ハコスカGT-Rを愛あいし続つづけることに「好すきだから」以外いがいの理由りゆうは必要ひつようなのか？

何なんらかのビジネスを行おこなうのであれば、「時代じだいに合あわせて自みずからを常つねにアップデートさせる努力どりょく」は必要ひつよう不可欠ふかけつなものとなるのだろう。写真しゃしん上じょうの荒井あらい正勝まさかつさんも、自身じしんが代表だいひょう取締役とりしまりやくを務つとめている会社かいしゃのビジネスにおいては、日々ひびさまざまな形かたちで「時代じだいに合あわせる努力どりょく」を懸命けんめいに行いっているはずだ。

だがビジネスではなく「趣味しゅみの領域りょういき」においては、時代じだいや他人たにんに何なにかを合あわせなければならない理由りゆうなどひとつもない。もちろん人ひとや社会しゃかいに迷惑めいわくをかけたり、害がいをなす行為こういはご法度はっとであろうが、そうでない限かぎりは、“時代じだい性せい”なんてモノをいちいち気きにする必要ひつようはないのだ。

ということで荒井あらいさんは、昭和しょうわ40年代ねんだいに作つくられた「ハコスカGT-R」こと、初代しょだい日産にっさん スカイラインGT-Rに今いまも乗のっている。

そのほかに、現代げんだい版ばんGT-Rである日産にっさん GT-Rの50周年しゅうねん記念きねん車しゃ「GT-R 50th Anniversary」も仕事しごとの付つき合あいで購入こうにゅうしたが、興味きょうみの対象たいしょうはもっぱら「昭和しょうわのGT-R」。現代げんだいのクルマが嫌きらいなわけでは決けっしてないのだが、どうしてもハコスカと同おなじように接せっすることはできないのだ。

荒井あらいさんが運転うんてん免許めんきょを取得しゅとくした1980年代ねんだい初頭しょとうにはすでに過去かこの存在そんざいとなっていたが、なぜか「昭和しょうわの車くるま」が大好だいすきだった18歳さいの荒井あらい青年せいねんは、1975年ねん式しき日産にっさん ローレルSGXを人生じんせい初はつのマイカーとして選えらんだ。その後ごは1960年代ねんだいのプリンス グロリアとダットサントラック、さらには1960年代ねんだいから70年代ねんだいにかけて販売はんばいされた510型がた日産にっさん ブルーバードを乗のり継ついだ。

そして富士ふじスピードウェイで「ハコスカGT-R」に出会であった。

「23歳さいでしたから、昭和しょうわ61年ねん（1986年ねん）だったでしょうか。富士ふじスピードウェイで行おこなわれていた走行そうこう会かいに、友人ゆうじんに誘さそわれて遊あそびに行いったんです。そうしたらたまたまハコスカGT-Rが走はしっていて、その音おとが凄すごかった。『なんだ、あのフェラーリみたいな音おとは！』ということで衝撃しょうげきを受うけて――まずはスカイラインGT-Rの“音おと”にハマってしまったんですね」

その頃ころすでにハコスカは「過去かこの車くるま」となっていたが、車くるま好すきだった23歳さいの荒井あらいさんゆえ、当然とうぜんながら存在そんざいは知しっていた。だが、まさかあんなにも素晴すばらしいエキゾーストノートを発はっする車くるまだとは知しらなかったのだ。

「最初さいしょは『L型がたエンジンでもあんな音おとがするのかな？』と思おもったのですが、よくよく調しらべたら、ハコスカGT-RはS20という2L直ちょく6DOHCエンジンを積つむ特殊とくしゅな車くるまであることがわかった。そのため、持もっていた貯金ちょきんを全部ぜんぶはたいて1970年ねん式しきの4ドアGT-Rを買かったんです。当時とうじの相場そうばが200万まん円えんちょっとぐらい。23歳さいにとってはかなり高たかかったのですが、今いまと違ちがって『買かえないぐらい高たかい』という時代じだいではありませんでした」

それからというもの、荒井あらいさんはハコスカGT-Rの魅力みりょくにハマり続つづけた。そして自身じしんでさまざまな部品ぶひんを注文ちゅうもんし、メンテナンスに励はげんだ。

「でもその当時とうじって、4ドア用ようの部品ぶひんをオーダーしたのに、なぜか2ドアハードトップ用ようの部品ぶひんが届とどいてしまうことも多おおかったんです。その一部いちぶはさすがに返品へんぴんして交換こうかんしてもらいましたが、『でもまぁそのうち使つかうこともあるかもしれないな』ということで、一部いちぶは返品へんぴんせず、そのまま手元てもとに置おいておいたんです。それが結果けっかとして後日ごじつ、大おおいに役立やくだったわけですが……」

手塩てしおにかけて育そだてた4ドア版ばんの初代しょだい日産にっさん GT-Rには18年間ねんかん乗のり続つづけたが、今いまから20年ねんほど前まえ、「どうしても譲ゆずってくれ！」と言いって聞きかない友人ゆうじんに売却ばいきゃくした。荒井あらいさんはその頃ころから初代しょだいGT-Rでのサーキット走行そうこうに没頭ぼっとうするようになり、サーキット専用せんようの個体こたいも購入こうにゅう。できればそちらのほうにお金かねをかけたい――と思おもったからだ。

そうしてサーキット走行そうこうに没頭ぼっとうするかたわら、「さほど程度ていどは良よくなかったけど」と荒井あらいさんは言いうが、とにかく、友人ゆうじんに譲ゆずったのとは別べつの4ドアGT-Rを入手にゅうしゅ。そちらは普段ふだん乗のり用ようとしても使用しようしている。

