九きゅう懷ふところ

九きゅう懷ふところ
楚すわえ辭じ卷まき第だい十じゅう五ご
作者さくしゃ：王おう褒 (漢かん)　西にし漢かん

本ほん作品さくひん收錄しゅうろく於《楚すわえ辭じ》

《九きゅう懷ふところ》者しゃ，諫議大夫たいふ王おう襃之所作しょさ也。懷ふところ者しゃ，思おもえ也，言こと屈こごめ原げん雖見放逐ほうちく，猶なお思念しねん其君，憂國ゆうこく傾かたぶけ危而不能ふのう忘也。襃讀屈こごめ原之はらの文ぶん，嘉よしみ其温雅おんが，藻も采さい敷衍ふえん，執と握にぎ金玉きんぎょく，委い之の污瀆，遭世溷濁こんだく，莫之能のう識。追つい而愍之の，故こ作さく《九きゅう懷ふところ》，以禆其詞。史官しかん錄ろく第だい，遂とげ列れつ于篇。

極ごく運うん兮不中ちゅう，來き將はた屈こごめ兮困窮こんきゅう。余よ深ふか愍兮慘むご怛，願ねがい一いち列れつ兮無從したがえ。乘じょう日月じつげつ兮上征せい，顧遊心こころ兮鄗酆。彌わたる覽らん兮九隅すみ，彷徨ほうこう兮蘭宮みや。芷閭兮葯房ぼう，奮摇兮衆芳よし。菌きん閣かく兮蕙樓ろう，觀かん道どう兮從橫よこ。寶たから金きん兮委積せき，美び玉だま兮盈堂どう。桂かつら水みず兮潺湲せんかん，揚あげ流りゅう兮洋洋ようよう。蓍めどぎ蔡兮踊おどり躍おど，孔あな鶴づる兮回翔しょう。撫なで檻おり兮遠望えんぼう，念ねん君くん兮不忘。怫鬱兮莫陳ひね，永えい懷ふところ兮内傷きず。

匡ただし機き

天てん門もん兮𡒰戶と，孰由兮賢者しゃ？無む正せい兮溷厠かわや，懷ふところ徳とく兮何覩？假かり寐兮愍斯，誰だれ可か與あずか兮寤語ご？痛やめ鳳おおとり兮遠逝，畜鴳兮近處しょ。鯨くじら鱏兮幽かそけ潛せん，從したがえ蝦えび兮遊陼。乘じょう虬兮登のぼり陽よう，載の象ぞう兮上行ぎょう。朝ちょう發はつ兮葱嶺みね，夕ゆう至いたり兮明光こう。北きた飲いん兮飛泉いずみ，南みなみ采さい兮芝英えい。宣せん遊ゆう兮列宿やど，順じゅん極ごく兮彷徉。紅べに采さい兮騂衣ころも，翠みどり縹はなだ兮爲裳も。舒佩兮綝纚，竦余劒兮干ひ將しょう。騰あが蛇へび兮後從したがえ，飛ひ駏兮步ふ旁つくり。微ほろ觀かん兮玄圃，覽らん察兮瑶よう光こう。啓けい匱兮探さがせ筴，悲命兮相當そうとう。紉蕙兮永詞し，將はた離はなれ兮所思しょし。浮雲うきぐも兮容與あずか，道みち余あまり兮何之の？遠望えんぼう兮仟眠ねむり，聞䨓兮闐闐。陰かげ憂ゆう兮感余あまり，惆悵兮自怜れい。

通路つうろ

林はやし不ふ容よう兮鳴蜩あぶらぜみ，余あまり何なん留とめ兮中州なかす？陶とう嘉よしみ月がつ兮緫駕が，搴玉英えい兮自脩おさむ。結ゆい榮さかえ茝兮逶逝，將はた去さ烝兮遠どお遊ゆう。徑みち岱土兮魏闕，歷れき九きゅう曲きょく兮牽牛うし。聊假日び兮相佯，遺のこ光ひかり燿兮周しゅう流りゅう。望もち太一たいち兮淹息いき，紆余うよ轡くつわ兮自休きゅう。晞白日び兮皎皎こう，彌わたる遠路えんろ兮悠悠ゆうゆう。顧列孛兮縹はなだ縹はなだ，觀かん幽かそけ雲くも兮陳浮。鉅寶遷兮砏磤，雉咸雊兮相しょう求もとめ。泱莽莽兮究きわむ志こころざし，懼吾心こころ兮懤懤。步ふ余あまり馬ば兮飛柱ばしら，覽らん可か與あずか兮匹儔ひっちゅう。卒そつ莫有兮纖介かい，永なが余あまり思おもえ兮怞怞。

