ホビット　決戦けっせんのゆくえ : 映画えいが評論ひょうろん・批評ひひょう

2014年ねん12月9日にち更新こうしん

2014年ねん12月13日にちより丸まるの内うちピカデリーほかにてロードショー

激はげしい戦たたかいの最中さいちゅうで一筋ひとすじの光ひかりとなる、ビルボの純朴じゅんぼくな魅力みりょく

伝説でんせつが終おわる。壮絶そうぜつ、かつ重厚じゅうこうに。ずんぐりむっくりの13人にんのドワーフたちがホビットの住居じゅうきょに転ころがり込こんで始はじまったこの冒険ぼうけんは、作者さくしゃトールキンが児童じどう文学ぶんがくとして執筆しっぴつしただけあって、よりフィジカルなワクワク感かんに満みちていた。それこそ3D技術ぎじゅつはこの映画えいがにピッタリで、もはや観客かんきゃくを旅たびの仲間なかまとして冒険ぼうけん内部ないぶへいざなってやまない。もちろん最さい終章しゅうしょうでもその見みせ場ばが躍動やくどう感かんたっぷりに続つづいていく。

まずは前作ぜんさくでクリフハンガー的てきに幕まくを閉とじた竜りゅう退治たいじの決着けっちゃくだ。湖みずうみの街まちへ舞まい降おりる竜りゅうを、弓ゆみを手てにしたバルド（ルーク・エバンス）が迎むかえ打うつ。もはやフィナーレにもふさわしい渾身こんしんの対決たいけつ場面ばめんなのだが、これほどの緊張きんちょうと興奮こうふんに満みちた見みせ場ばが、まだほんのオープニングでしかないのだから驚おどろかされる。

そう、本ほん作さくは竜りゅうから奪還だっかんした財宝ざいほうをめぐるドワーフ、エルフ、人間にんげんの駆かけ引ひき、そして闇やみの勢力せいりょくとの「決戦けっせん」がメインとなる。壮観そうかんなまでに辺あたりを埋うめ尽つくした兵士へいしたちがいざ剣けんを振ふるい始はじめると、その迫力はくりょく、映像えいぞう密度みつどたるや尋常じんじょうでないスケールに。さらにこれから60年ねん後ごの「ロード・オブ・ザ・リング」の顛末てんまつを知しる我々われわれとしては、ここで語かたられる何気なにげないセリフがにわかに未来みらいと呼応こおうするのを、まるで予言よげん者しゃにも似にた心境しんきょうで受うけ止とめることになるだろう。

一方いっぽう、壮絶そうぜつな闘たたかいにあって胸むねを打うつのは、かけがえのない素朴そぼくさだったように思おもう。たとえば、ビルボ（マーティン・フリーマン）の持もつごく純朴じゅんぼくな魅力みりょく。最初さいしょは右往左往うおうさおうするばかりだった彼かれが今いまではどうだ。指輪ゆびわの助たすけもあって（まだ副作用ふくさようは出でていないようだ）、真まっ直すぐな眼差まなざしで自分じぶんの役目やくめを全まっとうしようとする。また絶望ぜつぼうの最中さいちゅうにあっても、彼かれがセリフを発はっすると観客かんきゃくの心しんはホッと和やわらぐ。その至福しふく。ガンダルフが口くちにする「わしゃ、あんたのことが好すきだよ」という言葉ことばはきっと観客かんきゃくの心情しんじょうとも相そう通つうじるものだろう。そして彼かれの魅力みりょくの幾いくらかは、次つぎの冒険ぼうけんで確実かくじつに、フロドにも受うけ継つがれている。

得えたものも失うしなったものも計はかり知しれない冒険ぼうけんだった。だがひとたび目めを閉とじると、あの穏おだやかなテーマ曲きょく、牧歌ぼっか的てきな風景ふうけいが浮うかんでくる。全ぜん6作さく、足掛あしかけ13年ねんに及およぶ長ながい長ながい旅たびを終おえて、あなたは今いま、劇場げきじょうの座席ざせきで何なにを想おもうだろうか。

（牛津うしづ厚あつし信しん）