嘆なげきの王冠おうかん　ホロウ・クラウン　ヘンリー五ご世せい

ホロウ・クラウンシリーズの第だい４作さく目め、監督かんとくが変更へんこうされてまた悪わるい癖くせがぶりかえした。
ヘンリー五ご世せいは前まえ２作さくとして共通きょうつうしてそのままトム・ヒドルストンが演えんじているものの、弟おとうとたちは登場とうじょうさせるのをやめ、ヘンリー５世せいの従兄弟いとこに当あたるヨーク公こうを黒人こくじん俳優はいゆうパターソン・ジョセフが演えんじている。他たに黒人こくじん俳優はいゆうが一切いっさい出演しゅつえんしないので余計よけいに悪あく目立めだちする結果けっかになっている。
監督かんとくはテア・シェアイック、前作ぜんさくの『世界一せかいいちキライなあなたに』はひどく後味あとあじの悪わるい終おわり方かたであった。
元々もともと原作げんさくのある作品さくひんを映画えいが化かしているから仕方しかたのないことだが、今回こんかいもヘンリー五ご世せいが赤痢せきりにかかって急死きゅうしした後のち、最後さいごに説明せつめい役やくが動乱どうらんの次世代じせだいを予告よこくして物語ものがたりは幕まくを閉とじる。
これもシェイクスピアの原作げんさく通どおりなのだが、偶然ぐうぜん両りょう作品さくひんともに同おなじくバッドエンドで終おわる。

前ぜん２作さくで大だい活躍かつやくしたフォルスタッフは本ほん作さくで一言ひとこともしゃべることなくワンカットだけ登場とうじょうした後のちにあっけなく病死びょうしし、同おなじく悪友あくゆうのバードルフも本ほん篇へん中盤ちゅうばんで絞首刑こうしゅけいにされてしまう。
作品さくひんに精気せいきを与あたえていた面々めんめんの活躍かつやくは完全かんぜんになくなってしまう。
シェイクスピアの原作げんさくではフォルスタッフたち一味いちみに替かわる部分ぶぶんとして３人にんの騎士きしの会話かいわが用意よういされている。
筆者ひっしゃの読よんだ本ほんでは薩摩さつま弁べんや東北とうほく弁べんで話はなしている。スコットランドなどの地方ちほう出身しゅっしんということでわざとなまらせて訳やくしているようだ。
また敵てき方かたであるフランスの王おう太子たいしと軍ぐん司令しれい官かんの間あいだでも露骨ろこつな下しもネタのやり取とりをさせている。
しかし前ぜん２作さくに替かわるこれらの場面ばめんはほぼ全面ぜんめん削除さくじょされ、３人にんの騎士きしに至いたってはフルーエレンという名前なまえの騎士きし１人にんしか登場とうじょうしない。
その変かわり戦闘せんとうシーンへの力ちからの入いれようは半端はんぱではなく、原作げんさくには全まったく描えがかれない史実しじつの戦闘せんとうで起おきた戦術せんじゅつまで用もちいている。
アジャンクールの戦たたかいにおいてヘンリー五ご世せい率ひきいるイギリス軍ぐんは地面じめんに杭くいを撃うち込こませてフランス騎兵きへいを防ふせぎ後うしろに弓ゆみ隊たいを配置はいちして矢やを射いかけさせた。
これがそのまま本ほん作さくでも描えがかれている。
また前述ぜんじゅつした黒人こくじんが演えんじるヨーク公こうも原作げんさくではそもそもそれほど重要じゅうような役やくではなく死しんだ描写びょうしゃもなければその死しはヘンリーに言葉ことばで伝つたえられるだけだが、本ほん作さくではしっかりと死しぬまでの過程かていが用意よういされている。
アジャンクールの戦たたかいでヘンリーが自軍じぐんに３倍ばい以上いじょうの敵てきを破やぶったことは歴史れきし的てき事実じじつであるから、二に次じ大戦たいせん中ちゅうに戦意せんい高揚こうようの国策こくさくに適かなっていたこともあり繰くり返かえし上演じょうえんされ、映画えいが化かもされたようだ。
その際さい、本ほん作さくの冒頭ぼうとうでは削除さくじょされることはなかったが、カンタベリー大司教だいしきょうとイーリー司教しきょうがまるで自分じぶんたちへの増税ぞうぜいを回避かいひさせるかのように陰謀いんぼうによってヘンリーにフランス進撃しんげきを促うながしたと取とられかねない場面ばめんは削除さくじょしたようだ。
たしかに筆者ひっしゃにもフランス進撃しんげきは司教しきょう２人にんの陰謀いんぼうのように感かんじられたし、シェイクスピアの原作げんさくもそれを匂におわせている節ふしはある。
また本ほん作さくでも戦時せんじ中ちゅうの公演こうえんでも両方りょうほうで削除さくじょされた場面ばめんとしては裏切うらぎり者ものの罪つみを暴あばいて処刑しょけいを宣告せんこくした場面ばめんなどがある。

