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終わらない戦争に悲惨な衝突…こんな悲しい時代だからこそ役立つ「哲学の本当の意味」(藤田正勝) | 現代新書 | 講談社(1/2)
2024.08.16

わらない戦争せんそう悲惨ひさん衝突しょうとつ…こんなかなしい時代じだいだからこそ役立やくだつ「哲学てつがく本当ほんとう意味いみ

明治維新めいじいしん以降いこう日本にっぽん哲学てつがくしゃたちはなやつづけてきた。「言葉ことば」や「身体しんたい」、「自然しぜん」、「社会しゃかい国家こっか」とはなにかをかんがつづけてきた。そんな先人せんじんたちの知的ちてき格闘かくとう延長線えんちょうせんじょうに、今日きょうわたしたちはっている。日本にっぽん哲学てつがく入門にゅうもんでは、日本人にっぽんじんなにかんがえてきたのか、その本質ほんしつ紹介しょうかいしている。
ほん記事きじ藤田ふじた正勝まさかつ日本にっぽん哲学てつがく入門にゅうもんから抜粋ばっすい編集へんしゅうしたものです。

世界せかい哲学てつがく」へのみち

日本にっぽん哲学てつがく意義いぎのひとつに、「世界せかい哲学てつがく」への貢献こうけんということがかんがえられるであろう。

そこでべたように、「世界せかい哲学てつがく」とはさまざまな哲学てつがくいとなみを統合とうごうした唯一ゆいいつの「哲学てつがく」をすのではない。それぞれの文化ぶんか伝統でんとうのなかで成立せいりつした哲学てつがくのあいだでなされる対話たいわいとなみ、あるいはこの対話たいわがなされる場所ばしょす。以上いじょうべたような特徴とくちょうをもった哲学てつがくとして日本にっぽん哲学てつがくはその対話たいわ場所ばしょでさまざまな貢献こうけんおこないうるのではないかとわたしかんがえている。

そのことを、現在げんざいわれわれとわれわれの時代じだい直面ちょくめんするさまざまな課題かだいとのかかわりにおいてかんがえてみたい。

現代げんだいにおいてわれわれが直面ちょくめんする問題もんだいとしてすぐにおもかぶのは、科学かがく技術ぎじゅついちじるしい発達はったつした、あるいはしつつあるしょ問題もんだいである。科学かがく技術ぎじゅつたしかにわれわれにおおくの利便りべんをもたらした。われわれはその恩恵おんけいきに生活せいかつかんがえることができない。しかしそのいちじるしい発達はったつ、たとえば遺伝子いでんし操作そうさや、からだ細胞さいぼうからクローン生物せいぶつつく技術ぎじゅつ開発かいはつなどは、あらためて生命せいめいとはなにか、人間にんげんとはなにかといういをわれわれにきつけている。また地球ちきゅう規模きぼでの環境かんきょう破壊はかい温暖おんだんは、自然しぜんとのかかわりをあらためてうことを必須ひっすなものにしている。

科学かがく技術ぎじゅつ発達はったつによって、われわれはわれわれのありかた根本こんぽんからえたとってよいであろう。たとえば本書ほんしょりあげた「自然しぜん」とのかかわりでえば、われわれは自然しぜんおそれ、自然しぜん共存きょうぞんするのではなく、自然しぜんをただたん利用りようするだけの存在そんざいとしてとらえるようになった。自然しぜん恩恵おんけいのなかできるのではなく、自己じこ欲求よっきゅうかぎりなく拡大かくだいし、それをどこまでももとめる存在そんざいになっている。「よりおおく、よりはやく」ともとめながら、しかし、われわれはそのようにもとめる意味いみ目的もくてきとをいだせないでいる。そのような仕方しかたでわれわれの足下あしもとおおきな空洞くうどうまれつつある。

もちろん最近さいきんになってはじめてそのような問題もんだいづかれたのではない。たとえばハイデガーは、戦後せんごはや時期じきにすでに、技術ぎじゅつ本質ほんしつをすべてのものを「役立やくだつもの」に仕立したてげてしまうところにていた。技術ぎじゅつは、自然しぜんから有用ゆうようせいすようにわれわれをそそのかし、われわれのうちにある欲望よくぼう際限さいげんのないものにする。技術ぎじゅつ支配しはいするところでは、かわはもはや生活せいかつのなかのかわであるのではなく、発電はつでんようのタービンをうごかすための水圧すいあつ水量すいりょうとしてあらわれてくる。「役立やくだつもの」になるのは自然しぜんだけではない。「人的じんてき資源しげん」ということばがはしてきしめすように、人間にんげんもまた「資源しげん」としてられるようになっている。つまり有用ゆうよう存在そんざいとしてられるようになっている。そのような自然しぜんの、そして人間にんげんのありさまのなかにハイデガーははっきりと「危機きき」をていた。