危俊

世よ溷兮冥めい昏，違たがえ君きみ兮歸真しん。乘じょう龍りゅう兮偃蹇あしなえ，高こう回かい翔しょう兮上臻。襲かさね英えい衣ころも兮緹䌌，披華裳も兮芳芬。登とう羊ひつじ角かく兮扶輿こし，浮雲うきぐも漠ばく兮自娛。握にぎ神かみ精きよし兮雍容よう，與あずか神人しんじん兮相胥。流星りゅうせい墜兮成なり雨う，進しん瞵盼兮上丘おか墟。覽らん舊きゅう邦くに兮滃鬱うつ，余よ安やす能のう兮久居きょ？志こころざし懷ふところ逝兮心こころ懰慄，紆余うよ轡くつわ兮躊躇ちゅうちょ。聞素女おんな兮微歌か，聽王后きさき兮吹竽。魂たましい悽愴せいそう兮感哀あい，腸ちょう回かい回かい兮盤紆。撫なで余あまり佩兮繽紛ひんぷん，高こう太ふとし息いき兮自憐。使つかい祝融しゅくゆう兮先行せんこう，令れい昭明しょうめい兮開門かいもん。馳はせ六ろく蛟みずち兮上征せい，竦余駕が兮入冥めい。歷れき九州きゅうしゅう兮索合あい，誰だれ可か與あずか兮終生せい？忽ゆるがせ反はん顧兮西にし囿，覩軫丘おか兮崎傾かたぶけ。橫よこ垂たれ涕兮泫流，悲余后きさき兮失靈れい。

昭世あきよ

季春きしゅん兮陽陽ひ，列れつ草くさ兮成行ぎょう。余よ悲兮蘭らん生せい，委い積せき兮從橫よこ。江こう離はなれ兮遺捐，辛夷こぶし兮擠臧。伊い思おもえ兮往古おうこ，亦また多た兮遭殃。伍ご胥兮浮江，屈こごめ子こ兮沈湘。運うん余あまり兮念兹，心しん内ない兮懷傷きず。望もち淮兮沛沛，濱はま流りゅう兮則逝。榜舫兮下流りゅう，東ひがし注ちゅう兮礚礚。蛟龍こうりょう兮導引，文ぶん魚ぎょ兮上瀨せ。抽蒲兮陳坐すわ，援芙蕖兮爲ため蓋ぶた。水みず躍おど兮余旌，繼つぎ以兮微ほろ蔡。雲くも旗はた兮電騖，儵忽兮容裔。河かわ伯はく兮開門かいもん，迎むかい余あまり兮歡欣。顧念兮舊都と，懷ふところ恨兮艱難かんなん。竊哀兮浮萍，汎ひろし淫いん兮無根むこん。

尊みこと嘉よしみ

秋風あきかぜ兮蕭蕭しょう，舒芳兮振條じょう。微ほろ霜しも兮眇眇すがめ，病やまい殀兮鳴蜩あぶらぜみ。玄げん鳥とり兮辭歸き，飛翔ひしょう兮靈丘おか。望もち谿兮滃鬱，熊くま羆ひぐま兮呴嗥。唐から虞おそれ兮不存そん，何故なぜ兮久留とめ？臨淵兮汪洋よう，顧林兮忽荒あら。修おさむ余あまり兮袿衣ころも，騎き霓兮南上みなみうえ。椉雲兮回回かい，亹亹兮自強きょう。將はた息いき兮蘭皋，失しつ志こころざし兮悠悠ゆうゆう。蒶藴兮黴黧，思おもえ君きみ兮無聊ぶりょう。身み去さ兮意存そん，愴恨兮懷愁。

