「小津おつ安やす二に郎ろう生誕せいたん120年ねん記念きねんシンポジウム」レポート　黒沢くろさわ清きよし、ジャ・ジャンクー、ケリー・ライカートが語かたる小津おつ安あん二郎じろう

「お早はやよう」は、小津おつ監督かんとくの第だい50作さく、カラー2作さく目めの作品さくひんで、郊外こうがいの新興しんこう住宅じゅうたく地ちに住すむいくつかの家族かぞくと、無邪気むじゃきな子こどもたちに振ふり回まわされる大人おとなたちをコメディタッチで描えがいた物語ものがたり。

「お早はやよう」の感想かんそうを3人にんの監督かんとくはそれぞれこう語かたる。

黒沢くろさわ監督かんとく：映像えいぞうがきれいで、場所ばしょが限定げんていされていて、同おなじような構図こうずの中なかでさまざまなドラマが繰くり広ひろげられている。映像えいぞうと演出えんしゅつにある種しゅの均一きんいつ感かんがあった。それに反はんして物語ものがたりは、コメディだから許ゆるされるのだが、疑心暗鬼ぎしんあんきと誤解ごかいと断絶だんぜつ、ぎりぎりの一触即発いっしょくそくはつのところで繰くり広ひろげられるのがスリリングだと思おもいました。

ライカート監督かんとく：私わたしはダグラス・サークのことばかり考かんがえていました、色味いろみ、均等きんとうな構図こうず、衣装いしょう、背景はいけいセット。それぞれのコマがまるで絵画かいがのような感かんじでした。そして日常にちじょうの中なかのドラマを描えがいており、ヒーローが出でるのではなく、子こどもたちがテレビを欲ほしがるドラマ。そういう生活せいかつの細ささやかなストーリーが素晴すばらしい。

ジャ監督かんとく：4年ねんぶりに日本にっぽんを訪おとずれて、東京とうきょう国際こくさい映画えいが祭さいのこのようなシンポジウムに参加さんかできることに感謝かんしゃします。私わたしの子こども時代じだい、70年代ねんだいの中国ちゅうごくを思おもい出だしました。日本にっぽんのこの物語ものがたりより20年ねん後ごになりますが、私わたしも彼かれらと同おなじように子こどものころの私わたしはテレビが欲ほしかったのです。小津おつ監督かんとくの作品さくひんは、家族かぞくをテーマにした作品さくひんが多おおいですが、「お早はやよう」が、ほかの作品さくひんと少すこし異ことなるのはテレビをめぐる子こどもの話はなしを加くわえたことだと思おもいます。いま小津おつ監督かんとくが生いきていたら、ロボットを家庭かていの中なかに導入どうにゅうしたら……という物語ものがたりになるかもしれません。タイトルは「お早はやよう」ではなく、「こんばんは」で（笑）。

その後ご3人にんはそれぞれが選えらんだ小津おつ作品さくひんを紹介しょうかいした。黒沢くろさわ監督かんとくがまず語かたったのは「宗方むなかた姉妹しまい」（50）だ。大佛だいぶつ次郎じろうの同名どうめい小説しょうせつが原作げんさくの姉妹しまいの物語ものがたり。保守ほしゅ的てきな価値かち観かんにとらわれる姉あねを田中たなか絹代きぬよ、奔放ほんぽうな妹いもうとを高峰たかみね秀子ひでこが演えんじる。

黒沢くろさわ監督かんとく：この映画えいがは、世界せかい的てきに知しられる小津おつの作品さくひんに対たいするある種しゅの先入観せんにゅうかんをゆがめてしまうことがあると思おもいます。なんとなく小津おつ映画えいがは静しずかで、ゆっくりしていると言いわれますが、決けっして静寂せいじゃくに包つつまれているわけではありません。「お早はやよう」でもそうでしたが、人々ひとびとは次々つぎつぎとしゃべり、杉村すぎむら春子はるこは相当そうとう騒さわがしい（笑）。物語ものがたりも派手はでな事件じけんが起おこるわけではありませんが、人ひとはあっちに行いったりこっちに行いったり、編集へんしゅうの速度そくどもかなりスピーディです。小津おつの物語ものがたりは戦後せんごの古ふるい家族かぞくを描えがき、その家族かぞく関係かんけいは崩くずれ行いくのですが、その関係かんけいをほほえましく貴重きちょうなものとして扱あつかう、それが小津おつの一貫いっかんしたテーマとされています。それは、もちろんある種しゅ当あたっています。戦後せんご10年ねんくらいに限かぎりますと、「晩春ばんしゅん」（49）、「麦秋ばくしゅう」（51）、また「東京とうきょう物語ものがたり」（53）があります。これを並ならべると、なるほど小しょう津つは崩くずれ行ゆく家族かぞく描えがき、それを見守みまもる。小津おつはそういう物語ものがたりを好このんで取とり上あげていると多おおくの方ほうは思おもわれるでしょう。

