健康状態を、運動能力を、あるいはプロポーションを整えようと、特定の部位を集中的に鍛えようとする人は多い。しかし、そのようなトレーニング(ラフ筋トレ)は筋肉をガチガチに固くして、かえって身体機能を妨げてしまうことがある。
ラフ筋トレに変わり、武術家で運動科学者でもある高岡英夫氏が提唱しているのが「レフ筋トレ」だ。この記事ではそのレフ筋トレを生み出した革命的ともいえるトレーニング理論を、『レフ筋トレ 最高に動ける体をつくる』よりお届けする。
人間に必要なのは「レフパワー」だ
どんなにトレーニングを積んでも、筋肉が本来の機能を果たせなければ、よいパフォーマンスは発揮できません。そのことは以前の記事から明らかになったと思います。次に、鍛えぬいた筋肉がなぜパフォーマンスをダメにするのか、脳との関係のなかで考察してみましょう。
特定の筋肉(あるいは筋肉群)だけを集中的にトレーニングする人の意識は、もっぱら負荷がかかっている部分に集中的に向けられます。負荷が大きくなればなるほど筋トレは厳しいものになるので、その人は自分を鼓舞し、ある種の興奮状態に達して、ただひたすら筋出力しようとします。
このように、特定の筋出力のため、なりふりかまわず心身を動員して発揮されるパワーを、私は過去の著書で「ラフパワー(Rough Power)」と命名し発表しました。「rough」という英単語には「粗野で荒々しい」という意味があります。
野球、サッカー、陸上競技、水泳、氷上・雪上競技など、世の中には多種多様なスポーツがありますが、おおよそ1980年代半ばから2000年前後までの約15年間を頂点として、選手やコーチ、トレーナー達は、このラフパワーを高める筋トレ(すなわち、ラフ筋トレ)に邁進(まいしん)していたと言えます。
しかし、スポーツ競技で必要とされているのは、ラフパワーではありません。
競技の具体的な場面では、自分を取り巻く状況を十分に察知しながら、同時に絶えず、全身のパワーを時間軸に沿ってどのように合理的に発揮し、そのためには各部分をどう配置配列しつつ動かせばいいのか、潜在脳で瞬時かつ流動的に次々と判断し、正確に実行する必要があります。
しかも、その判断と実行は、周囲にいるチームメイトや、相手チームの各選手との関係をも考慮して行われねばならないのです。
「時間軸に沿った身体のすべての部分の配置配列」
「行動のタイミング」
「全身と部分の連動」
「パワーにおける力とスピードの配分」
「周囲の変化との対応」
などといった、膨大なファクターを考慮したうえでの顕在かつ潜在的な身体の統合操作は脳によってなされます。
したがって、現実の競技場面で優れたパフォーマンスを発揮するには脳の優れた統合的活動が必須不可欠であり、優れたプレーをしたいのであれば、脳の高度な活動と統合された状態で筋活動が行われ、パワーが発揮されねばなりません。
そのようなパワー、すなわち脳の高度な活動と筋力の発揮が統合され生み出されるパワーこそ、私が「レフパワー(Refined Power)」と名付けたものなのです。
この粗野で荒々しい「ラフ」に対し、精製され洗練されたという意味の英単語「リファインド(refined)」の、最初の3文字「レフ(ref)」を取った言葉です。そして、レフパワーを向上させる筋トレが「レフ筋トレ」です。