長久監督は感激もあらわに、「この部門で評価されたことがとても嬉しい。この映画はかつてティーンだった自分や、今ティーンの人たちを救うために作ったからです」と語った。受賞理由を、審査員団は「さまざまなカメラの視点と編集の技法が、これまでの映画では見たことがないものだった。シュールな画とリアルな画が融合し、独特のスタイルを持つ」とコメントした。
本作は今年1月のサンダンス映画祭にも出品され、審査員特別賞オリジナリティ賞を受賞したばかり。すでに中国、台湾、香港の他、フランスでも公開が決定し、今後世界に向けての快進撃が期待される。
今年のベルリン映画祭の日本映画は他に、パノラマ部門のロサンゼルス在住、HIKARI監督による「37 SECONDS」、フォーラム部門の三宅唱監督作「きみの鳥はうたえる」、キュリナリー(料理)部門の近浦啓監督作「COMPLICITY コンプリシティ」があり、それぞれに観客の反応がよく、手応えを感じさせた。
中国からの不法滞在者の主人公が、紆余曲折を経ながらも日本の地方都市でそば職人として弟子入りする「COMPLICITY コンプリシティ」は、昨年の東京フィルメックスで観客賞に輝いた作品だが、ベルリンの観客からも喝さいを浴びた。ティーチインでは、そばへの関心はもとより、日本映画ではあまり描かれることのなかったテーマや発想について、中国人俳優ルー・ユーライとの現場でのコラボレーションなどに関して質問が上がった。
さらに、そば職人に扮する藤竜也について「とても有名な俳優だが、彼との撮影はどうだったか」という質問も。近浦監督は、「そば職人の方には、たった2カ月でそばがちゃんと打てるようになるわけがないと言われましたが、藤さんは毎日何時間もそばを打っていました。あとでそば職人の方が謝るほどに、上達された。振る舞いも佇まいもすべてそば職人になりきっていた藤さんの存在感に、ルー・ユーライや僕らもだいぶ助けられたと思います」と献身的な仕事ぶりについて語った。
今年のコンペティションには日本映画が不在だが、若手監督たちは着実に、世界に通じる道をそれぞれのやり方で切り開いているという印象を受けた。(佐藤久理子)