サラの鍵かぎ : 映画えいが評論ひょうろん・批評ひひょう

2011年ねん12月6日にち更新こうしん

2011年ねん12月17日にちより銀座ぎんざテアトルシネマほかにてロードショー

戦禍せんかがもたらす傷痕きずあとを＜記憶きおくと現在げんざい＞の問題もんだいとして描えがいたミステリードラマ

ナチス占領せんりょう下かでのフランス警察けいさつによるユダヤ人じん迫害はくがいの最もっともおぞましき汚点おてんとして語かたられる＜ベルディブ（冬季とうき競輪けいりん場じょう）事件じけん＞は、これまでにも傑作けっさく「パリの灯ひは遠とおく」を始はじめとして幾いく度どか映画えいが化かされている。この作品さくひんがユニークなのは、対たい独どく協力きょうりょく（コラボ）という払拭ふっしょくしがたい歴史れきし的てき大罪だいざいを声高こわだかに告発こくはつするのではなく、両親りょうしんがベルディブから収容しゅうよう所しょへ送おくられ、辛酸しんさんをなめ尽つくした果はてに、究極きゅうきょくのトラウマを背負せおった幼おさない少女しょうじょサラと、ふとした偶然ぐうぜんから、戦後せんごの彼女かのじょの軌跡きせきを探索たんさくするアメリカ人じん女性じょせい記者きしゃジュリアの二ふたつの視点してんが併行へいこうして描えがかれることだ。

映画えいがは上質じょうしつのミステリーのような語かたり口くちで、イノセントな少女しょうじょの瞳ひとみに映えいじた残酷ざんこくで混沌こんとんに満みちた世界せかいと、説明せつめいしがたい孤独こどくと空虚くうきょさを抱かかえるキャリア女性じょせいの日常にちじょうを対比たいひさせ、戦争せんそうという災厄さいやくがもたらす癒いやしがたい傷痕きずあとを＜記憶きおくと現在げんざい＞の問題もんだいとして浮うかび上のぼらせる。「真実しんじつを知しるには代償だいしょうがいるのよ」と口くちにするジュリアは、サラの数奇すうきな生涯しょうがいをたどることで周囲しゅういを傷きずつけ、自みずからも深ふかく傷きずつくが、その過程かていにおいて、名状めいじょうしがたい贖罪しょくざい感かんから徐々じょじょに解とき放はなたれるのだ。ラストシーンに漂ただようのはすべてを包つつみこむような＜赦ゆるし＞の感情かんじょうにほかならない。

ジュリア役やくのクリスティン・スコット＝トーマスはベストパフォーマンスをみせるが、1970年代ねんだいアメリカ映画えいがに心酔しんすいするジル・パケ＝ブレネール監督かんとくは、ヒロインの造型ぞうけいには「コールガール」のジェーン・フォンダをイメージしたという。サラ役やくのメリュジーヌ・マヤンスはまさに天才てんさい的てきで、とくに男装だんそうで列車れっしゃに乗のるシーンでの傑出けっしゅつした演技えんぎは忘わすれがたい。

（高崎たかさき俊夫としお）