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革新的だった国産OS「TRON」の普及を妨げた通産省とマスメディアの横槍。健全な業界発展を阻害したのは誰か?【連載】サム古川のインターネットの歴史教科書(4)|FINDERS|あなたのシゴトに、新たな視点を。

EVENT | 2021/10/12

革新かくしんてきだった国産こくさんOS「TRON」の普及ふきゅうさまたげた通産省つうさんしょうとマスメディアの横槍よこやり健全けんぜん業界ぎょうかい発展はってん阻害そがいしたのはだれか?【連載れんさい】サム古川ふるかわのインターネットの歴史れきし教科書きょうかしょ(4)

TRONショウを訪問ほうもんした小泉こいずみ首相しゅしょう当時とうじ)に説明せつめいをする古川ふるかわ
Windows95のだいフィーバーをて、やがてWindows...

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TRONショウを訪問ほうもんした小泉こいずみ首相しゅしょう当時とうじ)に説明せつめいをする古川ふるかわ

Windows95のだいフィーバーをて、やがてWindows98へとアップデートしていくかたわら、マイクロソフトはPDAけにWindowsCEというOSを完成かんせいさせていた。そこでおもされるのが、TRONプロジェクトの提唱ていしょうしゃである坂村さかむらけん教授きょうじゅとのかかわりである。ぼくむかしから、坂村さかむら教授きょうじゅとはたまに2人ふたりでワインをみにくほど仲良なかよくさせていただいている。

この当時とうじ、TRON(T-Engine)とWindowsCEを合体がったいさせたハイブリッドOSが開発かいはつされ、日本にっぽんせいのハンドヘルドPCにまれていた。これにプリンターをセットにした小型こがた端末たんまつをJR東日本ひがしにっぽん車掌しゃしょう携帯けいたいし、たとえば座席ざせき指定していけんたずに自由じゆうせき新幹線しんかんせんすべんだ乗客じょうきゃくたいし、車内しゃない空席くうせき検索けんさくして発券はっけんするようなオペレーションが実現じつげんされていたのだ。TRONはすぐれたOSではあったが、ユーザーインターフェースとファイルシステムの実装じっそう必要ひつようで、だったらそこをWindowsCEが補完ほかんすればい、という発想はっそうから実現じつげんしたはしまつであった。

きて米田よねだ智彦ともひこ 構成こうせい友清ともきよ

古川ふるかわとおる

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1954ねん東京とうきょうまれ。麻布まふ高校こうこう卒業そつぎょう和光大学わこうだいがく人間にんげん関係かんけい学科がっか中退ちゅうたい。1979ねん(株)かぶしきがいしゃアスキー入社にゅうしゃ出版しゅっぱん、ソフトウェアの開発かいはつ事業じぎょうたずさわる。1982ねん同社どうしゃ取締役とりしまりやく、1986ねん3がつ同社どうしゃ退社たいしゃ、1986ねん5がつ べいマイクロソフトの日本にっぽん法人ほうじんマイクロソフト株式会社かぶしきがいしゃ設立せつりつ初代しょだい代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう就任しゅうにん。1991ねん同社どうしゃ代表だいひょう取締役とりしまりやく会長かいちょうけんべいマイクロソフト極東きょくとう開発かいはつ部長ぶちょう、バイスプレジデント歴任れきにん、2004ねんマイクロソフト株式会社かぶしきがいしゃ最高さいこう技術ぎじゅつ責任せきにんしゃ兼務けんむ。2005ねん6がつ同社どうしゃ退社たいしゃ
2006ねん5がつ慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく大学院だいがくいん設置せっち準備じゅんびしつ、DMC教授きょうじゅ。2008ねん4がつ慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく大学院だいがくいんメディアデザイン研究けんきゅう(KMD)、教授きょうじゅ就任しゅうにん。2020ねん3がつ慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく大学院だいがくいんメディアデザイン研究けんきゅう退職たいしょく
現在げんざい仕事しごと:N高等こうとう学校がっこう特別とくべつ講師こうし。ミスルトウのシニア・フェロウ数社すうしゃのコンサルティング活動かつどう
http://mistletoe.co
Think the earth, NGPFなどのNPO活動かつどう
http://www.thinktheearth.net/jp/
https://www.thengpf.org/founding-directors/

