デートの支払しはらいにおけるカップルのいざこざは実体験じつたいけんから　「逆転ぎゃくてんのトライアングル」リューベン・オストルンド監督かんとくインタビュー

Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion

これは美容びよう業界ぎょうかいで使つかわれる用語ようごなんだよ。友人ゆうじんがパーティで形成けいせい外科げか医いの隣となりに座すわったところ、医師いしは彼女かのじょの顔かおにさっと視線しせんを走はしらせてこう言いった。「おや、あなたにはとても深ふかい悲かなしみの三角形さんかっけいがありますね…　でも、私わたしなら15分ふんあればボトックスで治なおせます」と。彼かれは眉間みけんの皺しわのことを言いっていたんだ。スウェーデンでは「トラブルの皺しわ」と呼よばれていて、人生じんせいには悩なやみ事ごとがいかに多おおいかをほのめかしているものだよ。僕ぼくたちの時代じだいにおけるルックスへの強迫きょうはく観念かんねんについて、そして心しんの充実じゅうじつ度どがある意味いみでは後回あとまわしになっていることについて物語ものがたるエピソードだと思おもった。

2018年ねんにファッション界かいのリサーチをしたことがあったんだ。それに、僕ぼくのパートナーであるシーナはファッション・フォトグラファーだから、この業界ぎょうかいの当事とうじ者しゃとしての詳くわしい見解けんかいも聞きけた。彼女かのじょに出会であった時とき、ファッション・ブランドごとに異ことなるマーケティング戦略せんりゃくや、モデルたちの労働ろうどう環境かんきょうについてたくさんのことを教おしえてくれたんだ。たとえば、男性だんせいモデルは一般いっぱん的てきに女性じょせいモデルの1/3しか稼かせげないとかね。こうした男女だんじょ間あいだの違ちがいを、カールとヤヤという二人ふたりの主人公しゅじんこうの視点してんで捉とらえられたら興味深きょうみぶかいだろうと思おもったんだよ。本ほん作さくのためのリサーチを始はじめると、大勢おおぜいの男性だんせいモデルから、業界ぎょうかいで力ちからを握にぎるゲイの男おとこたちからの誘さそいを断ことわるのに苦労くろうすることも少すくなくないと聞きかされた。時ときにはもっと成功せいこうさせてやると約束やくそくしてい寄いよってくるそうだ。ある意味いみ、男性だんせいモデルであることは、男性だんせい優位ゆうい社会しゃかいにおいて女性じょせいたちが強しいられていることと変かわらないんだよ。

まさに！　それが最初さいしょのアイデアだった。ルックスというのは人間にんげんとして向むき合あわねばならない基本きほん的てきな事柄ことがらのひとつだ。どんな見みた目めをしているかというのは、社会しゃかい経験けいけんに影響えいきょうするからね。社会しゃかいにおいてルックスが重要じゅうような役割やくわりを果はたすという事実じじつは、万国ばんこく共通きょうつうで不平等ふびょうどうだと言いえるけど、その一方いっぽうで、どこの出身しゅっしんであろうと、美うつくしく生うまれつくことができれば、その美びは階級かいきゅう社会しゃかいを優位ゆういに生いき抜ぬくための社会しゃかい経済けいざい的てきなはしごになる。女性じょせいモデルについてよく言いわれているジョークがあるんだけど、それはモデルとしてのキャリアが終おわっても、彼女かのじょたちなら、いつでも裕福ゆうふくな男おとこと結婚けっこんしてセレブ妻つまになれる、というものだ。男性だんせいモデルにとっては、必かならずしも可能かのうなことではないよね。