蓄英

登とう九きゅう靈れい兮遊神しん，靜せい女おんな歌か兮微晨。悲皇丘おか兮積葛かずら，衆しゅう體たい錯兮交紛。貞枝さだえ抑そもそも兮枯槁けやき，枉車登とう兮慶雲くも。感かん余あまり志こころざし兮慘慄，心こころ愴愴兮自憐。駕が玄げん螭兮北きた征せい，曏吾路ろ兮葱嶺みね。連れん五ご宿しゅく兮建旄，揚あげ氛氣兮爲旌。歷れき廣漠こうばく兮馳騖，覽らん中國ちゅうごく兮冥冥めい。玄武げんぶ步ふ兮水母はは，與あずか吾われ期き兮南榮さかえ。登のぼり華はな蓋ぶた兮乘陽ひ，聊逍遥しょうよう兮播光こう。抽庫婁兮酌しゃく醴，援瓟瓜ふり兮接糧かて。畢休息きゅうそく兮遠逝，發はつ玉だま軔兮西行さいぎょう。惟時これとき俗ぞく兮疾正ただし，弗どる可か久ひさ兮此方こちら。寤辟摽兮永ひさし思おもえ，心こころ怫鬱兮内傷きず。

思おもえ忠ただし

覽らん杳杳兮世惟おもんみ，余よ惆悵兮何歸き？傷きず時じ俗ぞく兮溷亂みだれ，將はた奮翼兮高飛ひ。駕が八龍はちりゅう兮連蜷にな，建けん虹にじ旌兮威い夷えびす。觀かん中ちゅう宇兮浩ひろし浩ひろし，紛まがえ翼翼よくよく兮上躋。浮溺水すい兮舒光こう，淹低佪兮京きょう沶。屯たむろ余あまり車しゃ兮索友とも，覩皇公こう兮問師し。道みち莫貴兮歸真しん，羨とも余あまり術じゅつ兮可夷えびす。吾われ乃逝兮南娭，道みち幽かそけ路ろ兮九疑うたぐ。越えつ炎えん火ひ兮萬まん里り，過か萬まん首しゅ兮㠜㠜。濟すみ江こう海うみ兮蟬蛻もぬけ，絕ぜっ北きた梁はり兮永辭じ。浮雲うきぐも鬱うつ兮晝昏，霾土忽ゆるがせ兮塺塺。息いき陽ひ城じょう兮廣夏なつ，衰おとろえ色しょく罔兮中ちゅう怠だる。意い曉あかつき陽ひ兮燎寤，乃自𧦽兮在兹。思おもえ堯舜兮襲興きょう，幸こう咎とがめ繇兮獲え謀はかりごと。悲九州きゅうしゅう兮靡君くん，撫なで軾歎兮作詩さくし。

陶とう壅

悲哉于嗟兮，心しん内ない切磋せっさ。欵冬而生兮，凋彼葉は柯。瓦礫がれき進しん寶たから兮，捐弃隨ずい和わ。鈆刀厲御兮，頓ひたすら弃太阿おもね。驥垂兩りょう耳みみ兮，中坂なかさか蹉跎。蹇あしなえ驢うさぎうま服ふく駕が兮，無用むよう日び多た。修おさむ潔きよし處しょ幽かそけ兮，貴き寵ちょう沙すな劘。鳳おおとり皇すめらぎ不ふ翔しょう兮，鶉うずら鴳飛揚ひよう。乘じょう虹にじ驂蜺兮，載の雲くも變化へんか。鷦䳟開ひらき路ろ兮，後ご屬ぞく青あお蛇へび。步ふ驟桂林りん兮，超ちょう驤卷阿おもね。丘陵きゅうりょう翔しょう儛兮，谿谷けいこく悲歌ひか。神かみ章あきら靈れい篇へん兮，赴曲相しょう和わ。余よ私わたし娛兹兮，孰哉復ふく加か。還かえ顧世俗せぞく兮，壞敗罔羅。卷まき佩將逝兮，涕流滂沲。

株かぶ昭あきら

亂らん曰：皇すめらぎ門もん開ひらき兮照下か土ど，株かぶ穢けがれ除じょ兮蘭芷覩。四佞放兮後得禹，聖ひじり舜しゅん攝と兮昭堯緒，孰能若わか兮願爲ため輔。