しかし、この3作さくは家族かぞくは美うつくしい、という簡単かんたんな作品さくひんではありません。親子おやこ関係かんけいの中なかで誤解ごかいを生うみ、世代せだいの断絶だんぜつがあり、夫婦ふうふの間あいだには疑心暗鬼ぎしんあんきが渦巻うずまく。でも、最後さいごに笠智りゅうち衆しゅうに代表だいひょうされる人物じんぶつが、「そんなもんだよ、仕方しかたないさ」と、すべてを鷹揚おうように受うけ止とめて、矛盾むじゅんや難むずかしいことはあるが、それが人生じんせいだとなんとなくうまくまとめます。それは小津おつ映画えいがの大おおきな特徴とくちょうとして言いわれることで、「お早はやよう」だと佐田さた啓二けいじと久我くが美子よしこが、なんとなくすべてを丸まるく受うけ止とめる役柄やくがらで出でています。

戦後せんご10年ねんの実際じっさいの小津おつのフィルモグラフィを挙あげますと、「長屋ながや紳士録しんしろく」（47）があって、「風ふうの中なかの牝鶏ひんけい」（48）、そして「晩春ばんしゅん」それから「宗方むなかた姉妹しまい」「麦秋ばくしゅう」そして「お茶ちゃ漬づけの味あじ」（52）があって、「東京とうきょう物語ものがたり」（53）と並ならびます。「風ふうの中なかの牝鶏ひんけい」「宗方むなかた姉妹しまい」「お茶ちゃ漬づけの味あじ」この3作品さくひんには「まあ、そんなもんだよ」と丸まるく収おさめる笠智りゅうち衆しゅうに相当そうとうする人物じんぶつが存在そんざいしないのです。笠智りゅうち衆しゅうさんは出演しゅつえんしますが、そういった役割やくわりを担になわない役やくです。

そんな、戦後せんごのフィルモグラフィの中心ちゅうしんにある「宗方むなかた姉妹しまい」は、人間にんげん同士どうしが理解りかいしあえないことを描えがく物語ものがたりで、現代げんだい的てきな高峰たかみね秀子ひでこ演えんじる妹いもうとと古風こふうな姉あねを演えんじる田中たなか絹代きぬよ。二人ふたりは相容あいいれない価値かち観かんを持もっています。父親ちちおやとして笠智りゅうち衆しゅうも出でていますが、この父親ちちおやは姉妹しまいの問題もんだいを解決かいけつしようとはしません。この物語ものがたりの暗黒あんこく部分ぶぶんを担になっているのが、山村やまむら聡さとしが演えんじる、節子せつこ（田中たなか絹代きぬよ）の夫おっとです。僕ぼくは、ここまですさまじく断絶だんぜつした夫婦ふうふ関係かんけいを映画えいがの中なかで見みたことがありません。この夫婦ふうふは夫婦ふうふらしい会話かいわがほとんどありません。夫おっとは極度きょくどのニヒリズムに陥おちいっていて、妻つまが経営けいえいしているカフェの壁かべにグラスをぶつけて破壊はかいしようとしたり、2階かいの部屋へやに妻つまに呼よびつけて、いきなり離婚りこんをい渡いわたしたり。そして、混乱こんらんする妻つまに平手打ひらてうちを7発はつくらわします。男性だんせいが無抵抗むていこうの女性じょせいに対たいしてここまでひどい暴力ぼうりょくをふるう瞬間しゅんかんをほとんど見みたことがありません。その光景こうけいを見みた姉あねが斧おののようなものをもって夫おっとを追おいかけるというすさまじい描写びょうしゃがあります。この辺あたりは小津おつの悪乗わるのりかもしれません。断絶だんぜつした人間にんげん関係かんけいは暴力ぼうりょく沙汰ざたに陥おちいる、そういう瞬間しゅんかんを嬉々ききとして描えがきたかった。そういう小津おつのどす黒ぐろい欲望よくぼうのようなものが垣間見かいまみられる大好だいすきなシーンです。2階かいに上のぼっていく足取あしどりの恐おそろしさ、何なにが起おこっているのか……おぞましい瞬間しゅんかんを見みてしまうような、小津おつのダークな面めんが見みられる映画えいがです。