僕ぼくが手てがけてきた作品さくひんはすべて、人間にんげんの行動こうどうを観察かんさつすることから始はじまった。「逆転ぎゃくてんのトライアングル」の多おおくのシーンは、行動こうどう心理しんり学がくの観点かんてんを強調きょうちょうするような、社会しゃかい学がくの研究けんきゅうや逸話いつわの要素ようそがあるんだよ。特とくに興味深きょうみぶかいと思おもった研究けんきゅうに、科学かがく者しゃたちがアフリカのサバンナでシマウマを観察かんさつし、サバンナに生息せいそくしているのに、その毛皮けがわが黒くろと白しろであるのはなぜか突とっきとめようとしたものがあったんだ。砂すな色しょくのサバンナに合あわせて毛皮けがわは黄色おうしょくのほうがよさそうなものだろう？　群むれに溶とけ込こんでしまうから、シマウマの個体こたいを観察かんさつすることはほぼ不可能ふかのうだったんだけど、1頭とうのシマウマに赤あかい点てんをスプレーして、後ごを追おいやすくしたんだ。ところが、赤あかい点てんが目立めだってしまったせいで、あっという間まにライオンたちの餌食えじきになってしまった。それを見みて、科学かがく者しゃたちはすぐに気きづいたんだ。黒くろと白しろの模様もようはサバンナという環境かんきょうに隠かくれるためのものじゃなく、群むれの中なかに隠かくれるためのものなんだとね。

科学かがく者しゃたちはこれを僕ぼくたち人間にんげんになぞらえ、ファッション業界ぎょうかいに対たいして、とても面白おもしろい指摘してきをした。人間にんげんは服ふくを使つかって自分じぶんが所属しょぞくする社会しゃかい集団しゅうだんに隠かくれようとしているんだと。つまり、服ふくというのは僕ぼくたちなりのカモフラージュなんだ。気取きどったイブニング・パーティに行いくときの不安ふあんを思おもい出だしてみるといい。派手はで過すぎる服装ふくそうも、地味じみ過すぎる服装ふくそうも絶対ぜったいにしたくないだろう。服ふくを間違まちがっただけで、さらし者ものになったような気分きぶんになる。経済けいざい的てきな視点してんからだと、ファッション・ブランドが四よん六ろく時じ中ちゅう、新あたらしいコレクションを作つくっているのも本当ほんとうに納得なっとくがいく。僕ぼくたち消費しょうひ者しゃはさらに頻繁ひんぱんに服ふくを買かい換かえざるを得えないからね。

Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion

あのレストランのシーンは、実際じっさいに僕ぼくがシーナと経験けいけんしたことから着想ちゃくそうを得えたんだ。まだ関係かんけいが始はじまったばかりの頃ころ、僕ぼくは彼女かのじょにいいところを見みせたくて、カンヌに招待しょうたいした。初日しょにちの夜よる、2日にち目めの夜よる、3日にち目めの夜よると、僕ぼくが夕食ゆうしょく代だいを払はらったところで思おもったんだよ。「まずい、思おもい切きってこの件けんについて話はなし合あいをしないと。彼女かのじょのことが好すきすぎて、男おとこがいつも支払しはらうべきだとされている男女だんじょの役割やくわりに踏ふみ込こめていなかった」とね。

本ほん作さくで描えがかれているのは、マルティネス・ホテルのエレベーターで僕ぼくたちが実際じっさいに繰くり広ひろげた口論こうろんなんだ。彼女かのじょは僕ぼくのシャツに50ユーロ札さつを突つっこみ、僕ぼくは慌あわてて声こえをあげるんだけど、ひとり、部屋へやで腰こしを下おろした時ときに思おもったんだ。「ああ、関係かんけいをぶち壊こわしてしまった」って。でも、最後さいごには彼女かのじょが戻もどってきて、落おち着ついて話はなし合あったんだ。本心ほんしんをさらけ出だし、お互たがいの弱よわいところも見みせられるようになったおかげで、彼女かのじょとはもっと親したしくなれたよ。

最後さいごの舞台ぶたいは無人島むじんとうにしたいと思おもっていたから、豪華ごうか客船きゃくせんはあくまでそこへ向むかわせる手段しゅだんであり、モデルのカップル、億おく万まん長者ちょうじゃ、掃除そうじ婦ふといった個性こせい豊ゆたかなキャラクターたちを登場とうじょうさせるための道具どうぐにすぎなかった。無人島むじんとうでは、その掃除そうじ婦ふが魚さかなを釣つったり、火ひを熾おこせたりするとわかり、かつてのヒエラルキーがひっくり返かえるんだ。

母ははは今いまでも共産きょうさん主義しゅぎ者しゃだよ。小学校しょうがっこうの教師きょうしであり、絵描えかきでもあったから、褒ほめて伸のばしてくれる母ははだった。彼女かのじょの教育きょういく方針ほうしんは常つねに味方みかたでいることだったから、「すごい、よくやったわ！」と言いわれながら育そだったよ。僕ぼくが何なにに取とり組くもうと、それは素晴すばらしいことだった。

