逐貧賦ふ

逐貧賦ふ
作者さくしゃ：揚あげ雄ゆう

本ほん作品さくひん收錄しゅうろく於《揚あげ侍さむらい郎ろう集しゅう》

　　揚子ようこ遁居，離はなれ俗ぞく獨どく處しょ。左ひだり鄰崇山さん，右みぎ接せっ曠野あらの。鄰垣乞兒ほいと，終おわり貧ひん且窶。禮れい薄うすき義よし弊へい，相そう與あずか羣聚。惆悵失しつ志こころざし，呼よび貧まずし與語よご：

　　「汝なんじ在ざい六ろく極きょく，投棄とうき荒あら遐。好こう為ため庸いさお卒そつ，刑けい戮相加か。匪惟幼稚ようち，嬉戲きぎ土砂どしゃ。居きょ非ひ近きん鄰，接せっ屋や連れん家か。恩おん輕けい毛羽けば，義ぎ薄うす輕羅けいら。進すすむ不ふ由よし德とく，退すさ不ふ受呵。久ひさし為ため滯とどこお客きゃく，其意謂いい何なに？人ひと皆みな文ぶん繡，余あまり褐不完かん。人ひと皆みな稻いね粱，我わが獨どく藜あかざ飱。貧ひん無む寶たから玩，何なに以接歡？宗室そうしつ之の燕つばめ，為ため樂たのし不ふ槃。徒と行ぎょう負まけ笈きゅう，出處しゅっしょ易えき衣ころも。身み服ふく百ひゃく役やく，手足てあし胼胝だこ。或ある耘或耔，霑體露ろ肌はだ。朋友ほうゆう道どう絕ぜっ，進しん宮みや凌りょう遲おそ。厥咎安在あんざい？職しょく汝なんじ為之ためゆき！舍しゃ汝なんじ遠どお竄，崑こん崙之顛。爾なんじ復ふく我わが隨したがえ，翰飛戾もど天てん。舍しゃ爾しか登山とざん，巖穴がんけつ隱かくれ藏ぞう。爾なんじ復ふく我わが隨したがえ，陟のぼる彼かれ高岡たかおか。捨爾入海いりうみ，泛彼柏かしわ舟ぶね。爾なんじ復ふく我わが隨したがえ，載の沈載浮。我わが行くだり爾なんじ動どう，我わが靜しずか爾しか休きゅう。豈あに無む他人たにん？從したがえ我わが何なに求もとむ？今こん汝なんじ去さ矣，勿復久留くる！」

　　貧ひん曰：「唯唯いい。主人しゅじん見み逐，多言たげん益えき嗤。心こころ有ゆう所懷しょかい，願ねがい得とく盡つき辭じ！昔むかし我わが乃祖，宗そう其明德めいとく。克かつ佐さ帝みかど堯，誓ちかい為ため典てん則そく。土ど階かい茅ちがや茨いばら，匪彫匪飾。爰及季き世よ，縱たて其昬惑。饕餮之の羣，貪むさぼ富とみ苟得。鄙ひな我先われさき人じん，乃傲乃驕。瑤よう臺だい瓊榭，室屋むろや崇高すうこう。流りゅう酒しゅ為ため池ち，積せき肉にく為ため崤。是ぜ用よう鵠くぐい逝，不ふ踐其朝あさ。三省みつよし吾われ身み，謂いい予よ無む諐。處ところ君くん之の家いえ，福ぶく祿ろく如山。忘我ぼうが大德だいとく，思おもえ我わが小しょう怨。堪こらえ寒かん能のう暑あつ，少しょう而習焉。寒さむ暑あつ不ふ忒，等とう壽ことぶき神仙しんせん。桀跖不ふ顧，貪むさぼ類るい不ふ干ひ。人ひと皆みな重じゅう蔽，予よ獨どく露ろ居きょ。人ひと皆みな怵惕，予よ獨どく無む虞おそれ。」

　　言辭げんじ既すんで磬かおる，色いろ厲目張めばる。攝と齊ひとし而興，降くだ階下かいか堂どう︰「誓ちかい將はた去さ汝なんじ，適てき彼かれ首しゅ陽ひ。孤こ竹ちく二に子し，與あずか我わが連行れんこう！」

　　余よ乃避席せき，辭じ謝しゃ不ふ直ただし：「請不貳に過か，聞義則そく服ふく。長與ながよ汝なんじ居い，終おわり無む厭いや極きょく。」貧ひん遂とげ不ふ去さ，與あずか我わが遊ゆう息いき。