護まもられなかった者ものたちへ

こうした正邪せいじゃを割わり切きれない骨太ほねぶとな人間にんげんドラマをヒットに導みちびけるのは、日本にっぽんでは瀬せ々敬久たかひさ監督かんとくだけになっている。震災しんさいで多おおくの生命せいめいが失うしなわれ、残のこされた者ものたちは懸命けんめいに生いきる。しかし、震災しんさいで生いき残のこれても貧困ひんこんが襲おそいかかる。本ほん作さくは生活せいかつ保護ほごを題材だいざいに、社会しゃかいの理不尽りふじんを描えがく。だれもが精一杯せいいっぱい生いきている。精一杯せいいっぱい生いきているから追おい詰つめられて、最後さいごには疲つかれてしまう。なぜ役所やくしょの人間にんげんは、生活せいかつ保護ほごが必要ひつような人ひとをぞんざいに扱あつかうのか。彼かれらも終おわりの見みえない業務ぎょうむに疲つかれ果はてている。そのツケがどんどん弱よわい人ひとのところに溜たまっていき、悲劇ひげきが見みえないところで起おこっている。
自助じじょ・共助きょうじょ・公おおやけ助すけという言葉ことばがコロナ禍かで使つかわれたが、自助じじょだけでは生いきていけず、震災しんさいのような未曾有みぞうの災害さいがいが起おきれば皆みなが苦くるしいのだから、余裕よゆうを持もって共助きょうじょできる人ひとは限かぎられる。そういう人間にんげんを救すくうのが公おおやけ助すけの役割やくわりなのだが、法律ほうりつ改正かいせいによって公おおやけ助すけで救すくわれる人ひとが少すくなくなってしまった。そのことへの怒いかりがこの映画えいがにはある。
役所やくしょの人間にんげんが、生活せいかつ保護ほご法ほうの改正かいせいの件けんについて長ちょう台詞せりふで「説明せつめい」する。あれは完全かんぜんに説明せつめいゼリフだ。巧者こうしゃの瀬せ々監督かんとくも脚本きゃくほんの林りんさんも、あれが映画えいが全体ぜんたいの中なかで浮ういてしまうことはわかっていたはずだ。それでも、はっきり言いわねばならないことだったのだ。

本ほん作さくは宮城みやぎ県けんが舞台ぶたいで、東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいにおいて最大さいだいの犠牲ぎせい者しゃを出だした「津波つなみ」で被害ひがいを受うけた人ひとたちにまつわる話はなしがメインです。
そして、私わたしたちが知しっておくべき「生活せいかつ保護ほご」という大切たいせつな仕組しくみが大おおきなテーマにもなっているので、是非ぜひとも社会しゃかい問題もんだいの1つとして考かんがえてみてほしい作品さくひんとなっています。
本ほん作さくは少すこし独特どくとくな作つくりとなっていて、大おおきく「2011年ねん」と「2020年ねん」の2つの時間じかん軸じくが行いき来きするのです。
最初さいしょは「2011年ねん」から始はじまりますが、その後ごで「9年ねん後ご」という親切しんせつな表示ひょうじが出でます。ただ、それ以降いこうの表示ひょうじはなく、いつの間まにか「2011年ねん」に戻もどっていたり、「2020年ねん」になっていたりします。
さらには、「2011年ねん」と「2020年ねん」と“その間あいだの期間きかん”もあるため、「今いまはこの3つのどこか」と時間じかん軸じくを見分みわける集中しゅうちゅう力りょくも大事だいじになるのです。
それが出来できれば、あとは生活せいかつ保護ほごに関かんする大事だいじな解説かいせつや事例じれいが分わかりやすく出でてくるので、それを知しって観察かんさつしてみると、「制度せいどの理不尽りふじんさ」や、職員しょくいんの対応たいおうがどうなのか、など普段ふだんあまり目めにしないものが自然しぜんと見みえてきます。
ただ、現実げんじつに役所やくしょは人ひとが足たりないことも事実じじつですし、今回こんかいのケースでは、大だい災害さいがいによって仕事しごと量りょうも半端はんぱではなく、全すべての人ひとに寄より添そって対応たいおうをするのには無理むりもあります。
「生活せいかつ保護ほご」という仕組しくみ1つをとっても、これだけ多おおくの考かんがえるべき材料ざいりょうがあることが分わかる、とても大切たいせつな映画えいが。
もちろん佐藤さとう健けん、阿部あべ寛ひろし、清原きよはら果はて耶を筆頭ひっとうに役者やくしゃ陣じんは非常ひじょうに上手うまく、その演技えんぎの応酬おうしゅうも見みどころの1つである良質りょうしつな作品さくひんです。

容疑ようぎ者しゃ・利根りこん役やくの佐藤さとう健けんは、前まえに瀬せ々敬久たかひさ監督かんとくと組くんだ「8年ねん越ごしの花嫁はなよめ　奇跡きせきの実話じつわ」の主人公しゅじんこうや、朝あさドラ「半分はんぶん、青あおい。」の律りつ役やくなど、善良ぜんりょうで優やさしい青年せいねんを演えんじさせても十分じゅうぶん、上手うまい。だが、役者やくしゃとしての凄すごみを感かんじさせるのはやはり、怒いかりや恨うらみといった負まけの感情かんじょうをふつふつとわき立たたせて爆発ばくはつさせる本ほん作さくのようなキャラクターだろう。衝動しょうどう的てきな言動げんどうの場面ばめんでの深ふかい闇やみを感かんじさせる眼めは、アドレナリンが過剰かじょうに分泌ぶんぴつされているのではないかとさえ思おもわせる迫真はくしん度どだ。

利根りこんを追おう刑事けいじ役やくの阿部あべ寛ひろしはもちろん、連続れんぞく殺人さつじん事件じけんの被害ひがい者しゃに永山ながやま瑛あきら太ふとしと緒形おがた直人なおと、第だい3の標的ひょうてきに吉岡よしおか秀隆ひでたかと、比較的ひかくてき出番でばんの少すくない役やくにも主役しゅやく級きゅうの演技えんぎ派はを贅沢ぜいたくに配はいし、彼かれらのアンサンブルも味あじわい深ぶかい。大物おおものから旬しゅんのスターまで、瀬せ々監督かんとくからオファーがあれば他たの仕事しごとを断たってでも参加さんかしたいという俳優はいゆうが大勢おおぜいいることをうかがわせる。

一連いちれんの事件じけんの重要じゅうような背景はいけいとして描えがかれるのが、東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいで被災ひさいして家族かぞくを失うしなったり生活せいかつ困窮こんきゅう者しゃになったりした人々ひとびとの体験たいけんと、時折ときおり報道ほうどうでも取とり上あげられる生活せいかつ保護ほごをめぐるさまざまな問題もんだいだ。俳優はいゆうたちの熱演ねつえんに加くわえ、日本にっぽんで生いきる私わたしたちに直接ちょくせつ突つき刺ささるような鋭するどい社会しゃかい派はのスタンスがあるからこそ、本ほん作さくの鑑賞かんしょうが“体験たいけん”として心しんに深ふかく刻きざまれるのだろう。