ミニバン文化ぶんかの発展はってん（1994年ねん）

2013年ねん、ホンダ・オデッセイはフルモデルチェンジを受うけて5代目だいめとなった。1994年ねんの初はつ登場とうじょう以来いらい維持いじしてきた4枚まいヒンジドアを廃止はいしし、左右さゆうのリアドアはスライド式しきになった。タワーパーキングに入はいる低ひくい全ぜん高こうにも見切みきりをつけ、外観がいかんは他社たしゃの売うれ筋すじミニバンと変かわらなくなった。消費しょうひ者しゃがミニバンに求もとめる要素ようそは、20年ねん足たらずの間あいだに一変いっぺんしていたのだ。

ミニバンとは、小ちいさいサイズのバンを意味いみする。バンは、貨物かもつ車しゃから主おもに乗客じょうきゃくを乗のせるMPV（マルチ・パーパス・ヴィークル）までを含ふくむ広ひろい概念がいねんだ。アメリカでフルサイズのバンといえば、全長ぜんちょう5メートル以上いじょう、全幅ぜんぷくと全ぜん高こうは2メートルに達たっする巨大きょだいな箱はこ型がたのクルマである。だから、ミニバンといっても日本にっぽんの感覚かんかくでは相当そうとうに大おおきい。代表だいひょう的てきな車種しゃしゅであるダッジ・キャラバンやシボレー・アストロは、日本にっぽんの道みちでは持もて余あますサイズだ。

70年代ねんだいまでの日本にっぽんでは、後うしろに荷に室しつのついたクルマをライトバンと呼よぶのが普通ふつうだった。あくまで商用しょうよう車しゃであり、レジャーを楽たのしむためのワゴンという概念がいねんはほとんど知しられていなかった。1982年ねんに発売はつばいされた日産にっさんプレーリーは日本にっぽん型がたミニバンの始祖しそと考かんがえられているが、当時とうじのキャッチコピーは“びっくり BOXY SEDAN”だった。耳慣みみなれないミニバンなどという言葉ことばを使つかっても消費しょうひ者しゃに伝つたわらないことは明あきらかだったので、苦心くしんしてひねり出だした表現ひょうげんだったのだろう。

トヨタ・タウンエース、三菱みつびしデリカワゴンなど、キャブオーバー型がたのワンボックスカーは以前いぜんから存在そんざいしていた。ただ、それらのモデルは商用しょうよう車しゃがベースであり、乗のり心地ごこちや高級こうきゅう感かんの面めんではセダンとは大おおきな差さがあった。1990年ねん、トヨタがエスティマを発売はつばいし、マツダは北米ほくべい向むけに生産せいさんしていたMPVを国内こくないでも販売はんばい開始かいしする。3列れつシートの広ひろいスペースを生いかしたファミリーカーが、ようやく評価ひょうかを高たかめてきた。

その頃ころのホンダは、売うれ筋すじとなりつつあったSUVやミニバンをラインナップに持もっていなかった。以前いぜんから生産せいさんしていたセダンやクーペは、次第しだいに売うれ行ゆきを落おとしていた時期じきである。救世主きゅうせいしゅのように現あらわれたのが、オデッセイだった。大おおきな期待きたいを背負せおって登場とうじょうしたわけではない。発売はつばい当初とうしょの月間げっかん販売はんばい目標もくひょう台数だいすうは4000台だいにすぎなかった。しかし、すぐに生産せいさん計画けいかくを見直みなおしてラインを増強ぞうきょうする必要ひつように迫せまられることになる。

ベースとなったのは、アコードのプラットフォームである。新あらたに一いちから設計せっけいを始はじめる余裕よゆうは、時間じかん的てきにも資金しきん的てきにもなかった。生産せいさんラインもアコードと同おなじものを使つかうので、サイズに制約せいやくが生しょうじる。低ひくく構かまえたフォルムやヒンジドアは、苦肉くにくの策さくで生しょうじたものだったのだ。背せが高たかくてドアがスライドするという“ミニバンらしさ”を欠かいたことで、商品しょうひん力りょくが低ひくいとみなされたのは仕方しかたがない。しかし、そのことがむしろヒットの要因よういんになったのである。

