般いっぱんに公開こうかいされた、長崎ながさきの軍艦ぐんかん島とうに思おもえてならなかった。軍艦ぐんかん島とうは過去かこの遺物いぶつかもしれないが、ここでとれた石炭せきたんのおかげで、高度こうど経済けいざい成長せいちょうの源みなもとが造つくりだせた、といっても過言かごんではないたと思おもう。日本にっぽんは昨今さっこん、過去かこをファッションのようにとりあげる傾向けいこうがあるが、過去かこを見みつめなおそうとか、過去かこから学まなぼうとする動うごきがまるでない。ジャ・ジャンクーがこの作品さくひんで過去かこから今いまの中国ちゅうごくを見みつめなおそうしたように、日本にっぽんの映画えいが監督かんとくにも、過去かこから学まなび今いまを考かんがえる作品さくひんを製作せいさくする気概きがいをもってほしい、と願ねがうばかりである。