「風ふうの中なかの牝鶏ひんけい」は、戦中せんちゅうに売春ばいしゅんするしか生いきる術じゅつがなかった妻つまと兵隊へいたいから戻もどってきた夫おっとが、まったく理解りかいしあうことができず、夫おっとは妻つまを階段かいだんから突つき落おとします。小津おつは田中たなか絹代きぬよをひどい目めに合あわせたい欲望よくぼうがあったのでしょうか、「宗方むなかた姉妹しまい」同様どうようすさまじい映画えいがです。批評ひひょう家かの評判ひょうばんが良よくなく、ヒットもしなかったようです。それで、小津おつは思おもい直なおしたのか「晩春ばんしゅん」系統けいとうの大だい傑作けっさく「麦秋ばくしゅう」を撮とり、崩くずれ行いく日本にっぽんの伝統でんとう的てき家族かぞくを描えがきます。しかし、その成功せいこうに満足まんぞくしなかったのか、その後ご「お茶ちゃ漬づけの味あじ」を撮とって、これもニヒリスティックな断絶だんぜつした夫婦ふうふの話はなしです。佐分利さぶり信しんの役やくは、これまでの笠智りゅうち衆しゅうの対極たいきょくに位置いちし、ずばりと確信かくしんをついた言葉ことばで相手あいてを追求ついきゅうするという役割やくわりを担になっています。

その後ご、小津おつはまた古ふるい家族かぞくを描えがいた「東京とうきょう物語ものがたり」で世界せかい的てきな評価ひょうかを得えます。そして「早春そうしゅん」（56）、「東京とうきょう暮色ぼしょく」（57）、シニカルなコメディ「彼岸花ひがんばな」（58）、そして「お早はやよう」と続つづきます。申もうし上あげたいのは、一人ひとりの作家さっかは自分じぶんの信しんじた一本いっぽんの道みちだけをまっすぐ突つき進すすむわけではない、ということ。「晩春ばんしゅん」のように非常ひじょうに美うつくしい映画えいがを撮とりながら、どこかでそれは偽善ぎぜんかもしれない、と思おもって「宗像むなかた姉妹しまい」を撮とったのかもしれません。人間にんげんが何なにも語かたらず無言むごんで見みつめあうだけで理解りかいできるなんて、あり得えない。人間にんげん同士どうしは断絶だんぜつしており、それは暴力ぼうりょくにまで発展はってんする。だから戦争せんそうが起おこったのではないか。戦争せんそうが終おわって、それを忘わすれたかのように、互たがいに理解りかいしあったような顔かおをしているが、それは嘘うそっぱちである。小津おつはそういった激はげしい感情かんじょうに突つき動うごかされた映画えいがを、戦後せんご10年ねんの間あいだに時々ときどき撮とっています。作家さっかというものは、このように180度ど違ちがう方向ほうこうに行いった映画えいがを撮とる、世間せけんの評判ひょうばんや興行こうぎょう的てき失敗しっぱいに大おおきく影響えいきょうされ、戦争せんそうという強烈きょうれつな体験たいけんを忘わすれられず右往左往うおうさおうしながらなんとか作つくり続つづけていく。そういうものなのだな、ということを感かんじます。小津おつ安あん二郎じろうという一見いっけん強烈きょうれつなひとつの個性こせいを持もったように見みえる作家さっかが、これほど大おおきく揺ゆれ動うごき、矛盾むじゅんした作品さくひんをさまざまに撮とっていることが小津おつという作品さくひんの豊ゆたかさだと思おもいます。