革新かくしんてきだった国産こくさんOS「TRON」が普及ふきゅうしなかった理由りゆう

ところが、このみに当時とうじ通産つうさん官僚かんりょういた。TRONのはたやくである坂村さかむら教授きょうじゅたいし、「マイクロソフトとうなんて、あんた国賊こくぞくだね」とのたまったのだ。このころはまだ、じゅん国産こくさんOSへのこだわりがつよかったからこそとえるが、このあつかいにたいし、とう坂村さかむら教授きょうじゅは「通産省つうさんしょうはいつも我々われわれあしる」といかりをあらわにしていたのが印象深いんしょうぶかい。

ちなみにそのTRONだが、一時期いちじきは“産業さんぎょうべい”として各種かくしゅデバイスや家電かでん製品せいひんまれていた時期じきもある。医療いりょう機器きき産業さんぎょうロボットなど、おおくの現場げんばじつはTRONがうごいているケースはすくなくなかったし、ソニーや家電かでんメーカーもオーディオやテレビをはじめ、大半たいはん製品せいひんにTRONをもちいていた時代じだいがあった。

さらにくわえれば、HONDAのヒューマノイドロボット「アシモ」は当初とうしょ、WindowsCEを使つかってよちよちあるきの実現じつげんけたが、坂村さかむら教授きょうじゅは「TRONを使つかっていれば最初さいしょからはしっていたよ!」とわれるほどだ。TRONとはそれほど評価ひょうかされたリアルタイムOSだったのである。

そんなTRONプロジェクトが結局けっきょく教育きょういくようコンピュータとして普及ふきゅうしなかった背景はいけいについて、新聞しんぶんやネットじょうでは「マイクロソフトの圧力あつりょくがあったからだ」などとわれているが、これは都市とし伝説でんせつのようなものだろう。むしろそのぎゃく事実じじつちかく、通産省つうさんしょう横槍よこやりほうが、よほど障壁しょうへきとしてたちがわるかったはずだ。じつはこのとき遺恨いこん現在げんざいにまでがれている。

コンピューターの健全けんぜん発展はってん阻害そがいしたのは何者なにもの

TRONとWindowsCEのハイブリッドOSの記者きしゃ発表はっぴょうかい坂村さかむらけん教授きょうじゅ古川ふるかわとおる

通産省つうさんしょうはその、マイクロソフトへのアレルギーも手伝てつだって、TRONではなくLinuxをすようになり、LinuxOSのパソコンの普及ふきゅうはかる。具体ぐたいてきには、総務そうむしょうはたらきかけて、LinuxOSのパソコンを地方ちほう行政ぎょうせいのメインマシンに規定きていしたのだ。

すでにマイクロソフトが市場いちば席巻せっけんしていたとはいえ、地方ちほう行政ぎょうせいのユーザーにとってはWindows PCであろうがLinux PCであろうがちがいなどよくわからない時代じだいである。各地かくち市役所しやくしょには、おかみわれるがままLinux PCが配備はいびされ、さらにここに、国産こくさんワープロソフト「一太郎いちたろう Linuxばん」が実装じっそうされることになる。

これによってなにきたかというと、地方ちほう行政ぎょうせい建物たてもの橋梁きょうりょうなどを建設けんせつするさい、その入札にゅうさつ条件じょうけんとして、Linuxフォーマットの「一太郎いちたろう」で作成さくせいされた書類しょるいでなければ申請しんせいできないという、まるでわらばなしのような規制きせいかれることとなった。つまり、中央ちゅうおう建設けんせつ会社かいしゃ地方ちほう入札にゅうさつ参加さんかしようとおもったら、まずLinux PCと一太郎いちたろう購入こうにゅうしなければならかったのである。

いまでこそPDFでの申請しんせい可能かのうになっているものの、ごく一部いちぶ地方ちほう都市としには、れいにおいてもいまだLinuxばん一太郎いちたろう稼働かどうしている。これは官僚かんりょうがコンピューターの未来みらいおもえがくとろくなことにならないという、典型てんけいてきれいえるだろう。

