鵩鳥賦ふ

鵩鳥賦ふ
作者さくしゃ：賈誼　西にし漢かん

《文選ぶんせん》卷まき13

　　誼よしみ為ため長ちょう沙すな王おう傅でん三さん年ねん，有ゆう鵩鳥飛入とびいり誼よしみ舍しゃ，止とめ於坐隅すみ，鵩似鴞，不祥ふしょう鳥とり也。誼よしみ既すんで以謫居たっきょ長ちょう沙すな，長ちょう沙すな卑濕，誼よしみ自じ傷きず悼，以為壽ことぶき不ふ得とく長ちょう，迺為賦ふ以自廣ひろ。其辭曰：

　　單たん閼之歲とし，四よん月がつ孟夏もうか，庚かのえ子日ねのひ斜はす，鵩集余あまり舍しゃ，止とめ于坐隅すみ，貌甚閒あいだ暇ひま。異物いぶつ來らい崪，私わたし怪かい其故，發はつ書しょ占うらない之の，讖言其度。曰「野鳥やちょう入室にゅうしつ，主人しゅじん將はた去さ。」問とい于子鵩：「余よ去さ何なに之の？吉よし虖告我わが，凶きょう言げん其災。淹速之これ度ど，語ご余あまり其期。」

　　鵩乃太ふとし息いき，舉首奮翼，口くち不能ふのう言ごと，請對以意。萬物ばんぶつ變化へんか，固かた亡ほろび休息きゅうそく。斡流而遷，或ある推而還。形かたち氣轉きてん續つづけ，變化へんか而嬗。沕穆亡ほろび間あいだ，胡えびす可か勝かち言ごと！禍わざわい兮福所しょ倚，福ぶく兮禍所しょ伏ふく；憂う喜き聚門，吉凶きっきょう同どう域いき。彼かれ吳ご彊つよし大だい，夫おっと差さ以敗；粵棲會かい稽，句く踐伯世よ。斯遊遂とげ成なり，卒そつ被ひ五ご刑けい；傅でん說せつ胥靡，乃相武たけ丁ひのと。夫おっと禍か之の與あずか福ぶく，何なに異い糾纆！命いのち不可ふか說せつ，孰知其極？水みず激げき則そく旱ひでり，矢や激げき則そく遠とお。萬物ばんぶつ回かい薄うす，震蕩しんとう相しょう轉てん。雲くも烝雨降くだ，糾錯相しょう紛まがえ。大だい鈞ひとし播物，坱圠無む垠。天てん不可ふか與あずか慮おもんばか，道みち不可ふか與あずか謀はかりごと。遲速ちそく有ゆう命いのち，烏がらす識其時じ？

　　且夫天地てんち為ため鑪たたら，造化ぞうか為ため工こう；陰陽いんよう為ため炭ずみ，萬物ばんぶつ為ため銅どう，合ごう散ち消息しょうそく，安あん有ゆう常つね則のり？千變萬化せんぺんばんか，未み始はじめ有ゆう極きょく。忽ゆるがせ然しか為ため人じん，何なん足そく控ひかえ揣；化か為ため異物いぶつ，又また何なん足そく患！小智しょうち自じ私わたし，賤彼貴とうと我わが；達人たつじん大觀たいかん，物もの亡ほろび不可ふか。貪むさぼ夫おっと徇財，列れつ士し徇名；夸者死し權けん，品ひん庶每生せい。怵迫之の徒と，或ある趨西東ひがし；大人おとな不ふ曲きょく，意い變へん齊ひとし同どう。愚ぐ士し繫俗，時じ若わか囚しゅう拘かかわ；至人しじん遺物いぶつ，獨どく與あずか道みち俱。衆人しゅうじん惑惑，好惡こうお積せき意い；真人しんじん恬漠，獨どく與あずか道みち息いき。釋しゃく智さとし遺のこ形かたち，超然ちょうぜん自じ喪も；寥廓忽ゆるがせ荒あら，與あずか道みち翱翔。乘じょう流りゅう則そく逝，得とく坎則止とめ；縱たて軀委命いのち，不ふ私わたし與あずか己おのれ。其生兮若浮，其死兮若休きゅう。澹虖若わか深淵しんえん之の靚，氾虖若わか不ふ繫之舟ぶね。不ふ以生故こ自じ保たもて，養やしなえ空そら而浮。德とく人じん無む累るい，知命ちめい不ふ憂ゆう。細ほそ故こ蔕へた芥あくた，何なん足そく以疑！