ジャ・ジャンクー監督かんとくは、北京ぺきん電でん影かげ学院がくいんで学まなんでいた頃ころに見みたという「晩春ばんしゅん」を挙あげた。

ジャ監督かんとく：他たの小津おつ作品さくひんも見みていましたが、「晩春ばんしゅん」はやや遅おくれて見みました。小津おつの作品さくひんの大だい部分ぶぶんが日本にっぽんの社会しゃかい経済けいざいの大おおきな変化へんかを上手じょうずに扱あつかっていると思おもいます。日本にっぽん経済けいざいが変化へんかする中なかで産業さんぎょう化かが進すすみ、家族かぞく関係かんけいに大おおきな影響えいきょうを与あたえることが、映画えいがの中なかで語かたられます。「一人ひとり息子むすこ」（36）では、母ははに最新さいしんの東京とうきょうの姿すがたを見みせようとします。長ながい期間きかんの変化へんかの中なかで生いきていく人間にんげんを描えがくのが小津おつ作品さくひんだと思おもいます。「東京とうきょう物語ものがたり」では家族かぞくに対たいする、失望しつぼうも描えがかれます。「晩春ばんしゅん」では、ごく個人こじん的てきな失望しつぼう、感傷かんしょうが凝縮ぎょうしゅくして表現ひょうげんされていると思おもいます。

「晩春ばんしゅん」の父ちちと娘むすめの関係かんけいは、お互たがいに寄より添そっていますが、依存いぞんしすぎています。そこに描えがかれているのは、人間にんげんが個人こじんとして家庭かてい環境かんきょうを抜ぬけ出だせないということ。父ちちは娘むすめを結婚けっこんさせるために自分じぶんが再婚さいこんすることを装よそおって、娘むすめに結婚けっこんを同意どういさせるよう仕向しむけます。私わたしが感激かんげきするのは、娘むすめが嫁よめに行いくと家庭かていが壊こわれます。娘むすめがいなくなると父ちちは伝統でんとう的てきな孤独こどくの中なかにいることになります。人間にんげんが独立どくりつしていくと見みえることは、家族かぞく関係かんけいの温あたたかさというのは束縛そくばくだったということ。それが胸むねを打うつのだと思おもいます。過度かどに濃密のうみつな関係かんけいは、その関係かんけいを瓦解がかいしていくことになるのです。「晩春ばんしゅん」は現代げんだい人じんは、どういうことなのかを強烈きょうれつに小津おつが見みせてくれた作品さくひんだと思おもいます。

小津おつの映画えいが言語げんごを語かたると、「晩春ばんしゅん」の美学びがくは素晴すばらしいものです。セリフも動作どうさも、日常にちじょう生活せいかつのあらゆる魅力みりょく的てきなものが盛もり込こまれています。その中なかで私わたしが特とくに興味きょうみを持もったのが、映画えいがは文学ぶんがくで表現ひょうげんできないものを映画えいが言語げんごで表現ひょうげんしていると強烈きょうれつに感かんじました思おもいました。生活せいかつのディテールを表現ひょうげんするのに、言葉ことばでは表現ひょうげんすることができないことしっかり表現ひょうげんしています。「お早はやよう」にもその美学びがくがありありと見みられます。

2年ねん前まえに中国ちゅうごくで小津おつの日記にっきが出版しゅっぱんされました。その中なかで私わたしの知しらなかった小津おつの姿すがたを知しり、感銘かんめいを受うけました。小津おつ監督かんとくは食たべるものも娯楽ごらくも西洋せいようのものが好すきだったことがわかりました。また、戦争せんそう中ちゅう、自分じぶんの身体しんたいの状況じょうきょうを克明こくめいに記しるしていた。自分じぶんをしっかり観察かんさつして、お通つうじのことも事細ことこまかに日記にっきに書かいてありました。これは私わたしの知しらない小津おつ監督かんとくの一いち面めんです。小津おつ監督かんとくはつねに時代じだいの前まえに、前まえに行いっていた方ほう。現代げんだいを描えがきながらもその目めは未来みらいを見みて、未来みらいに提示ていじするものをもっていた監督かんとくではないかと思おもいます。

今回こんかい初はつ来日らいにちとなったケリー・ライカート監督かんとくは、「映画えいがを通つうじて日本にっぽんを知しる体験たいけんが面白おもしろい」と感想かんそうを述のべ、とりわけ小津おつ映画えいがで描えがかれる結婚けっこん観かんに驚おどろいたと語かたる。

私わたしが日本にっぽん文化ぶんかをすべて理解りかいできてないので語かたるのが難むずかしいのですが、小津おつ監督かんとくは結婚けっこんにこだわっているようで、毎日まいにち映画えいがでお嫁よめさんを見みています。「東京とうきょう物語ものがたり」はロードムービーのようですが、アメリカでのロードムービーは自分じぶん自身じしんを見みつける旅たびを描えがきます。家族かぞくの束縛そくばくがあって、そこから離はなれて旅たびに出でるような。しかし、小津おつ映画えいがは、今こん自分じぶんがいる場所ばしょがいるべき場所ばしょと描えがきます。