ミニバンが登場とうじょうして間あいだもない頃ころで、乗用車じょうようしゃ感覚かんかくを求もとめるユーザーはまだまだ多おおかった。長年ながねんセダンに乗のってきたドライバーにとって、高たかい重心じゅうしんでコーナリング時じにふらつくのは大おおきな不安ふあんとなった。オデッセイは、運転うんてん席せきに座すわっている限かぎりミニバンであることを意識いしきしないですんだのである。低てい床ゆかなので乗降じょうこうしやすく、天井てんじょうが低ひくくても十分じゅうぶんなスペースを確保かくほできた。コラムシフトを採用さいようしたことで、前ぜん席せきから後こう席せきへのウォークスルーも可能かのうになっていた。ミニバンの利点りてんを享受きょうじゅしながら、従来じゅうらいの運転うんてん感覚かんかくをそのまま保持ほじしていられる。過渡かと期きのモデルとしては、理想りそう的てきな仕上しあがりだったのだ。

ホンダはオデッセイを先頭せんとうに押おし立だてて、“クリエイティブ・ムーバー戦略せんりゃく”を展開てんかいする。CR-V、ステップワゴン、S-MXをたてつづけに市場いちばに投入とうにゅうし、脱だつセダンのラインナップを充実じゅうじつさせていった。

「オデッセイは、会社かいしゃの方針ほうしんとして開発かいはつされていたわけではない。レジェンドのV6エンジンを使つかったアメリカンミニバンの研究けんきゅうチームはあったが、資金しきん不足ふそくもあって解散かいさんしてしまう。しかし、チームの一員いちいんだった浅木あさぎ泰昭やすあき氏しは、その後ごも勝手かってにミニバンの開発かいはつを続つづけた。V6担当たんとうなのに直じき4エンジンを使つかったわけで、組織そしき上じょうはありえない、おきて破やぶりの行動こうどうである。もちろん上司じょうしは叱責しっせき（しっせき）したが、無理むりやり中止ちゅうしさせなかったところがホンダらしい。

「クビにはならなかったんですよね。黙認もくにんというか、つぶし切きらないという風土ふうどはありますね。まあ、冷ひや飯めしは食くいましたけど、覚悟かくごの上うえですから」
浅木あさぎ氏しはそう語かたっている。もともとF1のエンジニアだった浅木あさぎ氏しは、レギュレーションの中なかで最大さいだいの成果せいかを求もとめることを常つねに要求ようきゅうされていた。オデッセイがさまざまな制約せいやくを背負せおっていたことも、あるいは発奮はっぷん材料ざいりょうになったのかもしれない。

“ホンダはスポーツカーを諦あきらめ、ミニバンメーカーになってしまった”
そんなふうに言いわれた時期じきもあった。しかし、ミニバンという新あらたな世界せかいを切きり開ひらくのは、ホンダにとってスポーツカーと同様どうようのエキサイティングな挑戦ちょうせんだったのだ。

オデッセイのヒット以降いこう、日本にっぽんのミニバンはバリエーションを広ひろげ、独特どくとくの進化しんかをたどっていく。2000年ねんにホンダは5ナンバー枠わくに収おさまるストリームを発売はつばいし、コンパクトサイズの7人にん乗のりミニバンという新あらたなジャンルを作つくり出だした。トヨタのタウンエース・ノアはFFの新しんシャシーを得えてノア／ヴォクシーに生うまれ変かわり、良質りょうしつな乗のり心地ごこちと運動うんどう性能せいのうを手てに入いれた。日産にっさんエルグランド、トヨタ・アルファードといった大おおきくて豪華ごうかな上級じょうきゅうミニバンも人気にんきを博はくす。

軽自動車けいじどうしゃの世界せかいでもスズキ・ワゴンRやダイハツ・ムーヴなどのハイトワゴンが主流しゅりゅうとなり、ミニ・ミニバンともいうべきジャンルを作つくり出だした。日本にっぽんのファミリーカーの主流しゅりゅうはミニバンとなり、セダンの運転うんてん感覚かんかくを基準きじゅんにする必要ひつようは失うしなわれた。広ひろさと便利べんりさに慣なれたユーザーは、もう元もとには戻もどれない。

この20年ねんの間あいだに自動車じどうしゃの技術ぎじゅつは飛躍ひやく的てきな発展はってんを遂とげ、背せの高たかいミニバンでも驚おどろくほどスポーティーな運動うんどう性能せいのうをもつようになった。もう、過渡かと期きのミニバンは役割やくわりを終おえたのかもしれない。それでも、日本にっぽんのミニバン文化ぶんかの発展はってんと隆盛りゅうせいの発火はっか点てんとなったのは、間違まちがいなくオデッセイだったのだ。

