バーナデットは、一流 いちりゅう IT企業 きぎょう に勤 つと める夫 おっと や、親友 しんゆう のような関係 かんけい の愛娘 まなむすめ とシアトルで暮 く らし、何 なに 不自由 ふじゆう ない幸 しあわ せな生活 せいかつ を送 おく っている専業 せんぎょう 主婦 しゅふ 。しかし、彼女 かのじょ の日常 にちじょう を眺 なが めるにつれ、少 すこ しずつ綻 ほころ びが顔 かお をのぞかせる。極度 きょくど の人間 にんげん 嫌 きら いである彼女 かのじょ は、隣人 りんじん やママ友 とも たちと、うまく人間 にんげん 関係 かんけい を結 むす ぶことができない。外出 がいしゅつ も苦手 にがて で、買 か い物 もの や家事 かじ やスケジュール管理 かんり は、メールで依頼 いらい できる“バーチャル秘書 ひしょ ”に任 まか せっぱなし。そんな彼女 かのじょ には、天才 てんさい ともてはやされながらも、建築 けんちく 家 か の夢 ゆめ を諦 あきら めたという過去 かこ があった――。
自分 じぶん にも他人 たにん にも厳 きび しく、エキセントリックで強烈 きょうれつ なバーナデット。しかし、苦悩 くのう する彼女 かのじょ の姿 すがた から、「耐 た えがたい挫折 ざせつ や、家族 かぞく の存在 そんざい によって、捨 す て去 さ ったはずの夢 ゆめ といかに向 む き合 あ うのか」という、多 おお くの人々 ひとびと が自分 じぶん 自身 じしん に問 と いかけるであろう、普遍 ふへん 的 てき なテーマが透 す けて見 み える。そして、ブランシェット自身 じしん が「最 もっと も魅了 みりょう された」と語 かた る、「自分 じぶん からは決 けっ して逃 のが れられない」という動 うご かしがたい事実 じじつ 。逃 に げてきた“何 なに か”と向 む き合 あ わなければ、人生 じんせい が変 か わることなど、決 けっ してないのだ。
そんなバーナデットの心 しん 模様 もよう は、建築 けんちく 家 か である彼女 かのじょ の家 いえ に、さまざまな形 かたち をとって現 あらわ れる。もとは感化院 かんかいん だったという設定 せってい で、古 ふる めかしくも個性 こせい 的 てき な家 いえ は、ところどころ雨漏 あまも りや補修 ほしゅう が必要 ひつよう な箇所 かしょ があり、バーナデットはその都度 つど 、とりあえずの応急 おうきゅう 処置 しょち を施 ほどこ している。一方 いっぽう 、床 ゆか を突 つ き破 やぶ って生 ば えてきた植物 しょくぶつ にはスペースを確保 かくほ し、自由 じゆう にさせている。そして、運命 うんめい の大雨 おおあめ の日 ひ ――家 いえ のそばにあった庭 にわ が、文字通 もじどお り“崩壊 ほうかい ”する。
振 ふ り返 かえ ればブランシェットは、アカデミー賞 しょう にノミネートされた「あるスキャンダルの覚 おぼ え書 が き 」では、家庭 かてい での満 み たされない思 おも いから、15歳 さい の教 おし え子 ご との禁断 きんだん の恋 こい に突 つ き進 すす む教師 きょうし 、そしてオスカーを手 て にした「ブルージャスミン 」では、失 うしな った上流 じょうりゅう 階級 かいきゅう の地位 ちい にしがみつこうとする元 もと セレブを演 えん じてきた。いずれも、思 おも い描 えが いた“現在地 げんざいち ”にいない自分 じぶん 自身 じしん を直視 ちょくし できず、狂 くる わんばかりの焦燥 しょうそう 感 かん を抱 かか えた人物 じんぶつ だ。そんな彼女 かのじょ が、自宅 じたく と娘 むすめ の学校 がっこう を往復 おうふく するだけの退屈 たいくつ な日々 ひび に、少 すこ しずつ心 しん のバランスを崩 くず していくバーナデットを、繊細 せんさい かつ魅力 みりょく 的 てき に表現 ひょうげん している。
本 ほん 作 さく のなかで最 もっと も輝 かがや かしい瞬間 しゅんかん のひとつは、彼女 かのじょ が終盤 しゅうばん で下 くだ す、シアトルという“現在地 げんざいち ”から1万 まん 6000キロメートル離 はな れた南極 なんきょく に行 い くという決断 けつだん だ。人間 にんげん 嫌 ぎら いで外出 がいしゅつ 嫌 ぎら いの彼女 かのじょ が、家族 かぞく にも頼 たよ らずたったひとりで、極寒 ごっかん の極地 きょくち へと旅立 たびだ つ。そんな並々 なみなみ ならぬ勇気 ゆうき と覚悟 かくご が必要 ひつよう だったであろう行動 こうどう と、彼女 かのじょ がそこで得 え たものが、確 たし かに伝 つた えてくれる――人生 じんせい を変 か えるのに、遅 おそ すぎることはない、と。
(飛松 とびまつ 優 ゆう 歩 ふ )
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