余談よだんだがそれとおなごろ通産省つうさんしょう総務そうむしょう文部省もんぶしょう一体いったいとなり、日本にっぽんのコンピューター市場いちば発展はってんのために、補正ほせい予算よさんから2300おくえんほどの予算よさんをつけたことがあった。当然とうぜん、こうしたながしにあつまるのは、技術ぎじゅつ開発かいはつよりも予算よさんしさの企業きぎょうばかり。既存きそん技術ぎじゅつえたようなチップをかかげてプロジェクトのからだつくろったり、複数ふくすう企業きぎょうのコンソーシアム(合弁ごうべん事業じぎょう)として日本にっぽん技術ぎじゅつそうせいプロジェクトの採択さいたくけ、予算よさんをもらったら納品のうひん直後ちょくご解散かいさんするといったような、「国家こっか予算よさんのバラマキ行政ぎょうせい」という事案じあん続出ぞくしゅつしたものである。わたしは、「納入のうにゅう前後ぜんこうにその価値かち第三者だいさんしゃ評価ひょうかしてもらうことはしないのですか!?」と発言はつげんし、「余計よけいなことをうな!」とさとされて、2委員いいんかいにはばれなくなってしまった。

これでは日本にっぽん企業きぎょう世界せかいのマーケットにて、自由じゆう競争きょうそうたたかえるまでに成長せいちょうしないのもたりまえだろう。シリコンバレーにをやれば、本当ほんとう意味いみたか技術ぎじゅつすぐれた視点してんった企業きぎょう投資とうしあつまり、そこで発生はっせいしたキャピタルゲインをつぎ開発かいはつ投資とうしするといったこう循環じゅんかんてきた歴史れきしがある。健康けんこうてき産学さんがく協同きょうどう成立せいりつしている欧米おうべいくらべて、官僚かんりょうへの接待せったい国家こっか予算よさんのバラマキにすがって企業きぎょうびてきた日本にっぽんとのちがいは歴然れきぜんだ。

だれがBTRONをいじめていたのか”

こうしたいびつ構造こうぞう出来上できあがった要因よういんは、官僚かんりょうだけではない。一部いちぶのメディアの功罪こうざい無視むしできないだろう。

これまでになんも、“なぜBTRON(パソコンけOS)は普及ふきゅうしなかったのか”、“だれがTRONをいじめていたのか”といったテーマで誌面しめん番組ばんぐみづくりがおこなわれてきたが、そこには間違まちがいなく、恣意しいてき官僚かんりょうのリークとマスメディアによる印象いんしょう操作そうさがなされていた。

たとえば坂村さかむら教授きょうじゅが80年代ねんだい以降いこう、BTRON標準ひょうじゅんプロジェクトに熱心ねっしんんでいたころ、アメリカが「スーパー301じょう」を発動はつどう、BTRONは自国じこくのOSを優遇ゆうぐうする貿易ぼうえき障壁しょうへきであるとして、制裁せいさい対象たいしょうとなる通告つうこくおこなったことがある。つまりアメリカが直接的ちょくせつてきにBTRONの発展はってん横槍よこやりれた瞬間しゅんかんであるわけだが、これをほうじるさい、あからさまに背景はいけいにマイクロソフト製品せいひんのパッケージやビル・ゲイツの顔写真かおじゃしんえたりする、悪質あくしつ印象いんしょう操作そうさがいくつもられた。わるいのはマイクロソフトだとわんばかりの構成こうせいである。

NHKのドキュメンタリー番組ばんぐみでこうした印象いんしょう操作そうさときには、さすがにたまりかね、ぼく同局どうきょく会長かいちょうのもとにんでいる。「これは朝日新聞あさひしんぶん珊瑚礁さんごしょう記事きじ捏造ねつぞう事件じけんにも比肩ひけんする、大変たいへん悪質あくしつ捏造ねつぞうですよ」と。

ところが、とう会長かいちょうすずしいかおで、「古川ふるかわくん、そんなこと本気ほんきおこっちゃだめですよ」などとう。なぜか。しんじがたいはなしだが、会長かいちょうぼくたいし、「あの番組ばんぐみはドキュメンタリーでは当時とうじ記憶きおくをネタにした、ファンタジー(おとぎばなし)なんだから。いちいちカリカリしないでくださいよ」とったのである。これにはいかりをとおしてガッカリするしかなかった。

個人こじんてきにもきなPxxxxx-Xシリーズ番組ばんぐみで、DVDもたくさん所有しょゆうしていたのだが、自宅じたくもどるなりすべてのきだったタイトルをててしまったことをおぼえている。マスメディアの記事きじ映像えいぞう全面ぜんめんてき信用しんようしてはならないなとあらためておもらされた出来事できごとであった。

(つづく)


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