それは芸術げいじゅつ的てきな決定けっていを下くだす時ときにも生いきてるよ。その教育きょういく方針ほうしんのおかげで、自分じぶんを信しんじられるようになったからね。僕ぼくはスウェーデン西海岸にしかいがんのスティルソという小ちいさな島しまで育そだったから、僕ぼくの周まわりには、両親りょうしんのような左翼さよく政党せいとうの支持しじ者しゃは多おおくなかった。母はははマルクスとレーニン両者りょうしゃの本ほんを持もっていたんだけど、友達ともだちが遊あそびにくると、僕ぼくはレーニンの本ほんを反対はんたい向むきにして、背せ表紙ひょうしを隠かくしてた。他たの人ひとから見みたら物議ぶつぎを醸かもすとわかっていたんだ。

Fredrik Wenzel (C) Plattform Produktion

嵐あらしが近ちかづこうとしている晩ばんのディナーは、船長せんちょうがフルコースで乗客じょうきゃくとテーブルを囲かこむという構想こうそうがあったんだ。乗客じょうきゃくたちは船酔ふなよいになる一方いっぽう、船長せんちょうは酔よっ払ぱらったあげく、船内せんない放送ほうそうで「共産党きょうさんとう宣言せんげん」を読よみ始はじめるんだ。乗客じょうきゃくたちが胃いの中身なかみをもどしている時ときにね。そんなシーンを可能かのうにするには、船長せんちょうは理想りそう家かで、大だい酒飲さけのみで、マルクス主義まるくすしゅぎ者しゃでなければいけなかった。

そうなんだけど、僕ぼくはこのシーンを転機てんきにもしたかったんだ。観客かんきゃくがこのシーンを観みたら、彼かれらも十分じゅうぶんに苦くるしんだことに同情どうじょうして、救すくってやりたいという気持きもちになるだろう。

人間にんげんは甘あまやかされると、どのような反応はんのうを示しめすのか興味きょうみがあるんだ。たとえば、僕ぼくでもビジネス・クラスの飛行機ひこうきに乗のれば、エコノミーの時ときとは違ちがう行動こうどうを取とるようになる。席せきについたら、いつもより優雅ゆうがに読書どくしょをして、飲のみ物ものを堪能たんのうして、エコノミー・クラスに向むかう乗客じょうきゃくたちを眺ながめる。特権とっけんに影響えいきょうされないなんて、ほぼ不可能ふかのうなんだよ。

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富裕ふゆう層そうは立派りっぱな人ひとたちだと思おもっているよ。成功せいこうした人ひとの多おおくは社交しゃこう性せいに優すぐれている。そうでなければ、成功せいこうなんかしないからね。成功せいこうした裕福ゆうふくな人々ひとびとはひどい連中れんちゅうだという通説つうせつが根強ねづよいけれど、それは話はなしを単純たんじゅん化かしすぎだ。本ほん作さくでは、親切しんせつなイギリス人じん老ろう夫婦ふうふを誰だれよりも親したしみやすいキャラクターに描えがきたかった。たまたま地雷じらいと手榴弾しゅりゅうだんで財ざいを築きずいただけで、誰だれに対たいしても優やさしくて、謙虚けんきょな人ひとたちなんだ。このほうが、作品さくひんの世界せかい観かんを描えがく上うえで、より正確せいかくな描写びょうしゃになると思おもってね。

そうだね、男性だんせい性せいについては、「逆転ぎゃくてんのトライアングル」の脚本きゃくほんを書かいている時ときに考かんがえるようになった。どの作品さくひんでも毎回まいかい男性だんせいが、あるべき姿すがた、期待きたいされる姿すがたに対処たいしょしようとする。そのように行動こうどうしようとして、罠わなにかかるというわけさ。この3本ほんの映画えいがは僕ぼく自身じしんに対たいするジレンマを浮うき彫ぼりにするためのものでもあったし、自分じぶん自身じしんを追おい詰つめるものでもあった。「自分じぶんだったら、どう対処たいしょするだろう？」とね。簡単かんたんに答こたえが思おもい浮うかんでしまったら、あまり興味きょうみを惹ひかれない。でも、難むずかしければ、僕ぼくは引ひき込こまれるんだ。