小津おつの映画えいがで女性じょせいは今いまのままでいいと言いいますが、アメリカ映画えいがでは不満ふまんが描えがかれます。誰だれかが自分じぶんから離はなれて、変かわることに悲かなしみがある。「東京とうきょう物語ものがたり」の夫婦ふうふは東京とうきょうに行いって、子こどもに熱海あたみに送おくられますが、やはり家いえに帰かえりたい、となるロードムービーは珍めずらしいと思おもいます。「理由りゆうなき反抗はんこう」では父ちちが息子むすこを突つき落おとします。親おやをどうにかする…ということは普遍ふへん的てきなテーマだと思おもうのですが。

私わたしは小津おつ監督かんとくの晩年ばんねんの作品さくひんから見み始はじめました。ミニマリストで、同おなじようなセットで、同おなじ俳優はいゆうで、同おなじテーマを話はなす。それに驚おどろきました。少すくない要素ようそでこんなにたくさんのことを言いえるのかと。一方いっぽうで、初期しょきのサイレント作品さくひんは、晩年ばんねんの映画えいがに比くらべるとせわしなく感かんじます。だんだん要素ようそが少すくなくなっていくのが小津おつ映画えいがの特徴とくちょうだと思おもいます。ほとんどカメラは動うごきませんが、「東京とうきょう物語ものがたり」で1カ所かしょカメラが動うごいて驚おどろきました。座すわっていても、俳優はいゆうを動うごかしませんし、その静しずけさが美うつくしいのです。相手あいての顔かおをしっかり見みて、観察かんさつし、相手あいてが話はなさない言葉ことばも考かんがえる。しかし、口くちにする言葉ことばは、実際じっさいは満足まんぞくしていない言葉ことばです。私わたしは、本当ほんとうに満足まんぞくしているのは友人ゆうじん同士どうしの会話かいわに見みえました。男性だんせいがいない、女性じょせい同士どうしの会話かいわには自由じゆうさがあったと思おもいました。小津おつ作品さくひんの1本ほん1本ほんについては話はなせませんが、それぞれのことが連続れんぞくしているように感かんじます。

夫おっとの変化へんかを女性じょせいたちが待まつのが興味深きょうみぶかく、黒沢くろさわ監督かんとくがお話はなしされていた、小津おつ映画えいがの中なかの女性じょせいへの暴力ぼうりょくについても考かんがえました。夫おっとに階段かいだんから突つき落おとされても彼女かのじょは這はい上あがって夫おっとに謝あやまったり、夫おっとの脱ぬいだ服ふくを妻つまが拾ひろっていくこと……文化ぶんかの違ちがいもあり私わたしは驚おどろきました。小津おつはそれに対たいして、何なにかの視点してんを提示ていじしているのでしょうか？　私わたしはそれがわかりませんでした。

ライカート監督かんとくが女性じょせい蔑視べっし的てきな描写びょうしゃについて率直そっちょくな疑問ぎもんを述のべると、黒沢くろさわ監督かんとくが「『風ふうの中なかの牝鶏ひんけい』で描えがかれていることは、日本にっぽんの実際じっさいの家庭かていですべてやっていることはなく、小津おつは面白おもしろがって、男おとこってばかだという皮肉ひにくを含ふくめて描写びょうしゃしていると思おもいます。しかし、階段かいだんを這はい上あがる妻つまに、夫おっとは『おい、大丈夫だいじょうぶか』と言いいながらも助たすけにはいきません。僕ぼくの強引ごういんな考かんがえですが、この人ひとはもう死しんでいるのかな、と思おもいました。戦争せんそうから生いきて戻もどってきたけれど死者ししゃなのかなと思おもいました」と持論じろんを述のべた。

また、この日ひは、ヴィム・ヴェンダース監督かんとくも冒頭ぼうとうの挨拶あいさつで登壇とうだんし、デジタル修復しゅうふくされた小津おつ作品さくひんの美うつくしさについて言及げんきゅうした。第だい36回かい東京国際映画祭とうきょうこくさいえいがさいは、11月1日にちまで開催かいさいされる。