さすがに本ほん作さくを監督かんとくしたシェアイックは元もとからフィクション映画えいがの監督かんとくなので、アップの多用たようは少すくなかったし、会話かいわの場面ばめんを削けずって戦闘せんとうシーンを膨ふくらませるなど映画えいがとしては妥当だとうな作つくりにしている。
シェイクスピアの原作げんさくにおいて王族おうぞくや貴族きぞくの会話かいわは定型ていけい文ぶんであることも影響えいきょうしてかあまり活力かつりょくを感かんじない。
しかし前ぜん術じゅつした３人にんの騎士きしたちの会話かいわやヘンリーが一般いっぱん兵へいに紛まぎれて兵士へいしたちといいやヘンリーとフランス王女おうじょとの恋こいのやり取とりなどの場面ばめんは散文さんぶんでもあり活いき活いきしている。
原作げんさくのある場合ばあい、何なにを活いかして何なにを削けずるかは大変たいへん難むずかしい。
今いままでのホロウ・クラウンシリーズ前まえ３作さくでも映画えいが化かに際さいして原作げんさくの場面ばめんの削除さくじょや入いれ替かえは結構けっこう行おこなわれている。
前ぜん３作さくの監督かんとくが元々もともと舞台ぶたい監督かんとくだったことに比くらべると本ほん作さくは大分おおいた映画えいがらしいとも言いえる。
ただ言いえるのは、このように原作げんさくと映画えいがでどこがどのように変更へんこうされているのか見みて行いくのはやはり興味深きょうみぶかいということである。
原作げんさくファンが映画えいが化かに際さいして失望しつぼうするケースは往々おうおうにしてあるが、考かんがえ方かたによっては両者りょうしゃの比較ひかくができる分ぶんある意味いみ楽たのしめているのではないだろうか。

「リチャード2世せい」「ヘンリー４世せい　一部いちぶ、二に部ぶ」を見みたあと、トークイベント付づけの「リチャード３世せい」を先さきに見みて、そして「ヘンリー5世せい」を見みました。
この順番じゅんばんで見みたことで、びっくりな発見はっけんがありました。「ハルとリチャードが、女おんなを口説くどくシーンが、まるきりソックリだ」ってこと。
いやそりゃ、同おなじシェイクスピアが書かいてるんだから…、って、そういう話はなしじゃなくてさ。

フランス軍ぐん相手あいてに大だい勝利しょうりしたヘンリー5世せい王おうが、フランス王位おういを手てに入いれるために、フランス王女おうじょの愛あいを得えようと口説くどくシーン。美男びなん美女びじょのとってもいいシーンなんだけどさ。見みてるうちに、どんどん、「これ、おんなじシーンを最近さいきん見みたぞ。てゆうか昨日きのう！」って気分きぶんになってくる。
そうだよ、リチャードがアンを口説くどく、自分じぶんが殺ころした男おとこの妻つまだった女おんなを口説くどき落おとしてしまう⁉、あの名めい場面ばめん。
そっくりだ。
片かたや英国えいこく史上しじょう最悪さいあくの王おう、片かたや英国えいこく史上しじょう最高さいこうの英雄えいゆう。リチャードはクセ者しゃ顔がお、最高さいこう!"なカンバーバッジ、ヘンリーは超ちょう色男いろおとこトム・ヒドルストン。なのに、「やってることは全まったく同おなじ」。

このヘンリー5世せい王おうは、いくらいい男おとこでもさ、フランス人じんを大量たいりょうに殺ころして、ここに乗のり込こんで来きたんだよ、それ、フランス王女おうじょとしては、どうなの？ そいつの甘あまい言葉ことばに易々いいと乗のっていいの？
そして、このトムヒは、どう見みても「本気ほんきで愛あいなんか信しんじてない」。野心やしんが前面ぜんめんに出でてるのが、わかんないかなあ、この王女おうじょさま。
シェイクスピアって、基本きほん的てきにミソジニーだよね。「尼寺あまでらに行いけ！」「弱よわき者しゃ、汝なんじの名なは女おんな」。だいたい、女おんななんて女おんななんて、って言いってる。
だから口説くどき場面ばめんって、本質ほんしつは「騙だまし場面ばめん」に見みえるんだと思おもう。
　そう思おもうと、「ヘンリー四よん世せい　一部いちぶ、二に部ぶ」で見みせていた、ときどきゾッとするほどクールな「残酷ざんこくさ」を見みせる、人生じんせいぜんぶを計算けいさんしてるみたいなトムヒのハル王子おうじの造形ぞうけいが、実じつに見事みごとな伏線ふくせんだったなあと思おもえてきました。
　見事みごとですよ、このシリーズ。
　そうだよね、この「歴史れきしシリーズ」のなかで、誰だれ一人ひとり、そんなに能のう天気てんきでいられるはずがない。
　これを作つくったBBCは「EUを離脱りだつした、テロが頻発ひんぱつする、戦争せんそうと直じかに向むき合あってる、現代げんだいの英国えいこくの放送ほうそう局きょくなんだ」ってのを忘わすれちゃいけないんです。