富山とやま県けんの自動車じどうしゃディーラーだった光岡みつおかが自動車じどうしゃ開発かいはつ部門ぶもんを発足ほっそくさせたのは1979年ねんのことだった。原付げんつき免許めんきょで運転うんてんできるBUBUシャトルを皮切かわきりに、他社たしゃ製せいのクルマをベースにしたクラシックカーのレプリカモデルなどを生産せいさん・販売はんばいしていた。

1994年ねんに発売はつばいしたのが、ロータスセブンを模もしたゼロワンである。形かたちはクラシックだがユーノス・ロードスターのエンジンを搭載とうさいして信頼しんらい性せいを確保かくほし、内装ないそうも乗用車じょうようしゃライクな快適かいてき仕様しようだった。このモデルが1996年ねんに運輸省うんゆしょうから型式けいしき認定にんていを受うけ、光岡みつおかは晴はれて自動車じどうしゃメーカーとして認みとめられることになった。

2001年ねんには初はじめて東京とうきょうモーターショーに参加さんかし、スーパーカー然しかとしたフォルムのオロチを出品しゅっぴんした。最初さいしょはホンダNSXをベースにしていたが、市販しはんするときには自社じしゃ製せいのシャシーを採用さいようしている。ほかにマーチベースのビュート、ティアナベースのガリューなどを販売はんばいしている。

ホンダの活躍かつやくで、1980年代ねんだいに日本にっぽんではF1が大人気おとなげとなった。中なかでも一番いちばんのスターとなったのが、ブラジル人じんドライバーのアイルトン・セナである。哀愁あいしゅうを帯おびた表情ひょうじょうで女性じょせいからも人気にんきとなり、“音速おんそくの貴公子きこうし”の名なで呼よばれるようになった。命名めいめいしたのは、絶叫ぜっきょう中継ちゅうけいをしていた古舘ふるたち伊知郎いちろうである。

顔立かおだちとは裏腹うらはらにドライビングスタイルは攻撃こうげき的てきで、プロストやマンセルなどのライバルたちと激はげしい戦たたかいを繰くり広ひろげた。ホンダがF1から撤退てったいし、セナは1994年ねんシーズンからウィリアムズ・ルノーに移籍いせきする。

調子ちょうしが上あがらないまま迎むかえた第だい3戦せんのサンマリノグランプリで悲劇ひげきが起おきた。ポールポジションからスタートした7周しゅう目め、時速じそく312kmでタンブレロコーナーを直進ちょくしんし、コンクリートウォールに激突げきとつした。ヘリコプターで病院びょういんに運はこばれたが、約やく4時じ間あいだ後ごに死亡しぼうが確認かくにんされた。事故じこ原因げんいんは、今いまもはっきりとはわかっていない。

1993年ねんに8党とう連立れんりつの細川ほそかわ護煕もりひろ政権せいけんが成立せいりつし、自由民主党じゆうみんしゅとうは1955年ねん以来いらい維持いじしてきた政権せいけんを手放てばなすことになった。しかし寄より合あい所帯じょたいの内閣ないかくは結束けっそくを保たもつことができず、自滅じめつする形かたちで退陣たいじんに追おい込こまれる。1年ねん足たらずの短命たんめい政権せいけんだった。

跡あとを継ついだ羽田はた孜つとむ内閣ないかくは、さらに短みじかい64日間にちかんしか続つづかなかった。政権せいけんを取とり戻もどしたい自民党じみんとうは55年ねん体制たいせい下かで対立たいりつ関係かんけいにあった日本にっぽん社会党しゃかいとうと組くみ、首班しゅはんに社会党しゃかいとう委員いいん長ちょうの村山むらやま富市とみいちを担かつぐという奇策きさくに出でた。社会党しゃかいとうと新党しんとうさきがけの政策せいさく合意ごういに自民党じみんとうが乗のる形かたちだった。

第だい一いち党とうの自民党じみんとうが第だい二に党とうの社会党しゃかいとうをサポートするという変則へんそく的てきな政権せいけん運営うんえいで、次第しだいに不協和音ふきょうわおんが高たかまっていった。1996年ねんに村山むらやま首相しゅしょうが退陣たいじんして橋本はしもと龍太郎りゅうたろう内閣ないかくが発足ほっそくし、自民党じみんとう政権せいけんが復活ふっかつした。