そんなある日ひ、「すごく状態じょうたいのいいGT-Rがあるんだけど、見みてみない？」と知人ちじんに言いわれたのが、現在げんざい所有しょゆうしている昭和しょうわ46年ねん式しき（1971年ねん式しき）の日産にっさん スカイラインGT-Rハードトップだった。

「どんな感かんじだろう？ と思おもって見みに行いったハードトップのGT-Rは……本当ほんとうに素晴すばらしいコンディションでした。旧きゅう車くるまって外観がいかんはそれなりに良よくても、よく見みると下回したまわりはサビていたり、変へんなところにジャッキを入いれたせいで、下回したまわりの一部いちぶがひん曲まがっている箇所かしょがあったりするものです。でも、この個体こたいにはそういった部分ぶぶんがひとつもなかった。本当ほんとうに“超ちょう極上ごくじょう”と言いえるベース車しゃだったんです」

塗装とそうだけは煤すすけていたため、ボディは昭和しょうわ46年ねん当時とうじの純正じゅんせい色しょくに塗ぬり直なおした。そのうえで、“誤あやま発送はっそう”の被害ひがいにあったものも含ふくめて、約やく30年間ねんかんにわたり地道じみちに集あつめ続つづけた当時とうじ物ぶつの純正じゅんせい部品ぶひんを使つかって「昭和しょうわ46年ねん当時とうじの個体こたいが、令れい和わの世よにタイムスリップしてきたかのようなスカイラインGT-R」を作つくり上あげたのだ。

そうして出来上できあがったKPGC10型がた（2ドアハードトップの初代しょだいスカイラインGT-R）は、あまりにも状態じょうたいが良よすぎるせいで、なおかつ「タイヤも当時とうじ物ぶつを履はかせているから」という理由りゆうもあって、公道こうどうやサーキットを走はしることはない。ハードトップは荒井あらいさんにとって、あくまでも趣味しゅみの品しなとして目めで楽たのしむためのものであり、実際じっさいに公道こうどうを走はしる際さいは、「あまり程度ていどは良よくなかったけど」という1970年ねん式しき4ドアGT-Rを使用しようしている。

だがしかし――いかに徹底的てっていてきなメンテナンスとレストアを施ほどこそうとも、今いまや初代しょだい日産にっさん スカイラインGT-Rが「古ふるい車くるまである」という事実じじつに変かわりはない。決けっして速はやくはなく、いわゆる安全あんぜん装備そうびの類るいもほとんどなく、クラッチは重おもく、ついでにステアリングも重おもい。実利じつり的てきな面めんのみについて言いうのであれば、令れい和わの車くるま以上いじょうに優すぐれている点てんはほぼないと言いっていいだろう。

それなのになぜ、荒井あらいさんは乗のるのか？ なぜGT-Rに乗のり続つづけ、そして保有ほゆうし続つづけるのか？

「なぜでしょうねぇ……」と、荒井あらいさんはまるで他人事たにんごとのように飄々ひょうひょうと言いう。そして、続つづける。

「それが好すきだから――という以外いがいの理由りゆうは特とくにないし、また必要ひつようでないような気きもします。車くるまだけに限かぎらず、私わたしは“昭和しょうわのモノ”が好すきなんですよ、今いまでも。仕事しごとではもちろん最新さいしんの機器ききやコンピュータなども駆使くししますが、私生活しせいかつにおいては『昭和しょうわの頃ころ、自分じぶんが好すきだったモノ』を使つかい続つづけても特とくに不便ふべんはないですし、人様ひとさまに迷惑めいわくもかかりません。……逆ぎゃくに伺うかがいたいのですが、『古ふるいけど大好だいすきで、なおかつ壊こわれてもいないもの』を、『今いまの時代じだいには合あってないから』という理由りゆうで手放てばなす必要ひつようって――あるんですかね？」

……考かんがえてみれば、ないかもしれない。

もちろん、例たとえば「家族かぞくなどを毎日まいにち送迎そうげいするための車くるま」「普段ふだんの用ようを足たすための車くるま」みたいな場合ばあいは、予防よぼう安全あんぜん装備そうびや燃費ねんぴ性能せいのうなどに優すぐれる「令れい和わの車くるま」へとアップデートさせるのがベターまたはベストなのだろう。

だが初代しょだいスカイラインGT-Rは「送迎そうげいのための車くるま」ではなく、「普段ふだんの用ようを足たすための車くるま」でもない。例たとえて言いうなら「これまでに何なん度ど読よみ返かえしたことか覚おぼえてもいないが、一番いちばん大好だいすきで、一番いちばん大切たいせつな小説しょうせつ」のようなものだ。

いくら時間じかんが経たとうとも、どれだけ世よの中なかの様相ようそうが変かわろうとも、その小説しょうせつ自体じたいの価値かちは――もしもそれが名作めいさくであるならば――いっさい変かわらない。そしてひんぱんに読よむわけではなく、むしろ本棚ほんだなに入はいったままの時間じかんのほうが長ながかったとしても、ごくたまに読よめば、ぐっとくる。涙なみだが出でる。

確たしかに、そんな本ほんを「発売はつばいから50年ねん以上いじょう経たったから」という理由りゆうで古書こしょ店てんに売却ばいきゃくしたり、あるいは廃棄はいきするのは馬鹿ばかげている。

好すきならばいつまでも手元てもとに置おき、本ほんであれば日焼ひやけや埃ほこり、虫むしなどに注意ちゅういしつつ、車くるまであれば機械きかい部分ぶぶんやゴム類るいなどのメンテナンスを行おこないつつ、たまに楽たのしめばいいのだ。

「時代じだい」など、知しったことではない。

（文ぶん＝伊達だて軍曹ぐんそう／撮影さつえい＝阿部あべ昌也まさや／編集へんしゅう＝vehiclenaviMAGAZINE編集へんしゅう部ぶ）